白神美月から見た彼
痛みが伴う事で、ようやく生きている事を実感できるのだ。
貴方の事を考える度に私の胸が痛む。苦しくなって息がしづらくなる。
あぁ、私は生きている。私は生かされている。貴方への愛情が原動力となって、血と共に体内に巡って私の身体を突き動かす。
「嘘を吐くな。君は実に心無い人で、いつだって冷徹無垢じゃないか」
「いや、ひょっとしたら血も通わない、人ですら無いのかも知れないな」
貴方はそう言って、いつも私を突き放す。
私が血を流す姿を人一倍見ている癖して。
どうしたらこんなにも愛している事が伝わるのだろうか。
私の愛はきっと狂っていて可笑しいのだろう。
でも正しい愛なんて分からない。狂っていない愛なんて分からない。血肉を削らない愛を知らない。
貴方を愛しているから、貴方以外の全てに嫉妬してしまう。
貴方の目に映る景色を独占したい。貴方の触れる全てが憎い。貴方が発する言葉の全てを一日中耳から感じていたい。貴方の脈拍と体温に包まれながら私の一生を過ごしたい。
私、貴方の事が大好きよ。
私の身体を貫くナイフ。
そのナイフを硬く強く握り締める貴方の手。
貴方と繋がっているこの瞬間が堪らなく愛おしいの。
そんな私の気も知らず、ナイフは私の腹部を深く抉った後、勢いよく引き抜かれる。
内臓も筋肉も削ぎ落とされて体内に吹き出した。
私の血を浴びる貴方。
私とは正反対に黒く、何色にも染まらない貴方。
そんな貴方を赤く染めるのは私。
唯一、私だけが唯一、貴方を染められる顔料なのよ。
「貴方は気付いていないでしょうね」
独り呟くような私の声は掠れ、血と一緒に口から吹き出された。それでも彼には聞き取れたようで目を丸くしている。
「僕が気付いていない事って?」
彼はナイフを振り上げて、次に刺す箇所へ狙いを定めている。
「……秘密」
私は笑って答えた。
そんな答えなど、はなから聞くつもり無かったかのように、彼は私の喉元にナイフを突き刺した。