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落語(69)イエズス降臨
12月25日と言えばクリスマス。今や日本人にとっては、年の瀬の恒例行事として無くてはならないものとなっています。しかし、かつてキリスト教が弾圧されていた時代には、現在のように誰もが公然とイエスの誕生を祝福することは出来ませんでした。もし見つかれば捕らえられ死刑に…今回のお話は、そんな過酷な状況下でも命懸けで信仰を貫いた人々の物語です。アーメン…。
主水「(杖をつきながら)はぁ、はぁ…ようやく浅草まで来たぞ。確かこの辺りに、らい病(ハンセン病)の療養所があると聞いたのだが…一見した様子だと、いまいち判りかねるな。…お、ちょうどいい。あそこにいる子供たちに訊いてみよう。…すまない、童たち。ちょっと訊きたいんだがね。この辺りに、らい病の療養所はないかね?」
男児「え、らい病の?」
女児「ああ、それなら知ってるよ。こっちだよ(手招き)」
主水「ん?…ああ、案内してくれるのか。済まぬな。ただ、幾分ゆっくり歩いてくれぬか。おじさん、見ての通り脚が悪いんだ」
男児「お姉、ほら。おじさん、脚が悪いんだって」
女児「え?…あ、そっか。ごめんごめん。じゃ、ゆっくり歩くね」
主水「済まぬな。はぁ…はぁ…」
女児「あ、おじさん、ほら見て。あそこだよ」
主水「おお、あれが療養所か。いやあ、童らのおかげで助かったよ。…あ、そうだそうだ…(財布から)…これな、案内してくれたお礼だ。これで何か好きな菓子でも買いなさい」
女児「えっ、いいの?ありがとう。じゃあね、おじさん。さよなら」
男児「さよなら」
主水「(手を振りながら)ああ、さよなら。…さて、とりあえず行ってみるか…(入口の前まで行き)…しばらく」
司祭「ハイ、ナニカ御用デショウカ…?」
主水「あいや、突然に訪ねて相済まぬ。実は手前…(声をひそめ)…潜伏キリシタンなのだが、何でもここで信徒を匿ってもらえるという噂を耳にしたものでな…委細、相違ないな?」
司祭「オー、ソウデシタカ。トイウコトハ、アナタモ、クリスチャンデスネ?デハ、大丈夫デス。サア、ドウゾオハイリクダサイ」
主水「かたじけない。では、厚意に甘えて、失敬…」
司祭「サア、コチラへドウゾ。ソコヘ、オカケクダサイ。…ヨウコソ、イラッシャイマシタ。ワタシハ、ココノ神父デ、ジローラモ、ト言イマス。ヨロシク、オネガイシマス」
主水「ジローラモか、よろしく。手前は原主水。洗礼名はジョアンと申す」
司祭「オー、ジョアンサンデスネ。ワカリマシタ。トコロデ、アナタハ、トテモ脚ガ悪ソウデスガ、イッタイ、ドウシマシタカ?」
主水「うむ…実は手前、長年大御所(家康)に仕えておったのだが、このたび潜伏キリシタンであることが発覚してしまい、同時に駿府を追放されることと相なった。その際に見せしめとして両腿の筋と…(両手を見せ)…この通り、指を全部切られてしまったのだ」
司祭「オー、マイゴッド。ソレハ、ムゴイ…」
主水「それともう一つ…(頬被りを取って)…しっかりと額に十字架の焼き印を押されてしまった。これでもう、これまで通りの暮らしをすることは出来ない。それで、命からがら江戸まで逃げてきたというわけだ」
司祭「オー、ノー…(十字を切り)…主ヨ。コノ者ニ、ドウカ救イヲ、与エテ下サイ。アーメン。…ジョアン。アナタハ、神ノタメニ信仰ヲ、ツラヌキマシタ。安心シテクダサイ。アナタハ、カナラズ、救ワレルデショウ」
主水「かたじけない」
