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ビリヤニと五味 〜 最強魔法の正体

前回の「香り」の話に引き続き、今回は「味」の話です。何をもって味とするのかは考え方によっても分かれるのですが、ここでは舌で味わう味覚を「旨味」と「五味」に分け、まずは後者の「五味」について書きたいと思います。実は五味にも解釈がいくつかあるのですが、本稿では「塩味」「甘味」「辛味」「酸味」「苦味」に分類しています。

さて、この分類された5つの味ですが、実は優先順位は同じではありません。主役は「塩味」「甘味」のツートップ、とりわけ重要なのは「塩味」になります。脇役が「辛味」「酸味」「苦味」の3つで、それぞれの個性が主役を支えて全体に厚みや特徴を与えます。

美味しい塩加減は1%

ご存知の方も多いかもしれませんが、塩加減には美味しい基準があり、1%程度だと言われています。もちろんこれは体調や嗜好などの個人的な要素で多少前後するのですが、大体その辺りを狙いながら加減すると大外しはしませんので、おぼえて損はありません。

1%を計算するときは重量比で計算します。例えば米であれば、1カップ=180ccのコメはおよそ150gになります。水分がある場合はふたの有無や加熱時間、鍋の形状にも応じて水分が蒸発して減るので、その辺を加味しながら、味も見ながら調整しましょう。最初はレシピに従って味を覚えれば、次第に感覚で調整ができるようになると思います。

塩にはスパイスの効きや旨みの感じ方をブーストさせる効果もあります。塩をしっかり効かせたほうがビリヤニが美味しく感じやすくなるのは、これが大きな理由です。逆に塩味をあっさりさせながらも美味しいビリヤニが出せるのは、それなりの腕がある、という言い方もできます。

また塩は、精製塩と自然塩で舌に当たった際の塩味の感じ方が異なります。自然塩の雑味は塩の利き方を柔らかくしてくれるため、多少の過多を許容してくれます。「自然塩でだいたい1%」と覚えておけば、まずはいい感じの塩加減に近づけるでしょう。

甘味は岬くん

食事系の料理は基本的に塩味が主役ですが、その補佐役として甘味もとても重要です。特に米料理のおいては米本体に甘味があるので、炊き方でもその感じ方が変わったりします。塩味がキャプテン翼の翼くんだとしたら、甘味は岬くんといっても過言ではありません。

ところで、この南葛ゴールデンコンビが織りなすパスワークには名前があり、それは「甘じょっぱの魔法」と言います。砂糖醤油のような、二つの味が混じり合った状態ではありません。フライドポテト入りのパフェのように、甘くて美味しいものと、しょっぱくて美味しいものが交互に来ると、無限に食べられてしまうという、魔法がかった状態のことを言います。

これはビリヤニにおいてもよく当てはまります。甘めの具、しょっぱ目の具、米の味などの振れ幅があると、気づいた時には米の山が消えているのです。特にフライドオニオンのような野菜を凝縮させた甘味は、米や肉の塩気と良いコントラストを描きます。このツインシュートは、まさに魔法のように強力です。基本的に、この2人が試合の趨勢を制します。

酸味は「受け止め役」

カレーにおけるビンダルーなどと異なり、ビリヤニにおいては酸っぱい味を目立たせることはそんなにないように思います。少量の酸味は塩角を取って複雑さを足すことで味の厚みを増したり、甘味や油分などの重さを軽くするといった効果があります。単体の個性を考えると意外にも思えますが、脇役として主張の強い相手の個性を受け止める調整役を担います。

中心となるのはトマトやヨーグルトの酸味が筆頭になりますが、柑橘やタマリンドなどの果実の酸味を加えることもあるでしょう。いずれにしても酸を立たせるよりも他の要素の受け止め役として、あくまで他のプレーヤーを支えます。

この役割から考えると南葛メンバーでは森崎くんでしょうか。あまり目立つキャラではありませんでしたが、タイガーショットもカミソリシュートも受け止める実力者です。

辛味は自在

五味界の日向くんこと「辛味」は素材だけではなく、「辛い」という感じ方の種類も多岐にわたるため、まとめて語るのが意外に難しい要素です。しかしその強弱や好みの調整はシンプルで、特徴さえ知っていれば量や加熱具合の調整でOKです。

メジャーなのは胡椒や唐辛子の類になります。その他、マスタードシード/オイルやクローブ、シナモンも弱めの辛味として感じることがあります。山椒の痺れも辛味の一部として語られることが多く、フレッシュ系では加熱前のニンニクや生姜、大根やわさび・ホースラディッシュなども辛い要素になるでしょう。辛味の調整はその香りや風味の個性の調整とセットで考える必要があります。まぁ多くの場合は胡椒・唐辛子を考えておけばOKでしょう。

辛味は甘味や油の重さを切るような働きがあります。わかりやすい刺激で発汗と食欲を促しますが、入れすぎると食べられなくなる人もいますので、慣れるまでは控えめが良いでしょう。また、辛味は食べている間に蓄積するような特徴があるので、緩急で味を揺らす目的にはあまり適しません。少量でも甘味をしめる力があるので、辛いものが苦手でも分からない程度にほんの少し入れられると良い効果があります。

苦味は気付け

ビリヤニでは苦味を積極的に使うことはあまりありません。ゴーヤを使ってみたり、ターメリックやフェヌグリークの苦味が出る以外だと、焦げの苦味が出てしまったようなケースでしょう。

苦味は少量だと、味のトーンを落とすというか、落ち着かせるような効果があります。できればはっきりと感じない程度の苦味が望ましいと思いますが、基本的には積極的に狙う味ではないと思います。あえて南葛メンバーに例えるならば、ちょっとした泥臭さは石崎くんという感じでしょうか。

味の組み立て

五味バランスを考える上では、まずは塩でしょう。作り方に応じて、どこまでコメに塩を入れるのか。もっというと、具材の塩けで食わせるか、一様な塩けで行くかあたりをざっくりとイメージします。生米を炊く方式だと自動的に後者ですが、層にするのであれば考え所です。

次に入れたい甘味をイメージします。主には玉ねぎの量や火入れの具合ですが、他にもトマトやヨーグルトなどにも甘味があります。これらは同時に酸味も加えますので、その影響も考えて足し引きを考えます。この辺りは勘所が必要なので、何回かはレシピに従って感覚を養いましょう。慣れるまでは塩も甘味も多少強め、酸味は控えめにすると良いと思います。

この辺りを考える段に来ると、五味以外にも旨味を含めた具材や出汁についても同時に考えることになります。旨味に関しては別稿に譲りますがその個性や旨味の強さに応じて塩味・甘味・酸味を見直します。旨味が強いと塩味の分だけ押しが効きますが、他の味にもパワーが必要になります。


南葛メンバー縛りを入れてしまったがあまり、随分と時間がかかってしまいました。次はいよいよ出汁屋の本領「旨味」です。

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