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What is LOVE?

愛は毒だと誰かが言った。
摂り過ぎると死んでしまうからだとその人は答えた。
愛は薬だと誰かが言った。
毒と同じでも、時には人を癒すからとその人は答えた。
愛は薬物だと誰かが言った。
薬と同じでも、時には人を狂わすからとその人は答えた。
愛は酒だと誰かが言った。
薬物と同じでも、禁止されてないからとその人は答えた。

摂り過ぎると死んでしまう。
時には人を癒し。
時には人を狂わし。
それでも禁止されない。
酒と愛。
私が提供するのは愛か?
それともただのアルコールか?

その答えを見出せないまま、
疑問符に埋もれる頭の代わりに、
今日も私はシェイカーを振るうのだった。

完成したカクテルをグラスに注ぐ。
彩り豊かな液体がゆっくり流れ、氷が揺れてカランと音が鳴る。

客がグラスを手に取り、口を付けた。
味に気を召したのか、その客は言葉を発した。
呟くようにそっと、丁寧に言葉をカウンターに並べていくように。

君が提供しているのは、ただの酒だよ。
だって、酒は独りでも楽しめるものだろう?
一方で愛ってのは、独りじゃ楽しめないものさ。

子供に語りかけるような声だった。
だが、私の考えをいきなり読み透かしたその答えに
私は思わずむっとなって反発してしまった。

独りだと愛は楽しめないのですか?
例え独りであっても、自分本位であっても、
誰かを思うその気持ちは愛ではないのですか?

彼は笑みを崩す事なく再びグラスを手に取り、唇を潤して滑らかに答えを返した。

いや、独りじゃそもそも愛にならない。
それは一方的な恋でしかない。

恋???
独りだと恋で、2人以上だと愛になるのか???

頭の中を新たな疑問が飛び交った。

分からない。
私には恋と愛の違いが、そもそも分からない。

彼は再びグラスに口を付けて、更に笑みを溢す。
単純に私が提供したカクテルの味を気に入っているのか、それとも私が新たな悩みに困惑しているのを見透かして笑っているのだろうか。

別の客からの注文が入った。
私は思考を一度切り替えて、カクテル作りに集中することにした。

無数にあるボトル棚から、幾つかの酒を選んでシェイカーへと適量注いでいく。
シェイカーを何度か振る。
振り過ぎれば味を濁らせてしまうし、振るのが足りなければ上手く混ざり合わずに別れた味になってしまう。

丁度いい塩梅を見極めて、グラスへと注ぐ。
カットしたレモンとミントを添えて、その客の手前へと提供した。

その客は両手で優しくグラスを包み込んで、そっと口を付けた。
その一連の所作は落ち着きを持った綺麗な所作で、まるで茶道のようだった。

とても美味しいわ。

音を立てずにグラスを置くと、その客はそう述べた。

私が喜んで頂けて嬉しいですと礼を言うと、その客は同じ物をもう一杯くれる?と注文した。
まだ、彼女のグラスはカクテルで満たされているのにも関わらずだ。

私はええ、と一瞥し、再び同じ工程でカクテルを作った。

そのカクテルは貴方へ。

シェイカーで振り終わり、グラスに注いでいる時に突如として客はそう言った。
もう既に支払いも終えている。客からの奢りだ。

ありがとうございます、いただきますね。

私がそう返すと、彼女は両の手で自分のグラスを持つと、カウンター側へ少し腕を伸ばした。

私もグラスを持って、彼女のグラスと乾杯をする。

これで2人になった。
だから、これは愛なのね。

彼女のその言葉に、私は思わずキョトンとフリーズ。
ピタリと固まった私を見て、彼女は愉快そうに笑った。
横で黙って聞いていた彼もまた、声を出して笑っていた。

やっぱり分からない。
愛だの恋だの、私にはまるで分からない。

私は動きを再開し、グラスのカクテルをグイッと一気に口へと流し込んだ。

その光景に2人は唖然としながらも爆笑していた。

……ただ、
今はこの分からない状態が心地良いかも。

そう思うことにして、私は浮かれ気分のまま、鼻歌混じりに仕事を再開するのだった。

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