司祭「オー、ソウダ。今日ハチョウド、イエスノ御誕生ノ日デスネ。アトデ、私達ト一緒ニ、礼拝堂デ、オ祈リシマショウ。私達ノ礼拝堂ハ、スグソコニ、アリマス」
主水「それは有難い。今じゃキリスト教弾圧により、教会もすっかり見かけなくなってしまったからな」
司祭「クリスマスハ、クリスチャンニトッテハ、一年ニ一度ノ特別ナ日デス。コノ日ニアナタガ、ココへヤッテ来タコトニハ、キットナニカ、特別ナ意味ガ、アルハズデス」
主水「ふっ、そうかもしれないな。これもきっと、神の御加護であろう。今晩を楽しみにしているよ」
やがて、日が暮れまして…。
司祭「サテ、皆サン。今宵ハ、ヨウコソ礼拝堂ヘ、オ集マリクダサイマシタ。コレヨリ、御誕生ノ儀ヲ、始メタイト思イマス。ソノマエニ、皆サンニ、紹介シタイ人ガイマス。今日カラ、隣ノ療養所デ共ニ暮ラスコトニナッタ、ジョアンサンデス。カレモ非常ニ、信仰ノアツイ人デス。皆サン、ドウカヨロシク、オネガイシマス。デハ、ジョアンサンカラモ、一言ドウゾ」
主水「えー、皆の衆…あいや、皆さん今晩は。手前は元旗本で、原主水と申す。今も紹介があったように、洗礼名をジョアンと申す。まあ、どちらの名前で呼んでもらっても構わないが、以後何とぞ、宜しく願いたてまつる」
男児「あっ、おじさん。昼間、あたいたちに道を尋ねてきたおじさんだっ」
主水「ん?…ああ、あの時の童か」
男児「ほら、ここにお姉もいるよ。でもって、こっちがお父つぁんで、こっちがおっ母さん。うちは家族でキリシタンで、最近はずっとこの教会に通ってるんだ」
主水「おお、そうであったか。それはまた何かの縁だな。同じキリシタンの信徒として、以後末永くよろしく頼むよ」
男児「うん、よろしくね」
司祭「オー、ソウデシタカ。コレモキット、神ノ御導キニ、ヨルモノデショウ。主ハイツモ、ワタシタチノ、ソバニイマス。アーメン。…サア、ソレデハ皆デ、イエスノ御誕生ヲ、祝福シマショウ。…(十字を切り)…父ト子ト、聖霊ノ御名ニヨッテ。アーメン…。主イエス・キリストノ恵ミ、神ノ愛、聖霊ノ交ワリガ、皆サントトモニ…」
てなわけで、無事キリストの降誕祭も終わりまして、幕府の『お尋ね者』であったジョアンこと原主水も、このハンセン病療養所に匿ってもらうことにより、晴れて修道士としての第二の人生をスタートしたわけであります。
主水「茂吉さん、おはようございます。今朝はお身体の具合はいかがかな?」
患者男「ああ、ブラザー・ジョアン。おかげさまで、随分と楽になってますよ」
主水「左様ですか、それは良かった。でも、まだまだ無理は禁物です。いいですか、茂吉さん。この際、全ての苦難は神に委ねてしまえばよいのです。聖書にもこうあります。『何事でも神の御心に適う願いをするなら、神はその願いを聞いてくださるということ、これこそ神に対する私たちの確信です。私たちの願う事を神が聞いてくださると知れば、神に願ったその事はすでに叶えられたと知るのです』…と。茂吉さん、とにかく今は神に願うこと、神を信じることです。そうすれば、あなたは必ず救われます」
患者男「(合掌し)ああ、ブラザー・ジョアン。有難うございます。有難うございます…」
主水「お大事にどうぞ。…(別の患者に)…おキヨさん、おはようございます。今朝の具合はいかがかな?」
患者女「(辛そうに)ああ、ブラザー・ジョアン…私はもう死にたい…このまま一生、ここから一歩も外に出られないなんて…顔もこんなに変形してしまって…そんな人生、もう生きてても無駄でしょう…?」
