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親友と音信不通になったあと、実はネオ・スピリチュアルに思いっきり振り切ってた話【後編】

親友が音信不通になったあと、実はネオ・スピリチュアルに思いっきり振り切ってた話【前編】


ようこは、先にカフェに到着していた。ちょっと張り出してきたお腹をなんとなく隠して、「久しぶり〜」と、座っているようこに声をかけた。
ようこは相変わらずかわいくて、カラフルなワンピースがよく似合っていた。ちょっとだけ化粧が濃くなった気もする。今までようこはあんまり濃い化粧はしなかったから新鮮だ。
ドキドキしながら先にランチを注文し、「最近どうなん?」と切り出してみた。

「なんもかわらんで〜」
会話が続かないので、仕事はどうとか、旦那はどうとか、私が一方的に質問する形になった。
すごく居心地が悪くて、緊張した。
驚くことに、大きくなったお腹の私を前に、妊娠や子どもの話には一切触れてこなかった。私は一応、つわりで4ヶ月寝たきりだったこと、1月に産まれることを改めて報告したが、ようこは「そうかー」という、エビちゃんバリの棒読みだった。

相変わらずようこは可愛い。でも、今日目の前にいるようこは、どこかぼーっとしたような、目の焦点があってないような。なんだか目の前にいるのにすごく距離が遠い人に話しているように感じた。1時間半ほど自分中心にくだらない話をしたあと(子どもの話はもうしなかった)、カフェを出て、別れ際、
「また産んだら連絡するし、落ち着いたら会おう」
と言ったら、
「おー」
と言われた。ひとこと。

薄々、感じていたのが、ようこは実は子どもができなくて苦労しているのではないかということ。
そろそろ結婚四年目になるようこ夫婦。私は子ども嫌いだけど、ようこも若い頃から「子どもが欲しいと思わない」と断言していた。とはいえ、「私は子どものいない人生を歩む!」と断言するほど強い意志を持っていたわけではないし、ようこはまぁまぁしっかりとした家のお嬢さんなので、そのうち結婚し、時期が来たら子どもを持つものと考えていたのだろうけれど、それがうまく行っていないのではないか。そこに、さんざん「子どもが嫌いだ」と言い張りながら、夫や親の将来を考えて子どもを持つことを決断した私を、「なんだかんだ言ってお前も子ども産むんかい」と腹立たしくなったのかもしれない、と。

真相はわからなかった。けど、もう今回を最後にようこには連絡を取らないようにしよう。もしようこから連絡をくれたらその時はもちろん喜んで返事をするけれど、自分からはもうしないようにしよう。
多分私が何かしたか、私が妊娠したことが辛くて私ともう関わりたくないのかもしれない。これ以上なにかすると、ようこに失礼かもしれない。
言ってくれなかったけど、言えない辛い事情があるのかもしれない。


数ヶ月後、無事子どもが産まれた。子育ては覚悟していたよりも全然楽ちんで、仕事の方がよっぽど辛いなぁ、家族のために働く世の中のお父さんは本当にすごいなぁと思いながら子育てをした。
子どもを保育園に預け仕事に復帰し、妊娠を機に契約を切られたクライアントに怒りを覚えながらも新しい仕事も入ってきたりして徐々に元の生活に戻っていった。
ときどき、ようこのことを思い出して胸がぐぐっと苦しくなったが、考えないようにした。

あるとき、クライアントと打ち合わせの帰りにスマホでSNSをチェックしていたら、「知り合いではないですか?」というところになんだかみたことのある顔が出てきた。
口が乾いた。
随分化粧が濃いし、金髪に近い茶髪で目を見開いてアヒル口をしているけど、すごく似ている。ようこに。

「キラめきコンサルタント ようこ」

と書かれている、童顔に似合わない濃い化粧をした女性のアイコンを恐る恐るタップすると、出てきたのは、やはりアヒル口であごに両手のグーを当ててにっこりと笑うようこだった。
SNSのトップに固定された投稿にはブログのURLがあった。ブログを開くと、プロフィールには
「あなたの内にあるキラめきを開花させるエネルギーセッションで・・・(覚えてない)を導いて・・・宇宙からの・・・なんちゃらかんちゃら(覚えてない)・・・のようこです。ご縁に感謝!」
と書かれていた。
手が震える。
少しスクロールして、下を読み進めると

「ようこのキラめきセッション 1時間5万円」
「あなたの中のキラめきを見つけるエネルギーワークショップ 40分8000円」
「あなたの“キラめき”をみつける似合わせお買い物同行 2時間(価格は応相談)」
「キラめきコンサルタントようこがエネルギーを注入したバスソルト(アロマオイル入り) 1袋5000円」

などと料金表が書かれていた。
ほかにも、なんかいろいろと、長々と、「キラめき」とか「ラブな男性に愛されて・・・」とか「宇宙から・・・」とか「観音様の・・・」とか「浄化」とか書かれていたが、はっきりと覚えていない。
ブログには、この世界に入るきっかけとなった瞑想の師匠という男性(なぜか上半身裸)との2ショット写真や、最後に会ったときのようこと同じ目をした女性たちとの”合宿”での集合写真、「セッションご参加のお客様」の写真、一生懸命石を撫でて”何か”を注入している様子、化粧の様子を公開した動画やドアップのセルフィーなどがアップされていた。「キラめき〇〇1級」とか「エネルギー〇〇講師」とか、カタカナでよくわからない資格の名前が書かれていた。
目の前が真っ白になって、私は電車の中でマジで腰を抜かした。
「大丈夫ですか」と横にいたお姉さんが声をかけてくれたので、ハッとして自分で起き上がった。手から落ちて床に転がったスマホをサラリーマンの男性が拾って返してくれた。


