価値の再考 ~楽曲無料化時代の到来に楽曲とLIVEの価値を問う~
あなたはCDを購入しますか?
厳密には違いますが、CDの購入は楽曲の購入とほぼ同義でしょう。そのためこの質問は「あなたは楽曲を購入しますか?」と言い換えることもできそうです。
僕は乃木坂46の楽曲をよく聴きますが、乃木坂46含めCDはほぼ購入しません。というのも、乃木坂46においてそのほとんどの楽曲はお金を払わずとも聴くことができてしまうからです。
乃木坂46はYouTubeに公式チャンネルを設けており、そこには各楽曲のMVが全尺で掲載されています。その動画を再生すれば、結果的に無料で全尺の楽曲を聴けてしまうんですね。
最新の楽曲でさえもこのような公開が行われており、乃木坂46の楽曲のほとんどは事実上無料化していると言っても過言ではないでしょう。この状況下であれば、CDを購入する必要はないのです。
乃木坂46の楽曲はCDを購入せずとも十分に聴けることは、多くの人が認識しているはずです。しかし、乃木坂46は依然としてCDを販売し高い売上を獲得しています。それは多くのファンが特典である握手券目当てでCDを大量購入しているが故であることは間違いないでしょう。
特に秋元康さんがプロデュースしているアイドルグループは、握手券をCDの特典としていることで有名です。当然ながら乃木坂46も同様の商法を実施しています。
とはいえ、僕と同様に握手券が不要な人はYouTubeで申し分なく楽曲を聴けるため、結果的に乃木坂46のCDを購入しなくなっているでしょう。一見すると、これは乃木坂46の売上が低下する原因になっているように見えます。
確かに短期的に見ると売上は低下しているかもしれません。しかし、中長期的視点で見るとYouTubeに全尺のMVを公開して楽曲を無料化することには、実に効果的で売上が上がるような戦略が隠されているように思えます。
今回はその戦略を考察した上で、僕が考える乃木坂46がいま取り組むべきことをアウトプットします。
商品無料化による収益
まず考えてみたいのは、YouTubeに全尺のMVを公開することにはどんな効果があるのかということです。
前述した通り、この施策によって乃木坂46の楽曲のほとんどは無料化しています。これまで歌手は楽曲という商品を有料で売ることで収入を得ていました。それが無料化したとなれば、乃木坂46はお金を稼ぐ方法を一つ失ってしまったように思います。
確かに楽曲を売ってお金を稼ぐということは出来なくなったでしょう。YouTubeに全尺のMVを公開した状態で、握手券が付随していないCDだけを販売して現在と同等の売上を獲得できるとは思えません。
しかし、YouTubeという巨大で高機能な市場を利用してこそ楽曲を無料化することには様々な良い効果があります。無料商品は必ずしも無価値商品ということではないのです。なお、無料の製品を商品と呼称して良いのかどうかという問題は横に置いておきましょう。
まず、たいていの無料商品には有料商品に比べて世に広まりやすいという特徴があります。この特徴は楽曲や動画においても同様です。有料の楽曲や動画よりも無料の楽曲や動画の方が視聴してもらいやすく、結果的に世に広まりやすいのです。
いまや国民的アイドルグループと呼ばれるまでに成長して有名になった乃木坂46です。日本人のなかで乃木坂46を全く知らない人は少ないでしょう。
しかし、たとえどんなに乃木坂46自体が有名であっても、その最新楽曲は必ず無名の状態から始まって徐々にもしくは加速度的に有名になっていくものです。当然のことではありますが、改めて言葉にすると忘れがちになっていた事実のように思えますね。
一般的に企業が新商品を世に広める際、広告することやそれに伴う広告費が発生することを前提とします。そしてターゲットに合わせたメディアを選定して広告を打ち出すんですね。それがWebメディアであればCPAやCPO等の信憑性が高い単価指標を算出できます。
ただ、そもそも広告費とは出来ることなら無くしたいコストです。CPAやCPOを算出したとき、たとえどんな単価であろうとも「もう少し安価になったらいいのに」という感想は出てくるでしょう。広告費が全くかからずとも世の中に自社商品が広まっていくことが最高の理想であり、それを追求するならば、広告費は限りなく安いに越したことはないのです。
乃木坂46がYouTubeに全尺のMVを公開する施策は、このような悩みを軽減し、広告費を最低限化する効果があると思います。