主水「おキヨさん、大丈夫です。希望を失ってはなりません。聖書にもこうあります。『あなたがたの遭った試練は、みな人の知らないものではありません。神は真実な方ですから、あなたがたを耐えられないほどの試練に遭わせることはなさいません。むしろ耐えられるように、試練とともに脱出の道も備えてくださいます』…と。おキヨさん、安心して下さい。主はいつも、あなたの側にいます。苦しい時、辛い時は、いつでも主に寄り頼めばよいのです。よろしいですね?」
患者女「ああ、ブラザー・ジョアン。ありがたや、ありがたや。ありがたや、ありがたや…」
司祭「オー、ジョアンサン。アナタモ修道士トシテ、スッカリ、様ニナッテキマシタネ」
主水「ああ、ジローラモ。おかげさまで最近は、この務めこそが手前にとっての天命ではないかと思うのだ。波瀾万丈であったこれまでの半生も、全てはこの時の為にあったのではないかと。手前は残りの人生をこのまま修道士として生き、果てはこの地に骨を埋めることが出来れば、それが本望だと思っている」
司祭「オー、スバラシイデスネ。ゼヒ、ソノ志ヲ、ツラヌイテクダサイ。アナタハカナラズ、神ニ救ワレルデショウ…(十字を切り)…アーメン」
さて、そんなこんなで月日が経ちました頃、ある日突然に、このハンセン病療養所に思わぬ珍客が訪れてまいりまして…。
乞食「ごめんくださーい、誰かいませんかー」
司祭「ハイ、ナニカ御用デショウカ?」
乞食「いえ。実はあたし、この三日間何も食べてないものでして…」
司祭「オー、ソレハ、オキノドクニ…」
乞食「で、こちらの療養所には宣教師がいると聞いたものですから、何か食べ物を分け与えてはもらえないかと…」
司祭「オー、ワカリマシタ。ソウイウコトデシタラ、タベモノヲ、オワケシマショウ。神ノ愛ハ、スベテノモノニ、平等デス。デハ、チョットオマチクダサイ…(奥に向かって)…ジョアンサーン、タシカ食卓ノ上ニ、パンガアリマシタネ?アレヲコチラヘ、モッテキテクダサイ。…オ客サン、今タベモノヲ、モッテキマスカラネ」
乞食「ああ、左様ですか。有難うございます」
主水「お待たせ、ジローラモ。パンとはこれで良いのか?(パンを見せる)」
司祭「ハイ、ソレデ結構デス」
乞食「あっ、あなたは…!」
主水「ん?…はて、失礼だが、手前とどこかでお会いしたかな?」
乞食「あ、あたしですよ、あたしっ。ほら、原さまがまだ下総にいらっしゃった頃に仕えていた…」
主水「ん?下総に?…ああ、思い出した。お主は手前どもの家臣であった湯田ではないか」
乞食「そうですよ、その通り。いやあ、原さま。お懐かしゅうございます」
主水「そうか、湯田であったか。ときに、そのみすぼらしい風体は、一体どうしたというのだ?」
乞食「え?…ああ、これですか。いやあ、誠にお恥ずかしい話ではありますが、原さまの元を離れてからというもの、途端に生活が貧しくなってしまいまして…今じゃこの通り、無宿というありさまです。で、先ごろ、たまたまこの辺りに流れ着いてきましたところ、風の噂でこちらに宣教師が開いている療養所があると耳にしましたもので。それならば、何か食べ物を恵んでくれるのではないかと…」
主水「ああ、なるほど。そういうことであったか。よし、わかった。では、手前からこの宣教師に掛け合ってやろうじゃないか」
乞食「え、掛け合う?」
主水「うむ。…ジローラモ、この者はかつての手前の家来だ。見ての通り、今は大変生活に難儀しているようだ。この者がここまで落ちぶれてしまったのも、元はと言えば手前どもの宗家が滅びてしまったことが原因だ。そこでジローラモ。手前からお願いなのだが、この者を手前と同じように、この療養所に住まわせてやってはもらえぬか。無論、この者に関する一切の責任は手前が請け負う。ゆえにジローラモ、この通りだ。よろしく頼む(頭を下げる)」
