街なか人間観察記|犬の枝と自転車
14:28 信号待ち
自転車が走ってきて、目の前で止まった。
なにしてるんだ??とそちらに目を向けた。
自転車に長めの枝が引っかかっていた。
小枝じゃなくて、よく犬と子供が持ち帰りたがるあの枝。くわえたままフェンスに突入しちゃうあの枝。あの太さ、あの長さの枝がなんともいえない良いバランスで引っかかっていたのだ。
…あぁ、いい枝見つけて持ち帰ろうとしたのか。美術系の方かな??
そんな想像はものの10秒で崩れた。
自転車主のお姉さんが、その枝を力任せに引き抜き始めたのだ。
あ、故意に持ってきたわけじゃないんだ。へぇ。まあそうだよねぇ。
ただ、そこで疑問が生じる。
なんでそのサイズの枝を引っかけたまま走ってきたの??
あ、走ってたら急に落ちてきたのか。へぇ。まあそういうこともあるよねぇ。
いや、それにしてはけがひとつしてないな??
二度見、いや三度見くらいした。嘘。凝視していた。逆にここで視線を逸らすことができる人はいないと思う。
枝はまだ引っかかっている。お姉さんが枝をバキバキと折りはじめた。スーツのおじさんが隣で固まっている。
手伝いましょうかの「て」が喉元まで上がってきた。しかし、ここは冷静に考えてみる。自分が枝引き抜く側になったとき、どの対応がベストか。
やめよう。見守ろう。
そうこうしているうちに、その枝はなんとか引き抜かれた。そのときを待っていたかのように信号が青へと変わる。
私も自転車も、そしておじさんも動き出す。
平和を保ったお姉さんに拍手。
14:43 ホール
ホールでなにかの学会をやっているらしく、コピペして増やしたのか、というくらいに同じ格好をしたサラリーマンがいっぱいいた。
ホールの受付には、黒いスーツのおじさんやお姉さんやお兄さんが8人くらい、とてもやる気などなさそうな顔で椅子の背にもたれかかっていた。
そこに30代くらいのサラリーマン3人組が通り過ぎる。求人広告に出てきそうな爽やかな顔をした3人。彼らも学会に来たのだろう。
すると急に受付の方の背筋が伸び、立ち上がり、目に光が宿った。
サラリーマン3人組は、受付をちらりと見て、爽やかな顔のまま通り過ぎていった。
ほんの一瞬のことだった。
受付の彼らの骨盤には人感センサーが埋め込まれていたのだろうか。