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宿は地域に生かされ、また地域を生かす存在。 ー「未来をつくる島ホテル」を見てー

先日、こちらの番組をタイからリアルタイムで見ました。舞台は、島根県隠岐郡海士町。
島の未来とともに歩むホテル。彼らが目指すものとは…? 


ホテルオープン前から一年弱の密着取材を経て、出来上がった番組。海士町には伺ったこともあるし、島の方々ともつながりがあるので、いち視聴者というよりはおこがましくも島側の視点で見ていたように思います。とても誠実で丁寧で見終わった後も温かな余韻が残る、そんな番組だったなと感じました。

番組を見て、わたしの印象に強く残ったこと。
ホテルにフォーカスを当てつつも、ホテル代表の青山さん、ホテルのスタッフ、島民、ホテル立ち上げに関わった関係者、島外からの宿泊客、
そして、「旅人」として11年ぶりに島を訪れた
松本 潤さん。
そのどれか一部分にフォーカスし切り取るのではなく、それぞれのまなざしや語られる言葉ひとつひとつに旅や観光の意味や意義、そして可能性が多面的に表れていたこと、またそれがいろいろな方々に伝わり届いたであろうこと、それが印象深く、わたしが番組から感じ取ったことです。

以下、印象に残った言葉やシーンとともに。

経営者の視点

青山さんの言葉
「ホテルがホテルだけのものじゃない、という
ふうになってきている」


わたしはいつも、
宿は地域に生かされ、また地域を生かす存在だと思っていて、なのでこの言葉に強く共感しました。「ホテルの未来と島の未来は共にあり、ともに歩んでいく」という強い決意と覚悟。それは町からの多額の出資によりホテルが成り立っているという意味ではありません。ホテルをはじめとする観光産業が地域にとってどのような役割を担っていくべきなのか。その言葉の意味は、とても深く重い。


ホテルスタッフの視点

クリンネスチームの男性の言葉
「クリンネスチームは、エントウの舞台を
 ととのえる演出家」

※このホテルでは、ベッドメイクや清掃を担当するチームを「クリンネスチーム」と呼んでいる。

自分達の仕事は、ただ部屋をきれいに清潔にするだけではなく、お客さまの旅の舞台やワンシーンとなる大切な空間を創り、ととのえる「演出家」であると、その方は表現されたんですね。
その誇らしげな表情に正直痺れました。

「お客さまの笑顔がやりがい」は、観光現場ではよく聞かれる言葉です。間違いではないと思うし、それもひとつ大切なことだと思います。
でも、どうでしょう。
果たして、現場のスタッフたちはそれだけでがんばり続けられるでしょうか?しごとに意味や意義、本当のやりがいを見出せるでしょうか?
決して、それだけではないはず。
観光産業の現場で働く方々にどんなビジョンをみせてあげられるか、経営者には広い視野・視座と高い視点が必要であるし、何よりもそれを言語化して伝え、ともに共通認識として持てるか、そこが大事なのだなとあらためて感じました。
観光産業を「真に」あこがれの職業(給与処遇面も含めて)にしていきたいと強く感じた最も印象的なシーンでした。


島民の視点

試泊に来られた島民のみなさんの声
「島の人間として誇らしい」
「すごい島に住んでいるなと思った」
「まだまだこっちに住んでいても知らないものがたくさんあるんだなぁと思った」


島の商店の方が青山さんに話しかけるシーン
「(ホテル)だいぶできました?
 これからが大変よね」

島民の自発的な呼びかけにより、島民とホテル
スタッフが一緒になってホテル周辺の草刈りを
行い、旅人を迎える準備をした。


これらの言葉やシーンに観光のあるべき姿が体現されているなと思いました。ホテルは島外の人をもてなすための単なる箱ではないということ。
そこは地域に生かされ(または愛され)、生かす存在たる場所なのか。

観光は、そこに住む人、そこで働く人が自分達の地域を愛し心身共に豊かに(精神面だけでなく)暮らしていくための、あくまでも「手段」だと思っています。返していえば、その手段はなんだってよくて、観光じゃなくても農林水産業でも製造業でも、どのやり方でもいいのだと思う。
その土地土地に合ったやり方で、そこに暮らす人や地域自体をどうしていきたいかが大切なのだと思います。
ホテル側がそれを理解して地域で事業をする、それが島民にも伝わっているんだ、という確かな手触りをここで感じました。もちろん島民からの期待もプレッシャーも相当大きいと思いますが、観光の力を地域に還元できつつある証拠であるようにも感じました。


旅人の視点

松本 潤さん
「ないものはないを楽しめるようになった発見がうれしい」

松本 潤さんを港から見送る青山さん
「いってらっしゃい」
「またねー、じゃあね、いってきます」


旅人もまた旅先で新しい価値観に触れる、または自分の中に発見する、見出す。
来るたびに、こうした発見があるのは幸せなことだなと思う。
見た景色、味わった味、その時感じた風や匂い、光り、島の誰かと交わした言葉や笑顔。
旅先でのそれらは、新しい自分を見つけるトリガーになる。また、何かを感じ取った旅人の姿は、そこに暮らす人々にも自信と誇りを与える。
双方向の営みがそこにはある。海士町にはそういう場所や時間が、あちらこちらに散りばめられている。

また、二人の別れ際のやりとりに故郷に帰るような温かさ、ぬくもりを感じました。
ちょうど、政府でもこのような取り組みがされているのだけれど、すでにここに目指すべき姿があるような気がしました。


旅は双方向の知的な文化交流

ツーリズムは、外から来る旅人が新しい世界を発見する、刺激を受ける、癒されるというような単に一方通行の行為ではないと思っています。
番組でコメントをされた島外からのお客さまが、その景色や島の食材に触れ、口々に「素晴らしい」「また来たい」と話されていたように、
海士町はもちろん日本各地には魅力的な地域が本当にまだまだたくさんあります。

内外の人と人とが旅の様々なシーンで触れ合い関わり合うことで互いを理解し合ったり、外の人々が訪れることによって中の人々が、自分の地域に愛着や誇りを感じたりできる、旅は双方向の知的な文化交流なのだと思っています。

自分が旅をすることで、誰かや旅先の地域の力になる。わたしもそんな旅がしたいし、そういう仕組みのあるところへ行きたい。
誰か一部の人だけが喜ぶのではなく、外からの力がきちんと循環して、それが見える場所。
旅人自身もまた、自分の旅が地域に活力を与えていることが実感できれば、喜びや幸せを感じられる。そして、これからはそういうことも旅の新しい魅力、価値になるのではないでしょうか。

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