司祭「オー、ワカリマシタ。ジョアンサンノ頼ミナラ、仕方アリマセン。デハ、コノカタヲ、コチラニ、迎エ入レマショウ」
主水「はっ、本当か?かたじけない。…おい湯田、聞いたか?お主もここで暮らして良いそうだ。よかったな」
乞食「え、いいんですか?うわあ、有難うございます」
主水「ただし、湯田。ここで暮らすということは、即ちここのしきたりに従うということだ。つまり、お主もこれを機にキリシタンにならねばならぬということだぞ。良いな?」
乞食「え?…ああ、はいはい。もうキリシタンでも神の使いでも、何にでもなりますので、どうかよろしくお願いします」
主水「よし、ではお主もいずれ洗礼を受けねばならぬな。そうなると、洗礼名は何が良いかな。うーむ、そうだな…あ、お主はたしか通称を又兵衛と申したな。ではその『又』を取って、マタイというのはどうだ。イエズスさまの十二人の使徒の中の一人と同じ名前だ」
乞食「え、マタイですか?…ああ、いいですね。湯田又兵衛、湯田マタイ。たしかに、自然な響きでぴったりだと思います」
主水「そうか。よし、ではこれで決まりだな。また洗礼の儀は追って行うとして、今日はとりあえず腹を満たして、それから身なりを小ざっぱりと整えるがよい。さあ、では中へ入りなさい」
乞食「はい、かたじけない。では、お言葉に甘えて…」
てなわけで、やがてこの湯田もここの教会で洗礼を受けまして、晴れてキリシタンおよび修道士となりました。そうして、かつての主君である原主水と同じように、ハンセン病患者たちの世話をしながら生活をしていくことになるわけですが…やがて二年も経ちました頃のある日のこと、宣教師たちに頼まれてちょいとした使いで表に出ましたこの湯田は、往来の一角で偶然にこのような高札(奉行所による掲示板)を目にします。
湯田「ん?なになに?…『定…キリシタン宗門之事、累年御制禁たりといえども、尚もって市中潜伏の疑いあり。不審なる者これ有れば、ただちに申し出るべし。褒美として宣教師訴人銀五百枚、修道士訴人銀三百枚、立ち帰り者訴人銀二百枚、同宿ならびに宗門訴人銀百枚』…か。と言うことは、例えば宣教師と修道士を密告したとすれば銀五百枚…五百枚あれば、当分は遊んで暮らせるなぁ。うーむ…」
この時、湯田は何やら良からぬことを思いついたようでして…果たせるかなその後、療養所及び教会には、密告を受けた奉行所の役人たちが抜き打ちで多数押しかけてくることになります。
司祭「(ミサで聖書を読んでいる)ソレカラ、イエスハ、弟子達ノ所ニ来テ言ワレタ。『マダ眠ッテ休ンデイルノデスカ。見ナサイ。時ガ来マシタ。人ノ子ハ罪人タチノ手ニ渡サレルノデス。立チナサイ。サア、行クノデス。見ナサイ。私ヲ裏切ル者ガ近ヅキマシタ』。イエスガマダ話シテオラレルウチニ、見ヨ、十二弟子達ノ一人デアル、ユダガヤッテ来タ。剣ヤ棒ヲ手ニシタ大勢ノ群衆モ一緒デアッタ。群衆ハ皆…」
役人「御用御用御用!南町だ、邪魔するぞ!」
司祭「オー、突然ナンデスカ、アナタタチハ?」
役人「先般、この療養所の中にキリシタン宣教師、およびキリシタン修道士、ならびに潜伏キリシタンがいるとの訴えがあった。知っての通り、幕府は目下のところ耶蘇(キリスト教)を厳格に禁じておる。だによって、該当する者あれば直ちに引ったてる。正直に申し出よ!」
司祭「オー、マイゴッド。コノ人達ハ、皆ハンセン病ノ患者デス。キリシタンデハ、アリマセン」
