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【仮面ライダーギーツ】吾妻道長に手を伸ばし続けた全49話

先の読めない展開と、魅力的なキャラクターで話題となった『仮面ライダーギーツ』
私にとってはリアルタイムで最終回を観た初めての仮面ライダーであり、メモリアル的作品となった。

今作ではメインの仮面ライダー達それぞれにTO…もといサポーターがついている。時にライダーを支援し、時に苦しめる彼らは、『仮面ライダーギーツ』という番組そのものの視聴者とリンクする存在でもある。実際、サポーター達のように「推しライダー」がいるという視聴者も多いのではないだろうか。
私も気持ちだけはサポーター。そして推しは仮面ライダーバッファこと吾妻道長だ。

吾妻道長は「全ての仮面ライダーをぶっ潰す力」を手に入れるため、デザイアグランプリに殴り込んだ肉体労働者の青年。元ヤン・ツンデレ・世話焼き・真面目・ツッコミ気質などベタな要素が役満で、ビジュアルもすこぶる良い大人気キャラである。

初登場時からなんとなく気になる存在であった道長。視聴時の実況ツイートは体感8割ほどが道長関連で埋まっており、道長に手を伸ばし続けた全49話であったと言っても過言ではない。
浮世英寿や桜井景和をはじめとする他のキャラクター達も好きだし、ストーリーについても語りたいことはあるが、とりあえず推しに関する情熱をぶつけさせてもらいたい。

【初期の道長】

物語序盤、デザグラ編の道長はツンツンしていた。他のライダー達と馴れ合わず、「勝つためなら手段を選ばない」なんてことも言っていた。特に「不敗神話」を更新し続ける英寿には当たりが強く、常に対抗心を燃やしていた。
初期の道長はセリフだけ見るとクールな一匹狼のようだったが、私は彼を「怖い、冷たい」と感じたことはほとんどない。表情や言葉の節々に「情」と「可愛げ」を滲ませていたからだ。
そもそも道長がデザグラに参加したきっかけは親友の死。そんな人間が情に熱くない訳がないのだ。神経衰弱ゲームで道長と手を組むことになった景和は彼のことを「ライダーとしても人としても距離が近い」と評しているが、物語が進むにつれこの評価がいかに的を射ていたかを思い知らされることとなった。景和が倒れそうになった時に駆け寄って支えようとしていたこと、一生忘れてやらないからな。

そんな道長も当初はもっと冷酷なライバルになる予定だったらしい。しかし演者の杢代和人に引っ張られた結果、良い奴感が隠しきれない愛されミッチーとなり、年齢も当初の想定より2歳ほど若くなったとのこと。演者の力ってすごい。

【不変の道長】

デザイアグランプリをリタイアした道長は怪しすぎる農園に転送されることに。死人のように横たわる道長の手をペロペロ舐めて「肥料」呼ばわりする老人が現れた時は、「ミッチーを推すのは修羅の道なんじゃないか…?」と思わされた。しかし、それは全くの杞憂であった。

吾妻道長、とにかくメンタルとフィジカルが強い。ジャマト農園でショッキング映像を見た直後でも元気におにぎりを食べ、運営に殴られて山に捨てられても生き延びた。そして邪悪ギャルことベロバを中心としたジャマト陣営に加入してからも「ブレない・媚びない・死なない」を守りながら「仮面ライダーをぶっ潰す」ために進み続けていた。亡くなった親友に化けたジャマトと2人で青春アミーゴを始めた時は流石に心配したが、最終的には「自分の親友はもうこの世界にいない」と受け入れた上でしっかりジャマトを利用していた。
もちろん、全く動じていない・傷ついていない訳ではないと思う。それでも動揺や傷を意地と強がりで覆って「不屈の男」として振る舞うことができる道長は十分すぎるほど強い人間だ。

英寿達と対立したりリアリティーショーに参加できなかったりと寂しさを感じる場面も多かったが、立ち位置が変わってもブレない姿勢を貫く姿を見て道長のことが更に好きになったのもまた事実。「敵陣営なのに無限に好感度が上がっていく」という摩訶不思議な現象が日本全土を覆った。

【最強の力を手に入れた道長】

なんだかんだで「全ての仮面ライダーをぶっ潰す力」を手に入れた吾妻道長。親友を苦しめたライダー達に復讐するのかと思いきや、彼が行ったのは「デザグラ参加者達から仮面ライダーの力を奪い元の世界に帰す」ことだった。邪悪ギャルと共に世界の頂点に立った割には平和的な施策である。とても魔王とは呼べない。

道長のデザグラ参戦のきっかけは「親友の死」だが、彼の目的は復讐ではない。親友と同じ目に遭う人が出ないよう、デザイアグランプリ(人間の欲を煽る大会)と仮面ライダーの力(欲を叶えるための手段)を消し去ることだったのだ。自分も親友を喪ったのに未来の犠牲に目を向けて行動に移せる道長は強くて善良な人間だ。しかし「犠牲をなくすために庇護対象の力を一方的に奪う」ことが必ずしも正しいのかと聞かれると素直に頷くことはできない。

