小説|みにくい梢と見えない瞳
病棟に沿って冬空へ茂る何十という並木の中で、ひときわ目立つ裸の木。樹皮には瘤がいくつもあり、みにくい梢には鳥も止まりません。だからこそ木はその少女の手のひらの温かさを今でもはっきりと覚えていました。
木に面した窓から病室の少女が見えます。これまで木は何人も入院患者を眺めてきましたが、木肌へ触れてくれたのは少女が初めて。木は嬉しく思いました。たとえそれが少女の両目を覆う包帯のおかげであったとしても。
日夜、木は少女の病室の窓へ枝を伸ばします。なるべく近くで励ましたいと考えていました。少女が手術を控えていたからです。梢のみにくさを忌み嫌われてもかまわないと思えました。少女の目が治るのなら。
冬の夕。少女は包帯を取ります。大人に支えられながら窓を開けました。西日の香り。鳥影の響き。夕雲の味。暗闇で感じていたすべてが今は少女の瞳に映ります。少女は温かい手で触れました。贈られた光景の先端に。
ショートショート No.278
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