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耳の遠い父の地獄耳。

私の父、83歳。耳が遠い。
子どもの頃のおたふく風邪が原因で、もともと右耳が聞こえていない。
そのうえ、老人性難聴で頼みの左耳も今や危うい感じだ。



まだあったんかいね、のお店

先日、新しい補聴器の購入を検討するために、ある補聴器専門店に出かけた。
今使っている補聴器は2代目で、初代と同じく、メガネ屋さんの補聴器部門で購入したモノだが、父の聴力ではもう音量MAXでも聴こえない補聴器だった。
そこそこいいお値段なのに、、、。

今回は、今通っている耳鼻科の先生のご紹介の補聴器専門店。
先生からご紹介いただいたお店は、失礼だが聞いたことのない店名。
父は何も言わないが、母は「そんなお店、大丈夫なん?」
母は聞いたこともないお店より、補聴器も扱うメガネチェーン店のほうに信用が置けるらしい。
2代目は購入してまだ3年、「まだ新しいのに、もう買うんね、、、」とそこも気に入らないご様子。

ここはGoogle先生に訊いてみましょ。
「このお店、昔からあるみたいよ。」と私。評価も悪くない。
地図を見た父は「なんか昔から補聴器ゆうて看板があったのう。」と。
「ああ、黄色い看板ね。まだあるんかいね。」と母。
Google先生はまだあると仰せですよ、と私。

早速、予約を取り、三人で出かけることにした。

期待して、いざ!

父は分かりやすい性格だ。
耳鼻科でご紹介をいただいてからずっと、パソコンでそのお店のホームページばかり見ているのだ。
口には出さないが、今度の補聴器に相当期待している父、、、。

子どもの頃から耳にはコンプレックスを持っていたに違いない。
私が父の片耳が聞こえないと知ったのは大学生くらいの頃で、それまでは全く知らなかった。
負けず嫌いで見栄っ張りな父。
耳が不自由なことをハンデと思いたくない、父らしい秘密だったのだろう。

そんな父の様子を見て、2代目を諦める気になった母。
「聞こえんと認知症にもなりやすいらしいわ。少々高くてもええけん、お父さんに合う補聴器があったらええよねえ。」
すっかり改心したご様子。
そうよ、お父さんは野菜の苗と肥料しか買わんでしょ。お母さんの洋服の散財に比べたら安いもんでしょ!(私の心の声)

みんなの期待を一身に背負う”黄色い看板のお店”、いざ突撃!

Kさん

お店の中は、外観を裏切らない昭和のソファーがドーンと置いてある受付。
この受付では【一見さんお断り】、いや、一見さんだったら素通りして帰る雰囲気。
どうぞどうぞと奥へ通され、なんだか壺でも買わなきゃ帰れない、それほど奥へ通された。
その奥には、学校の放送室のような小部屋があり、ヘッドフォンが幾つか、パソコンか数台、なにやら機械もコードまみれで。

そこで優しく迎えてくれたのが、認定補聴器技能者のKさん。
私一人だったら、もう壺買っちゃう。そんな優しさ溢れたKさん。
週の半分は、病院で補聴器を調整したり、来店が難しい方のところに訪問したりしているらしい。
なるほど、メガネチェーン店のようなキレイな店舗はいらない訳だ。

まず、今までの耳の既往症、聴力の状態、生活環境、生活リズムなどを丁寧に訊いてくださった。
その後、言葉のつかみ取りテスト。
言葉のつかみ取りとは、単なる聴力ではない、言葉が脳に伝達されて言葉としてつかめる力があるかどうかのテストらしい。
「こんなん今までしたことある?」と私。
「全部、初めて。」と母。
母お気に入りのメガネチェーン店ではしたことのない事ばかりらしい。
父の言葉のつかみ取りは、父の聴力にしてはかなりの高得点。
「早くから補聴器を使っておいでだから言葉のつかみとる力が鋭いんです。長年聞こえなくても補聴器の使用を躊躇っていらっしゃった方はこの力が弱いんです。聴こえは聴力だけではないんです。」と。

なるほどーーーー!
私も老人性難聴になったらすぐ補聴器します!!

もう、私と母はすっかりKさん信者になっていた(笑)

ハイテク!

Kさんは父の聴力に合う補聴器を選んで、「これをつけてみてください」と。
今から調整しますね!、とKさん。
お試し君を2代目の音(声で言うなら声色)に合わせる。
今まで聴こえていた音の特徴に合わせると、違和感なくストレスも無いとのこと。
(嗚呼、神さま仏さま、Kさま!)

次に、耳鼻科で調べた父の聴力にどんどん合わせていく。
高い音はここまで、低い音はここに。
例えるなら、メガネを作る時のよう。
メガネの度数を合わせるのに、看護師さんが滝廉太郎チックな丸メガネにレンズを足したり外したり。
「コレがあるのと無いのはどっちがいいですか?」と訊いてくるアレ。
まさにメガネを作るみたいに、補聴器をカスタムしていく。
そのカスタムは、補聴器とパソコンを繋いで操作される。

すご!!

そして、もう一つ。すごいハイテク機器が私たちの度肝を抜いた!

父、地獄耳になる

「補聴器も良いんですが、これもお試ししてみませんか?」

神さまkさまがご提案してくださったのは、壺、もとい、集音器だった。
父のように片耳しか機能しない人には重宝するという、8㎝くらいの楕円のペンダント型集音器。
父のお試し君とBluetoothで繋がるらしいのだ。

家電量販店で集音器も買ってみたことがあるが、さほど効果はなかった。
しかし、これは補聴器に直接繋がるって
!?

例えば、宴会で。
父は父の右側に座った人たちの会話が聞こえない。そこでこの集音器を父の右側のテーブル中央に置く。すると、右側の人たちの会話が父の補聴器にダイレクトに流れるのだ。

例えば、自転車で並んで走る。
今までは会話は出来なかったけれど、母が集音器を首にかけると、生活音は抑えて移動しながらも母と会話できるのだ。

例えば、テレビに。
今まで大音量でテレビを聴いていたけれど、集音器をテレビにつなぐ事で家族は大音量から解放される。

お正月とか大勢で集まる時、色んな音がごちゃまぜで、おそらく何も聞こえていなかったであろう父。
補聴器と集音器で、すこし便利に、すこし楽しくなるといいな。
最新の補聴器に出会えたこと、補聴器がこんなに進化を遂げていたこと。
なんだか一気に嬉しくなった。

その日、実家で父母と私たち夫婦と妹で夕飯を囲んだ。
テーブルの真ん中にハイテク集音器。
父との会話が久しぶりに弾んだ。
途中で、お手洗いに立った父。
その隙に、今日の素直に喜ばないへそ曲がりな父の様子などをあーだこーだとしゃべっていたら、、、

「みな、聴こえとるど!」

しまった!
今度から悪口言う時は集音器をOFFにしなきゃ!笑

それにしても。技術の進歩、アッパレです。


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