「ゆう龍」キャストコメント vol.6
虚空旅団第39回公演「ゆうまぐれ、龍のひげ」
いよいよキャストコメント企画も最終回。
そんな今回は、虚空旅団主宰の高橋恵がウイングホットプレスに寄稿した文章を掲載いたします。
作・演出:高橋恵
風紋 ~『ゆうまぐれ、龍のひげ』上演によせて~
昨年、実家の工場が廃業になりました。母方の祖父が起業した会社で、創業72年でした。
会社を守り続けてきた伯母が他界し、経営者だった従兄弟は定年を迎えるも跡継ぎがいなかったため、これ以上営業できないとの判断に至りました。工場兼住居の土地建物はすぐに売りに出され、あっという間に買い手がつきました。チェーホフ風に言えば「桜の園はなくなりました」です。
その場所は、住んでいた家族たちにとって故郷として在りました。祖父には三人の娘がいて、みんな会社の従業員と結婚し、工場がある建物の3階に住んでいました。住居は各家庭ごとに分かれていましたが、外玄関と風呂は共同の「四世帯住宅」でした。一つの建物に四家族13人と、屋上に住み込みの従業員が1人同居しているという、今思えばなかなか特殊な環境の中、私は物心ついた時から十五歳まで過ごしました。
毎日声をかけあってお風呂に入る順番を確認していくような暮らしぶりですから、家族間の距離は物理的にも心理的にも近く、従兄姉たちとは兄弟のように仲良く遊びました。が、末娘だった母は日々両親や姉たちに干渉され続け、精神的に耐えられず、弟が中学生にあがるタイミングで引っ越すことになります。
子供時代を過ごした工場は、私にとってココロに染み付いた原風景でした。薄暗い作業場、鉄が削られる音、飛び散る火花、機会油の匂い、出入り口で飼われてた歴代の番犬たち、工員さんたちの汚れた作業着・・みんなアタリマエにそこにありました。
今回、ウイング再演大博覧會2024参加作品として上演する『ゆうまぐれ、龍のひげ』は、そんな工場にあった小さな庭を舞台にした物語です。2012年の初演時は、まだ父は勤めており、旋盤を回して鏨(たがね)と呼ばれる抜き型を作っていました。祖父の工場のことはいつか書いて芝居にしたいと思っていましたが、「残業がキツうなってきた」と夕食時に父がボソッとこぼしていたのを聞き、「そろそろ書いておかないと、工員さんたちはみんな高齢だし、取材ができなくなってしまうかもしれない」と製作に取り掛かりました。この作品では工場に住む家族のエピソードを中心に描きましたが、その時の取材は後に登場人物を増やして『ダライコ挽歌』の製作へと繋がってゆきます。
再演博のお話をいただいた時、どの演目にしようかずいぶん悩みました。ですが廃業が決まったことで上演の決心がつきました。私が語り続けなければあの工場も両親もあそこで働いていた人たちのことも、消滅してしまうだろう。いや上演したところで何も残らないかもしれない。畢竟、私の演劇行為なんて風紋に過ぎないじゃないか。けれど、だからこそやるべきじゃないだろうか。そんな風に思ったのです。
この春、売却が決まり建物はすべて取り壊され、更地になりました。祖父が興し、三代ほど続いた町工場は跡形もなく消えました。
今年ウイングフィールドは32周年を迎え、劇場をリニューアルオープンされました。本当に嬉しいことです。
大阪の片隅で細々と演劇活動をしてきた虚空旅団にとって、長年にわたってお世話になり、育てていただいた恩のある大切な劇場です。これからも長くここに在り続けて欲しいと心から願っています。
虚空旅団 代表 高橋恵
ウイング再演大博覧會
虚空旅団第39回公演
「ゆうまぐれ、龍のひげ」
2024年
9.13(金)19:30
9.14(土)14:00/18:00★
9.15(日)14:00/18:00★
9.16(月・祝)14:00
チケット料金
前売・当日…3,500円
土日夜割★…3,000円
18歳以下…1,000円
会場
ウイングフィールド(長堀橋)
上演時間
約1時間20分
▼ご予約▼(高橋恵扱い)
https://www.quartet-online.net/ticket/ryu?m=0bdigfj