心が落ち着く朝の過ごし方~コーヒーを淹れるまで~

 みなさんはどんな時にコーヒーを飲むでしょうか?
 どうにも眠気が取れないとき、なんとなく苦いものを口に入れたいとき、待ち合わせの合間に、どうしても寝るわけにはいかないとき。
 様々なシチュエーションで飲まれているコーヒーですが、近頃はお家でコーヒーを淹れるという人も増えています。
 少しでもゆったりとした時間を過ごしたかったり、せっかく飲むものだからもっと美味しいものを淹れたくなったり。自分で淹れたコーヒーは特別な時間を与えてくれたりもします。
 今回はそんなコーヒーを淹れる手順とコーヒーが出来上がるまでの素敵な時間について描いた作品をお届けしようと思います。
 
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 おいしいコーヒーを淹れる秘訣は鮮度です。

 鮮度の良いコーヒー豆はそんなに高級なものじゃなくったって、しっかりとコーヒーらしい苦味やなめらかな舌ざわり、そして素晴らしい香りを届けてくれます。

 私はそんなコーヒーを飲みながらソファの上でゴロゴロするのが大好き。一緒に住んでいる猫のモネも一緒にゴロゴロします。

 ゴロゴロするときに大事なのはコーヒーのお供。お休みの朝のコーヒーには甘いものが欠かせません。

 なので私の休日の朝はフレンチトーストづくりとコーヒーを淹れないことには始まりません。

 今日は機嫌がいいのか、朝から私の足にじゃれつくモネを横目に私はキッチンの前でフライパンを握りしめます。なんの変哲もないちょっとテプロン加工がされているだけの二千円ちょっとのフライパンですが、意外としっかり働いてくれています。

 モネが横でミャオミャオ鳴いていますが私はフレンチトーストを作り上げなくてはいけません。モネ用のお皿にキャットフードを入れてから再びキッチンの前に立ちます。

 ボウルに牛乳と卵を入れて、しっかり混ざったところで耐熱皿に流し込みます。そこに食パンを入れていい感じに染み染みになるように一分くらい待ちましょう。

 そのあいだに私はコーヒーを淹れる準備を始めます。コーヒー豆の入った缶を棚から取り出して15gくらい取り出したら、さっそくミルで豆を挽き始めます。

 ガリガリガリガリ。ガッ。ガリガリガリガリ。

 手挽きにミルなのでちょっと時間はかかりますが、私はコーヒーを作ってるって感じがして何となく好きです。

 さて、ミルでコーヒー豆を挽き終えた頃には食パンはすっかりひたひたです。それではひたひたになった食パンをとろとろの熱々にしてしまいましょう。

「あっ、そういえば」

 コンロをひねる前にふと思い出しました。

 ずーっと何かが足りない気がしていたんですが、そうです。音楽が足りないのです。

 私はすかさずスマートスピーカーに声をかけて音楽を流してもらいます。スピーカーから流れるのはアコースティックのチルミュージック。声をかけるだけで好きな音楽が流れるだなんて良い時代になったものです。

 時代の進歩に感心しながらフライパンを弱火で熱していき、その上に前もって小さなブロック状にしておいたバターを一粒落とします。

 フライパンを傾けて表面にコーティングするように溶けたバターを転がしていきます。うん、まろやかな良い匂い。

 火は弱火のままでいよいよ食パンを焼いていきます。ひたひたになった食パンは熱するとプチプチと音を立ててキッチンをミルキーな香りで満たしていきます。この時がフレンチトーストづくりで一番幸せなひと時です。もちろん食べてるときも幸せなのですけどね。

 フレンチトーストで難しいのは焼き加減。あんまり焼きすぎると硬くなってしまいますし、火が通っていないとただのひたひたの食パンになってしまいます。まあそう言いながらも時々焼きすぎてしまうので、こまめに食パンを持ち上げて焼き加減を覗いてみることにします。

「ふむ。良い感じですね」

 焼いているときの音もプチプチからジュージューに変わって、ぺたんと裏返すと、いかにもおいしそうな焼き目が顔を覗かせます。ああ、美味しそう。ここまで来たらほとんどできたも同然です。

 ひっくり返した裏面は水分が飛ぶ程度にさっと火を通したら残りは余熱で温めていきます。ではその間にコーヒーをドリップしていくとしましょう。

 まずはドリッパーとコーヒーサーバーを取り出して、ドリッパーにフィルターをセットしていきます。ちなみにわが家のドリッパーはよくある台形のもの。フィルターは継ぎ目の部分を折り曲げてからセットするのが大切です。

