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人類の本性
最後の日に朝食は要らない。私の頭脳で愚かな人類を滅ぼす時が来た。マッドサイエンティスト? 狂っているのは私だけではなかろう。生まれたことが誤りさ。傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、怠惰。数えきれない罪に耐えきれず、赤ん坊は産声を上げる。善は罪を隠す衣でしかない。お前たちを解放してやろう。
意識とは何か。これまで科学が紐解けなかった謎のごく一部を、私は解明した。その知識を応用し、十五年の歳月をかけてつくりあげたこの装置こそが、人類を消し去る鍵だ。スイッチを押しさえすればいい。そうすれば人類はひとり残らず、ある思いを抱く。それが事実としか思えなくなる。「今日が世界の最後の日だ」と。
物理的に世界が滅亡するようなことはない。しかし、結果的に人類は滅亡するだろう。「今日が世界の最後の日だ」と悟った者はどう行動するか? 人類の生まれ持った性質が解放される。規則も法律も無意味になるからだ。騙り、奪い、殺し続けるだろう。ただ欲望のままに動くはずだ。自らの毒が自らの命を奪うのだ。
スイッチを押した瞬間、私は悟りました。今日は世界の最後の日なのです。人を恨んで何になりましょう。諸行無常、何もかも生まれては消える泡沫のようなものです。他者を慈しみましょう。人と人の間にあると思われている壁さえ、不確かで儚いものなのですから。さあ、お腹が空きました。朝食をいただきましょう。
小説 No.419
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