繰り返す通り、乃木坂46はほとんどのMVを全尺でYouTubeに無料公開しています。そのため、乃木坂46の楽曲やMVにも有料の楽曲やMVに比べて世に広まりやすいという特徴が付随していることになります。
おまけにYouTubeの公式チャンネルに動画を公開すれば、多くのチャンネル登録者にはそれが通知されます。これはチャンネル登録者へ新曲を一切の費用が発生することなく広告できる方法に相違ありません。
この記事を書いている2022年7月時点でYouTubeの乃木坂46公式チャンネルの登録者は約155万人です。それだけの母数の顧客へ新商品を無料で瞬時に広告できるのです。
また、チャンネル登録者のほとんどは乃木坂46のファンと見て良いです。であれば、通知によって動画を再生してくれる確率は高いはずです。これは実に効果的な広告ですね。
しかも、ファンであれば自身のSNSでその動画ページを拡散してくれる可能性は高いでしょう。YouTubeの各動画ページには、Twitterやfacebook等の主要なSNSへ簡単に動画ページを投稿できる機能が実装されています。これが助力して積極的に拡散に協力してくれると思います。
最新楽曲のMVであれば、いち早くその情報を得た優越感をフォロワーに知らしめるべく、なおさら喜んで拡散してくれるかもしれませんね。
そしてフォロワーが200万人を超える乃木坂46のTwitterアカウントによる拡散も実施されれば、最新楽曲やそのMVはすごい勢いで世の中に広まっていくのではないでしょうか。
これほどまでに高い広告効果が期待できるにも関わらず、広告費は一切発生しないのですから驚きです。乃木坂46がやることは、YouTubeにMVを公開して自身のTwitterでその動画ページURLを投稿するだけです。
これだけ容易く広告できる環境があるのですから、もはやこれ以上能動的な広告は必要ないようにすら思えてきますね。
その上で最新楽曲に投入する広告費を挙げるならば、テレビやカラオケボックス等でのCM放映費くらいではないでしょうか。これこそが投入するべき最低限の広告費だと思います。広告費をかなり抑えられていることは間違いないでしょう。
また、YouTubeには広告収入があります。乃木坂46のMVが掲載されている動画ページにインストリーム広告やバナー広告を掲載することで、広告業者としての収入を得られるのです。自らが制作した動画で広告収入を得るこの体制は、YouTubeの広告収入を得る方法として最も基本的かつ健全な有様だと思います。
なお、このような広告収入を獲得する方法は最新楽曲に限ったものではありません。過去に公開した動画であっても広告収入を得ることは可能です。
ファンであれば、乃木坂46が過去に公開した楽曲をふと聴きたくなることはあるでしょう。そのためにYouTubeの乃木坂46公式チャンネルを訪れて動画を再生する人も少なからずいるはずです。YouTubeの広告収入はそのようなファンの行動からも発生します。
確かにYouTubeの広告収入は安価です。一人に楽曲を売っていた対価よりも、一人が動画を再生したときの広告収入は圧倒的に低くなっています。
しかし、YouTubeを利用すればたとえ楽曲が無料化しても楽曲でお金を稼ぐこと自体は引き続き可能なのです。また、これだけ多くの人に動画を観てもらいやすいのであれば、広告収入の合計は決して軽視出来ない金額になっているでしょう。
このように、乃木坂46が全尺のMVをYouTubeの公式チャンネルに掲載することには、主に楽曲の周知と広告収入獲得の効果があります。
前者は広告費抑制による相対的な収入、後者は絶対的な収入を生み出しています。商品を無料化したにも関わらず収入が発生しているとは、これはこれで非常に画期的な施策ですね。
楽曲周知の先にあるもの
前章で述べた内容で僕が最も注目しているのは楽曲が世に広まりやすい特徴をもったということです。広告費云々の他にも、この特徴はLIVEへの集客効果を最終的にもたらすと僕は考えています。詳しく述べていきましょう。
無料化によって世に広まる楽曲は、いわゆるオリジナル音源です。視聴者が聴くのはその楽曲の原形であり、歌うメンバーや歌割り等を含め、いついかなる時に聴いてもその品質や内容が全く変わりません。
それに対してLIVEで披露される楽曲は、アレンジ音源とでもいうべきものです。LIVEは楽曲をアレンジ音源化する要素で溢れており、原理上、どうあがいても楽曲はアレンジ音源化します。