 そしてさっき引いたお豆の粉をさらさらとフィルターに流し込んでいきます。もうすでにとってもいい香りが漂ってきてこれだけで幸せになれそうですね。

「みゃおみゃお」

「あら。モネさん、もうご飯食べちゃったんですか?」

 再び私の足に顔を寄せてくるモネさん。モネさんはびっくりするほど早食いなのでいつもこんな感じになってしまいます。私はまだ作り終えてすらいないというのにね。

「ほら、お湯が跳ねるといけないからじっとしててね」

「みー」

 モネさんは賢い猫なので私が行ったことの2割くらいは聴いてくれます。2割を「たったの」と思う人もいるかもしれないですけど、10回話しかけて2回も可愛らしい声で返事をしてくれるというだけでモネさんは余りある幸福を与えてくれるのです。ただいるだけでもこんなに可愛らしいというのに、気まぐれに返事までしてくれるなんてこんなに素晴らしいことは世の中にそうそう転がっていないんじゃないでしょうか。

 さてさて、モネさんに癒されたところでいよいよコーヒーのドリップを始めていきます。暖めておいたドリップ用のケトルを持ってコーヒーの粉にゆっくりとお湯を注ぎます。

 コーヒーを淹れる時に大事なのはちゃんと蒸らしてあげることです。なんでもかんでもせっかちになっていては折角良いはずのものも残念な感じになってしまいます。大切なあの人との関係も、モネさんとののんびりなひと時もちょっと待ってみることが大切かもしれませんね。

 蒸らしの時間は豆の種類や挽き加減なんかでも変わったりしますが大体30秒くらい待ってあげるといいと思います。お湯を少しだけ吸ったコーヒーの粉は少しずつぽたぽたとコーヒーの雫を落とし始め、コーヒーらしいアロマがふわりふわりと漂います。心地よいひと時ってこういう何気ない時間かもしれませんね。ゆったりとしたテンポのドラムとアコースティックの音が私とモネさんの時間をのびやかに刻んでいくようです。

 蒸らしが終わったらまたすかさずお湯を注いでいきます。

 ぷくぷく、ぷくぷく。

 新鮮なコーヒーの粉はお湯を注ぐと丸く膨らんでいきます。新鮮なコーヒーは香ばしいガスをいっぱい含んでいて、お湯を注ぐとコーヒーの粉をどんどん膨らましていくのです。

 いっかい、にかい、さんかい。

 注いだお湯がサーバーに落ち切る度に細く丁寧にお湯を注いでいきます。始めはゆっくりとちょっとずつ、回を重ねるごとにお湯の量を増やして大胆にコーヒーを抽出するのがおすすめの淹れ方ですね。

 コーヒードリップの時間は大体3分くらいを目安に抽出の速度を遅くしたり早くしたりしています。この部屋には私とモネさんだけなので淹れるコーヒーは一杯だけ。たまにモネさんもコーヒーが飲めたらなあって思ったりもしますが、それはちょっと欲張りな願い事かもしれませんね。

 さてさて、そうこうしているうちにコーヒーが淹れ終わりました。

 フレンチトーストもばっちりできて、コーヒー良い感じに淹れることができました。フレンチトーストもコーヒーも奥が深い食べ物ですが、作ってみると意外と簡単なんですよね。いや、簡単だからこそ奥が深いってことかな。

「モネさん、いただきます」

 モネさんが水をぺろぺろしているのを横目に朝食を始めるとしましょう。

 まずはフレンチトーストをいただきます。フォークで刺した瞬間からトーストがふわふわなのが伝わってきます。

「んんーっ、すてき」

 どうしましょう。ふわふわでとろっとしてて、とーっても私好みに出来てしまいました。また今度同じように作ってこんなに美味しくできるかな。あんまりにも良すぎる出来にこれからもっと良いものができるか若干危ぶまれますが、まあ今それを気にしてもどうしようもありませんね。今はこの美味しすぎるフレンチトーストを楽しむとしましょう。

 甘いものをお口に入れるとついつい苦いものが欲しくなります。このコーヒーはそんな人におすすめな一杯にしたつもりです。

 使った豆は近くのカフェで買ったもので、店内で焙煎しているだけあって鮮度が豆の状態がすごく良いので気に入っています。今はそうしたカフェの豆をネットで取り寄せられたりもするので本当に素晴らしいなあって思ったりします。

「うん、悪くないかも」

 恐る恐る口に入れてみましたが割と狙った通りの味が出せました。ようやくドリップも板についてきたかもしれません。まあまだまだコーヒー名人には程遠いのですけれど。

「ほら、モネさんおいでー」

「なー」

 モネさんがこっちを向いていたので手を広げて招いてみましたが、モネさんは私の前を横切って窓際で日向ぼっこを始めてしまいました。こんなことは日常茶飯事なのですが、そんなモネさんも素敵に思えてくるのだから困ったものですね。もう手遅れかも。

「モネさん、今日は静かだねー」

 私とモネさんだけの部屋。ちょっと前まではもう一人住人がいたのだけど羽が生えていなくなってしまいました。

 ああ、コーヒーが美味しい。やっと心からこの一杯を楽しめるようになった気がする。

 今度は何を作ろうかな。

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 これからしばらくはコーヒーに関するお話を短編形式で投稿していく予定です。

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