道長「何も願うな。願うから不幸になるんだ。」

道長は「他者の生命を奪ってまで自分の欲を満たしたり、分不相応な夢を叶えたりするのはやめろ。日常の中の幸せを享受して生きていくべきだ。」と考えていたのだろう。その考え方自体は正しい。しかしそれを言葉で伝えることを放棄し、一方的に武力で分からせようとしたのは、道長の根底に「人間への諦め」があったからだと思われる。欲深い人間達に親友を殺された道長が人間の強さと善性を信じ切るのは難しかっただろう。実際、この世には弱くて愚かでどうしようもない人間がたくさんいる。それでも、「願うこと」を否定するジャマ神バッファは「諦めなければ願いは叶う」という今作のテーマから逸脱した存在である。神にも魔王にも向いていない道長は、統治者の座から降りることとなった。

【道長の成長】

創世の女神の真相を知り「デザグラを終わらせよう」と考えるようになった英寿は、同じ目的を持つ道長とタッグを組むことに。道長の善性と世話焼き気質を見抜いていた英寿は、すき焼きや共闘で積極的にコミュニケーションを取っていく。その甲斐あってか、徐々に角が削れていく道長。これまでも十分すぎるほどおもしれー男だった道長が、お茶目な一面や親しみやすさを出してきたらもはや敵無し。道長画伯の絵は視聴者の心に刻み込まれ、かわいい担当として順風満帆に愛されていった。そして我らが主人公・浮世英寿は「誰もが幸せになれる世界」を提唱。「願うこと」を否定し一匹狼を貫いていた道長にも、英寿と人間を信じる心が芽生え始めた。

しかし、ここで終わってくれないのが仮面ライダーギーツ。「不屈の男」として振る舞ってきた道長を大きく揺さぶる展開を運んできたのは「ライブ感の象徴」こと五十鈴大智。景和の姉・沙羅をジャマトに変え、そのジャマトを道長に倒させることで、景和と道長のメンタルに甚大なダメージを与えたのだ。
その結果、心が壊れてしまった景和は暴走。責任感の強い道長は1人戦い続けるが、罪悪感に苛まれ沙羅の幻覚を見るようになる。それでも「ケジメをつける」ために景和を連れ戻そうとする道長。「俺はギーツを信じている」という激アツセリフで説得を試みるも上手くいかない。
自分の幸せを捨てる前提で他者の幸せを求める道長と、自分の幸せが確保できていない状態で他者の幸せを願うことができない景和。対照的な2人がお互いを理解するのは難しい。拗れに拗れまくった道長と景和の関係性はもはや修復不可能かと思われたが…

景和「ありがとう。姉ちゃんのために。」
道長「俺が招いたことだ…悪かった…」
景和「俺の方こそ。今までみんなを信じられなくて、ごめん。」


道長は「対話」を避ける傾向にある。神経衰弱ゲームでチームを組んだ時も、仮面ライダーの力を奪おうとした時も、英寿を信じようと説得しに行った時も、道長は景和とまともな対話をしていない。「許されること」「理解されること」を求めない姿勢は潔くてかっこいいが、伝えるべきことを伝えずに相手の行動を強制しようとしても上手く行かないのは当然である。ボロボロになって戦う道長の姿に心を打たれた景和が歩み寄ったことで、ようやく謝罪の言葉を口にできた道長。「覚悟を行動に移すことも大切だが、言葉にしないと伝わらないこともたくさんある」というメッセージが伝わってくる名シーンである。

【道長の幸せ】

最終回、英寿は神となり神社で祀られる存在になった。そこに集まるのはみんなが自分の願いを書いた絵馬。平和になった世界で道長が絵馬に書いた願い事は「うまい肉を食う」であった。牛めしおにぎりやすき焼きなど肉を食べさせ続けた英寿の功績なのか、すっかり肉の虜となった道長。あまりにも素朴で等身大な願いが可愛くて思わず笑ってしまったが、この願いには吾妻道長の真髄が詰まっている。

デザグラ参加者・ジャマ神時代の道長は「他者の幸せを奪ってまで大きな願いを叶えるのではなく、身近にある幸せを享受しろ」という考え方をしていた。他者の小さな幸せを尊重する心を持っていた道長が、それを自分にも適用できるようになったのはあまりにも大きな一歩だ。自分の幸せを捨てようとしていた道長が、自分の生活をより良くする方向に舵を切ろうとしている。自分の日常の中にある幸せを大切にしようとしている。道長を推してきたサポーターとしてこんなにも幸せなことはない。

道長のTOことベロバは「ミッチーの不幸が見たい」と言った。確かに自分の幸せを投げ捨ててまで他者にお節介を焼く道長はめちゃくちゃかっこよかったし、桜井姉弟の件でメンタルブレイクした道長も正直可愛かった。それでも、平和な世界でうまい肉を食べている道長の笑顔に勝るものはない。日常の中の小さな幸せを抱きしめながら真面目に働く等身大の若者。49話かけてようやく掴んだ吾妻道長の本質は思っていたよりずっと「普通」でなんだか心が暖かくなった。

https://www.kamen-rider-official.com/finalstage/

ファイナルステージではうまい肉のためにデザグラ参戦することになるらしい吾妻道長。「本当にそれでいいの!?」と思わんでもないが、『仮面ライダーギーツ』を締め括る最後の祭りに期待したい。

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