なお、この記事で述べるアレンジ音源とは、オリジナル音源に対して何かしらの変化・差異が加わった音源を指しています。
顕著な例としては、その楽曲を披露するメンバー編成が挙げられます。
LIVEであれば、たとえ表題曲であってもアンダーメンバーが参加して披露されることもありますし、逆も然りでアンダー楽曲であっても選抜メンバーが参加して披露されることもあります。その楽曲を披露するメンバーや歌割りは、LIVEに参加しているメンバーやLIVEごとに異なります。
そのほかにも、LIVEには音源をアレンジ化する要素が多々あります。
音響はメンバーの体調や声の調子、同じ歌割りで歌唱するメンバーの声の組み合わせ等の人的要素、会場にある機材の設定状況・仕様・品質、会場の空気や天候等による環境要素によって変化します。
普段意識していないだけであって、我々がLIVEで聴く音源はオリジナル音源に対して何かしらの差異が発生しているのです。このような要素は例示していけばキリがないでしょう。
LIVEではたとえ同じ楽曲であってもそのLIVEでしか聴くことが出来ない、独自の品質が出来上がっていることが分かります。これこそがLIVEの価値です。
YouTubeへのMV掲載とそれに伴う楽曲の無料化によってオリジナル音源が世に知れ渡れば、この価値がより高く貴重なものになると思います。
かつてオリジナル音源は購入やレンタルをしなければ全尺を聴けませんでした。改めて考えてみると楽曲を全尺で聴けるという経験・価値は、実は貴重なものだったんですね。
しかし、乃木坂46のオリジナル音源はYouTubeで動画を再生すればいつでも・いくらでも聴くことが出来るようになりました。そのため、乃木坂46の楽曲においてそれらは今や貴重なものではなくなったのです。
それに対してLIVEにおけるアレンジ音源は依然としてその貴重さを保っており、原理上なかなか低下するものではありません。
オリジナル音源を好きなだけ聴いたリスナーは、その楽曲の違う形に興味を抱くようになったり、アレンジ音源を聴けるLIVEの価値をより明確に自覚するようになったりするでしょう。
これらはLIVEの需要に相違なく、LIVEへの集客効果が発揮されている状態です。無料化に起因する楽曲周知とLIVEの集客効果は、このような因果関係で繋がっていると思います。
さて、乃木坂46のLIVEはどうしても目の前でメンバーが実際に歌い踊ることが最大の価値として認識されてしまいがちでしょう。一般的にアイドルとは歌い手の容姿を最大の売りとする職業であり、アイドルとして世間に認知されているグループの宿命なのかもしれません。
それ故、乃木坂46はファンに本来のLIVEの価値をなかなか認識してもらえないのが現状だと思います。
かといって、ファンが自らLIVEの価値を見出すのを待っているのが最適というわけではないでしょう。敢えてそうすることにメリットはなさそうです。
であれば乃木坂46の方から能動的に、LIVEにはLIVEならではのアレンジ音源を聴けるという価値があることを強く訴求していくべきです。そうすれば、楽曲周知による集客効果をいち早く得ることが出来るでしょう。
乃木坂46はこの訴求を実践してきたと思います。特にBirthday LIVEで顕著な例があります。
8th Birthday LIVEでは、LIVEの終盤で数十人に及ぶゴスペルコーラスを交えて「何度目の青空か?」等の人気曲を披露していました。ただでさえ乃木坂46は、聴手へのメッセージ性が強い楽曲を多々保有しています。それをゴスペルによる情熱的なアレンジを行ったことで、実に印象深い感動を得ることができました。
最近の10th Birthday LIVEでは、オーケストラによる伴奏で「サヨナラの意味」を披露していました。オーケストラ特有の壮大な音色、哲学的で切ない歌詞、センターを務めた卒業生のサムネイルカラーで染まった会場によって目頭が熱くなる感動を覚えました。LIVEの価値が最高に達した状態だったと思います。
なお「何度目の青空か ゴスペルバージョン」や「サヨナラの意味 オーケストラバージョン」というような楽曲はCD等で販売されてオリジナル音源化しておらず、LIVEでしか聴くことが出来ません。やはりLIVEの価値は依然としてその貴重さを保っています。
