アラサーにこそハロプロは刺さる
学生時代から音楽は好きだった。
だけど「アイドル」というものには興味を持ってこなかった。
大人になった私は広告業界の末端の小さな会社であくせく働き、心身ともに酷く摩耗していた頃、モーニング娘。に出会った。
入社しては1年も持たずに次々と後輩が辞めていくキツイ会社で、私自身も誤魔化しきれない心身の不調を感じていた。
しかし家庭の事情から退職は出来ず、「壊れるまではやるしかない」と身体を引きずるように働いていた。
そんな時に出会ったのがモーニング娘。だった。
動画サイトを漁っていたら、どこから繋がったのかモーニング娘。のMVがオススメに上がってきたのだ。
モーニング娘。の全盛期はもちろんよく知っていた。
しかし当時(2017年)のモーニング娘。がどんな曲を出しているのかも、メンバーのことも何も知らなかった。そもそもメンバーが何人居るのかも知らなかったくらいだ。
だけど懐かしさと少しの興味も沸いて、私はその動画を開いた。
そしてモーニング娘。は次第に私に活力を与え、気持ちを支えてくれる存在になっていった。
自分よりもはるかに年下のメンバーたちが一生懸命にパフォーマンスするその姿に私は励まされた。
ここからはそんな疲れ切ったアラサーの私に刺さったモーニング娘。の曲を紹介したいと思う。
『What is LOVE?』
私が知っている最後のメンバーである道重さゆみさんがリーダーになっていた。その他のメンバーは誰一人知らない状態だった。
だけど私の中のアイドルのイメージを覆す、そのパフォーマンス力の高さにまず驚いた。
そしてさらに私を惹き付けたのは、少女たちのキラキラした若いパワーと、個性的な振り付け、アイドルらしからぬそのどこか達観した歌詞のギャップだ。
”たった一人のちょっとした正義感で世界が輝くよ
たった一人のポジティブなオーラから世界がポジティブ連鎖する”
愛だの恋だのトキメキだのといういかにもアイドルらしいものではなく、モーニング娘。はなぜか世界を背負い、人生や世の中の機微について歌うのだ。(もちろん愛とか恋とかの可愛い曲もある)
私よりもずっと年下の女の子たちが、腹筋にタテ線が入るほどダンスを鍛え、激しく踊りながらでもブレない生歌でパフォーマンスする歌唱力。
その姿を目の当たりにし、恥ずかしながら仕事に疲れたアラサーの私はとても励まされた。
サビ前に挟まれる
”What do you want?”"Is it necessary?"
という台詞。
自分は何を求めているのか。それは本当に必要なものなのか。
10ほど年下の女の子たちに問われる。
モーニング娘。にハマることになるキッカケとなった、今でも大好きな曲だ。
『セクシーキャットの演説』
次に紹介するのは、女子の「本音と建前」を美しい世界観で表した本作。
この曲はMVの人気も高く、セットや衣装を含めたビジュアルがとにかく最高。
そしてメロディーもサビで爆発的に盛り上がるような作りではないのに、聞けば聞くほど癖になる不思議な格好良さがある。
MVではメンバー達が各々に読書をしたりチェスやジェンガで遊んだり、ネイルをしたり、思い思いに過ごている。しかしその表情はどこかつまらなそう。
”出来ない言い訳 誰かのせいにして
「私悪くない」 そんな顔してる
本気で挑まぬ女の子”
そこに現れる猫に扮した3人のメンバー。
つまらなそうなメンバー達に対して余裕そうな表情で3匹の猫が歌う。
”行列に並んだら幸せになれるなら早朝から並ぶわ
でも結果だけを求めてるんじゃないことくらいは
私自身がわかってるわ”
楽しいふりして、周りに合わせて、本当にしたいことはそれじゃないのに。
流されているだけじゃ本当に幸せになんてなれない。
自分から動きなよ、と猫たちは茶化すように踊る。
そして後半にさしかかり”本気で挑めばいいんでしょ”と猫たちに対抗するメンバー達。
間奏を終えると、メンバー達は吹っ切れたように笑顔ではしゃぎ始める。
そしていつの間にか挑発されていたはずのメンバー達の方が、猫じゃらしで猫たちを弄び始める。
周りの目を気にしたり合わせたりするよりも、もっと自由に本気で生きてみなよ。
乗り遅れないように流行りを取り入れ、愛想笑いで頬を痛めていた20代を経て、私はこの曲からそんなメッセージを受け取った。
『人生Blues』
可愛いアイドルたちが歌う曲なのに、まるで歌謡曲のような「人生Blues」というタイトルはどうしても不似合いな印象を受ける。
だがしかしこれこそがモーニング娘なのだ。
少し怪しげなメロディーからこの曲は始まる。
”怖がるな 戸惑うな 躊躇すな 油断すな”と独特なリズムに乗せてこちらに忠告してくる。
そしてサビに差し掛かると「人生って」というフレーズに続けて、以下のような歌詞が出てくる。
”なんとも無理な場面から
なんとかするからなんとかなる”
最初に聞いた時はなんて当たり前のことを言っているのだ、と思った。
モーニング娘。の別の曲「TIKI BUN」には”寝不足は寝るしかない”というフレーズがある。なんと当たり前のことか。
これは誉め言葉だが、つんく♂さんの歌詞はどこかぶっ飛んでいる。
しかし本作に関しては視聴回数を重ねるごとに感じ方が変わっていった。
状況が行き詰まったり、悩んだりしたとき、自分自身に「なんとかなるさ」と言い聞かせて気持ちをなだめることはよくある。
しかしだからといって状況を放置していたら、なにも改善はしないのだ。つまるところ自身が状況を好転させようと努力するからこそ、初めて「なんとかなる」ものなのだ。
「なんとかなる」という言葉は決して諦めではなく、「なんとかする」という自身を奮い立たせるための言葉なのだと改めて気付いた。
普通のことかもしれないが、私にとってはまさに目から鱗のように感じた。
最後はこう締めくくられる。
”人生ってここぞっていう日があるんだね 前もってわかりゃいいんだけど
so 後になればあの時と気が付くもんだよね……”
そうそう、そうなのよ……。
きっと今後の人生ではより多くの「ここぞっていう日」がやってくる。
私はそのタイミングを無駄にしないように、躊躇せず、油断せず。
なんとかしながらやっていこうと思う。
唐突だけど、モーニング娘。の曲は「美少女戦士セーラームーン」に似ていると思う。
恋や友情に戸惑う普通の少女の顔も持ちながら、世界を守るため、人を助けるために戦うセーラームーン。
恋や友情を歌いながらも、世界や人生についても歌うモーニング娘。
セーラームーンは私達アラサー世代の女子にとって絶対的なヒロインだった。セーラームーンに憧れていたかつての少女たちは、きっと私と同じようにモーニング娘。に励まされると思う。
ぜひ聴いて欲しい。