役人「ふーん、左様か。じゃあ、お主はなんだ。異国の者がここで何をしておる。…ん?見ればお主、十字架を身に付けておるではないか。さてはキリシタン宣教師だな?かてて加えて、手に持っておるこの書物は耶蘇の経典か。うーむ、許すまじ。この者を直ちに引ったてい!」
司祭「チョット、待ッテクダサイ!離シテクダサイ!」
役人「同じく、この者と同じ衣をまとっている者どもは、全員キリシタン宣教師として引っ捕らえよ!…さて、その他の者はどうするか…(見回して)…ん?お主、その額の十字は何だ。さては潜伏キリシタンか?お主、何者ぞ!名を名乗れ!」
主水「(落ち着いて)手前か。手前は、原主水と申す」
役人「なに、原主水?はて、何処ぞで耳にしたような…はっ、わかったぞ。お主、駿府で大御所から追放された元直臣ではないかっ。わっはっはっ、これは図らずもとんでもない掘り出し物を見つけたぞ。まさかこんな所に潜んでおったとはな。これは上様も大層お喜びになるぞ。えぇい、この者を直ちに引っ捕らえよ!」
こうして原主水および宣教師たちは、主水のかつての家臣であった湯田の裏切り行為により、あえなく御用となってしまいました。彼らはその後、元和九年の十月十三日に、市中引き回しの末、札の辻でもって火あぶりの刑に処されました。加えて、その二十日後の元和九年十一月三日には、教会に出入りしていた隠れ信徒たちまでもが根こそぎ捕らえられてしまい、同じく札の辻において公開処刑されたということです。ちなみに、奇しくもこの二回目の処刑の日は、現在の太陽暦で言うところの十二月二十四日…つまり、クリスマスイブでありました。
*
女児「あれぇ?どうやら道に迷っちゃったみたい…ここはいったい何処だろう…辺り一面霧がかかってて、何にも見えないや」
男児「あっ、お姉。あそこにおじさんが立ってるよ。あの人に訊いてみようよ」
女児「え?…あ、本当だ。そうだね、あのおじさんに訊いてみよう。すいませーん、おじさん。ちょっといいですかぁ?」
主水「(振り返って)ん?どうしたんだい、童たち」
女児「あっ、おじさん、ブラザー・ジョアンだっ。どうしてここに?」
主水「ん?お主らが間違った方向へ行かないように、ずっとここで待っててあげたのさ」
女児「え、間違った方向?」
主水「左様。と言うのも、この先に二俣があってな。右へ行けば天の国へ通じるが、左へ行けば地獄行きだ」
女児「えぇ、地獄!?」
主水「左様。ゆえにそれを未然に防ぐべく、手前がここまで案内しに来てやったというわけだ。さあ、では一同、共に天の国へ参るぞ…(歩き)…ほら、見よ。さっそくイエズスさまが迎えに来てくれたようだ」
女児「え、イエズスさまがっ?…あ、本当だっ」
イエス「敬虔な神の子らよ。私とともに天の国へ入るのです。死は終わりではない。あなたたちはこれから天の国へ入ることにより、永遠の命を手に入れるのです。さあ、わかったのなら私の後についてきなさい(飛ぶ)」
女児「あっ、イエズスさま。待って!」
男児「ねえ、お姉どうしよう。イエズスさま、お空へ飛んでっちゃったよ…(自身の足元を見て)…はっ!わあ、凄い!あたいたちの身体も、宙に浮いてる!」
女児「わっ、本当だっ。…お父つぁん、おっ母さんっ、これであたいたちも、天の国へ入れるよっ。…あっ、イエズスさま、待ってー!」
イエス「いじらしい神の子らよ。肉体を離れたあなたたちには、もはや不可能なことは何もない。では、私から尋ねよう。宙に浮いている今の気持ちはどうだ?」
女児「はいっ、イエズスさまっ。これが本当の、天にも昇る気持ちです」
《お断り》この物語は、江戸時代初期に実在した原胤信の生涯をもとに、一部フィクションを織り交ぜて構成しております。