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「定価以下」は良いことでは無い




私はART作品を販売する仕事を17年続けている。

前回書いたこの記事を今一度お読みいただきたい。



作家作品はこの世で一つしかない故に、
常に上がるのが「転売」問題だ。



「転売」に関する考えも、作家によってかなり異なる。


上記のnoteを書いた際にも、色々な意見が飛び交った。


「概ね賛成」

「買って1年以内に売られたら寂しい」

「定価以上での販売はやめてほしい」




これと言った決まり事がないので、作家によってそれぞれ色んな考えを持っていることが分かった。



上で挙げた「定価以上での転売はやめて欲しい」という作家の発信は、良く見かける。



だが、この発想は、実は勿体ないと私は感じる。




日本人は特に、人が得することが嫌いだと言われている。

例え自分が損するわけでは無くとも。



もし、作家作品を購入し、即高額(例えば3倍の値段とか)で販売されていたら、それは明らかに転売だ。

怒って当たり前だ。



だが、そうじゃない場合。


例えば、自分が数年前に販売した作品が、定価より高く販売されていた場合。

ほとんどの作家は良い気分はしないと思う。



自分には一銭も入らないところで、誰かが自分の作品でお金を儲けている、と思ったら良い気分がしないのは当たり前だと思う。




だけど、「定価以下での販売なら許す」という考えは、本当に作家のためになるのだろうか。



作家作品は、今が最安値だ。

何故なら作家も腕が上がっていくし、認知度が広がれば、人気も出てくる。

そして、自然とお値段も上がっていく。



なのに、安直に

「定価以上での転売は禁止します」

とアナウンスしてしまって良いのだろうか?



例えば、フリマサイトやオークションに出すとしても、少なからず手数料はかかる。


店に委託で出せば、手数料はもっとかかる。



例えば、手数料10%のオークションで10万円で購入したものを言われた通りに定価で売ると、
お客様に入るのは9万円になる。


つまり、定価以下での販売の要請は、お客様に、

買った金額より確実に損しろ、

と言っているようなものなのだ。



また、私は、定価に拘る事で、
作家作品の価値を下げることにも繋がる事を懸念している。



例えば、自分が10万で販売した作品が、
1円スタート!や2万で即決!など、定価と比べ激安で投げ売り販売されたら、悲しくはないだろうか?


私は、自分のお店で販売した作品がそんな事になったら悲しい。



その作品を作った時の自分と今の自分を比べてみて欲しい。



作家として続いている人なら、同じタイプの作品を販売するとしたら、
今ならその時の定価で売ることは出来ないはずだ。



※画像はうちの店内



実は、作家作品を定価以下で売ることは、
作家の価値を下げることにも繋がる。



私も過去に、作品が好きで全く認知度も無い作家から作品を購入した事が何度もある。


が、その後その作家が大人気になり、
作品のお値段も上がって、全く手に入らないようになってしまった。



数年前自分が家を追い出され、一人で出産することになり、出産費用など支払うために、泣く泣く手放すことにした作品があった。


その作品を、知人に定価でオークションに出してもらったら、勝手に倍以上のお値段になってしまった。



そのような事例もある事を、少しで良いので覚えておいていただきたい。




当時販売したものが、定価より高く販売されていたとしたら、「定価以上で売るなんて…!」と思う気持ちももちろんわかるのだが、

自分の作品の価値が上がったことに気づいて欲しいとも思うのだ。

  



私は逆に、作家作品を値崩れさせたく無い。

作家の価値を下げたく無い。


本当は、「定価以下で販売してはいけない」などのART界の決まり事がきちんとフォーマットとして有れば良いなと思う。


残念ながら今はそのようなものは存在しないのだが。




私も昔は、「うちで◯◯円で売ったものが高く売られてる!」と怒っていたものだ。



でも、作家の未来を考えたときに、その考えは変わった。



ある時、うちでしか買えない作品が、貴重なものとして定価より高値で販売されていたのを見たとき、
初めての感情が湧き上がった。


「価値を分かって販売してくれていて、嬉しい」


と。




前回の記事と同様、賛否両論は否めない話だ。


でも、「定価」に拘りすぎると、大切なものを逃してしまうかもしれないと思い、
思い切ってこの記事を書いた。


どこかで、「一度自分の手から離れたもの」として、
見切りをつける事も大切なのだと思う。



作家にとって作品は、自分の子供や分身のようなものだとはわかっているので、
定価以上で販売されて悲しくなったり、悔しくなったりする気持ちもとても分かる。


でも、厳しい話になるかもしれないが、
値段をつけて販売した時点で、(二次利用など著作権を侵害されたりしていない以上)もう買ったお客様のものなのだ。


もし、自分の手を離れても、作品のその後に口を挟みたい気持ちが収まらないなら、
販売せず手元に置いておくしかないのだ。



難しい問題だし、文章にするにはかなりの勇気がいったが、こういう考え方もあるという事を知っていただけたらと願う。


また、これを読んで逆に気が楽になる作家さまがいたら良いなと思っている。



コルメ

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