最寄駅で降り損ね、ホームで戻る電車を待っている間、夫に連絡した。私がさっき見たことを話したがうまく伝わらず、夫にURLを送った。夫は、「これ、ヨシロー(ようこの夫)知ってるのかな・・・」と同僚を心配していた。
少し前にようことのことを相談した友人にも話した。「社会人になると友達が離れていくこともあるし、私が聞く限り、あんたが何かしたとは思えへんよ」と励ましてくれていたが、ようこのブログのURLを見て「あーなるほど、そういう系ね」とすごく納得していた。

ショックでそれ以上ようこの情報を確認できなかった私に代わって、夫と友人がブログをチェックしてくれた。
どうやら、
昔から可愛いと言われていたことがコンプレックスだった。普通のOLで一生を終わっていいのかと悩んだ。実はおじいちゃんが地域では有名な占い師?(祈祷師?まじない師?)のような人でイタコとユタのハーフのような人で、家にはいつも来客が絶えず、自分も手伝っている内に天から声が聞こえてきた。けど黙ってた。苦しかった。瞑想に通いだしたことがきっかけで、自分の本当の姿に気づいた。可愛い自分をもっとアピールして幸せを手し、それを多くの人に広めることが私の使命。今では神様からの声も聞こえる。自分を導いてくれる。OLを辞め、女性の魅力を開花させて悩む女性を救いたい
・・・のだそうだ。
日々、「エネルギー」や「宇宙」や「魅力開花」や「導き」や「浄化」や「女性性」(最近よく聞くわ・・・)などの言葉がブログに綴られていたらしい。
ブログの最初の日付は、数年前、私が「前回連絡を取ってから1ヶ月以上連絡を取っていなかったことにふと気づいた」ときの半年ほど前だった。


あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なるほどこういうことかぁ。

ようこは瞑想をきっかけにこういった世界に目覚め、講師の資格を取り、高額なセッション料を取って悩める女性を“幸せ”にしているのだ。

だからといって親友と音信不通になる理由はどこにもないが、まぁ一般的に考えてみると、今まで自分を否定し消し去って180度違う方向の人間になったのなら、これまでの友達なんて付き合うのがアホらしく感じるかもしないよね。
でも、骨の髄までスピリチュアルに傾倒しているなら、宗教のように良かれと思ってみんなに広めて回るだろうに、なんで私と音信不通に?真っ先に私に布教すんじゃないの?と思ったけれど、私の歯に絹着せぬ物言いで色々と正論でつつかれることを想像すると嫌だったのかもしれない。
また、ようこのSNSの友達リストには、学生時代からの“普通”の友人はほぼおらず、明るく飛ばした写真に怪しい肩書きの女性ばかりが友達リストにあったらしいので、今の姿は旧友には見せられないと思ったのかもしれない。
しかし、1時間5万円のコースとかもあったぞ?マジか? 旦那は知ってるのか? 「今日は福岡に出張です」とか書いてたらしいけど旦那にはなんて説明してるんだ? まぁ旦那はおっとりしているからあんまり興味なさそうではあるけども・・・。
とか、色々考えていたら、なんだかモヤモヤした気持ちがスカッと晴れた。

そっかぁ、そういうことか!

今まで自分を責めて、自分のしたことを振りかえり後悔し、それでも答えが出ず、高校時代から15年以上のあの濃い深い付き合いはなんだったのかと思い出すたびに頭がぐわんぐわんしたが、もうそんなことで悩むことは無くなる。2年以上、思い出すたびに心を締め付けていた問題が解決したのだ。

そっかぁ、あのようこがなぁ・・・。

なんとも言えない残念な悲しさが残ったけれど。


ちなみに、夫はその後もブログを見続け、エンタメの一つとして楽しんでいる。私にいうと傷つくので言えないが、言いたくてうずうずする内容で毎回万歳なんだそうだ。1日に何度も更新される「キラめきコンサルタントようこ」さんのブログを、たま〜に開いて読んでは私に話したそうにニヤニヤしている。

あれからさらに3年以上は経ったが、私はあれ以来一度もようこのSNSやブログを見ていない。ブログ読者である夫によると、ようこは変わらず夫婦円満で、エネルギーだのセッションだのがんばっているらしい。私が「子どもができなくて悩んでいるのかも・・・」と悩んでいたのはどうやらいらぬ心配で、ブログには子どものことにも何度か触れているが、欲しいとかできなくて困っているという感じではなく、子どものいない人生を楽しんでいるようだ。
本当のところはどうかわからないけれど。

ようこが、まさかようこが。
今考えても、胸の奥がチクッとはするけれど、
でももう、終わった話だしな。


※このお話は半分くらいフィクションです。実在の人物や名称、料金設定などは架空の設定です。

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