このような過去のLIVEパフォーマンスやアレンジ音源は、LIVEの価値をファンに訴求する非常に良質な事例です。これを認識したファンは、乃木坂46が次にどんなアレンジをしてくるのかという期待に胸を膨らませることになるでしょう。これはやはりLIVEの需要が高まっている状態であり、集客効果が発揮されていることが分かります。
確かに、この集客効果はオリジナル音源が世に広まらずとも発揮されるものでしょう。しかし、せっかくこのような良い効果が期待できるのですから敢えてそれを利用しない理由はありません。
その効果をより強く明示的に発揮するためには、ファンをオリジナル音源に馴致させることが必要です。そうすることでアレンジ音源を聴いた時にオリジナル音源に対する反動が生じ、ファンへLIVEの価値をより明確に届けることが出来るんですね。
そしてファンをオリジナル音源に馴致させるためには、オリジナル音源を世に広めて浸透させる必要があります。楽曲やそのMVを無料でYouTubeに公開することはそのための有効な手段なんですね。それに伴ってLIVEの価値が向上し、最終的にLIVEへの集客効果が得られるのです。
以上のように考えると、楽曲はもはやそれ自体を売って売上を獲得するためのものではなく、LIVEの価値を向上させて集客するためのものに再定義されつつあるように思います。
昨今、乃木坂46は現地LIVEの他にそれの同時配信も積極的に実施しています。楽曲無料化によって高まったLIVEへの需要に申し分なく応えられる体制が整えられていますね。
この施策は、CDを買わなくなってもLIVEには手軽に参加したいという人や、楽曲周知によって乃木坂46に興味をもち、LIVEを試しに観てみたいという人の需要にも対応できる体制であり、高く評価出来ます。
そして、配信や現地に関わらずLIVEのチケットは基本的にシングルCDよりも高価です。その上でLIVEに参加する人が増え続けているのであれば、たとえCDを買わない人が増えていたとしても、売上の全合計はCDを買ってもらっていたころと同じくらいかそれ以上になっているかもしれません。
LIVEの価値をさらに高めるには
LIVEの価値が低下しにくいのは、上述した通りです。
しかし、だからといって現状維持で良いというわけではありません。LIVEの価値を高め続けていくのは舞台人・エンターテイナーの務めです。いつまでも同等の価値を提供し続けていては、ファンはいつか飽きてしまいます。
では、LIVEの価値を高めるためにはどうするべきでしょうか。
これはLIVEの演出家が仕事の中で常に追究している命題に相違ないでしょう。絶対的な答えや、唯一の答えというものはないと思います。
その命題に対して僕の意見をアウトプットすると、LIVEでこそ聴ける楽曲の形をより分かりやすく作り出すべきだと考えています。
例えば、歌唱にアドリブを取り入れるのはどうでしょうか。アドリブはLIVEでしか聴くことが出来ないメロディであり、音源をアレンジ化する典型的な要素です。
乃木坂46に限らず、大所帯のグループのLIVEは基本的に合唱です。合唱中に誰かがアドリブをやってしまっては、聴手にとって混沌とした不快な音楽になってしまいます。たとえLIVEの価値が高まるとしてもこれでは本末転倒ですね。そのような事態を防ぐためにも、乃木坂46のLIVEにアドリブの歌唱は基本的に一切ありません。
アドリブが実現しない原因の一つはこの合唱形式です。であれば、ソロパートを増やすことでそれは取り除くことは出来そうです。
なお、全楽曲にアドリブを取り入れる必要はありません。数人で歌うユニット曲や、普段は元気に歌う楽曲のしっとり版のソロパート等でたまに取り入れるくらいで良いのです。アドリブとはそういうものですよね。
しかし、そもそもアドリブを実現させるためには高い音楽理論的知識・技術が不可欠です。基本となるメロディや和音を理論的かつ体系的に理解しているからこそ、効果的で心地よいズレを生み出すことが出来るのです。
では、乃木坂46に音楽理論に則って楽曲を理解・習得しているメンバーはどれくらいいるでしょうか。仮歌を必要とせず、楽譜を読み取って正確に歌唱したり、ブレス記号に基づいた的確な呼吸ができたりするメンバーはどれくらいいるでしょう。
これらの能力は、歌手を名乗るのであれば当然要求されるものです。
しかし、新曲制作時の仮歌が必要不可欠である現状を踏まえれば、そのようなメンバーはかなり少ないことは想像に難くありません。酷な言い方をすれば、乃木坂46の歌唱は仮歌を感覚的に再現したカラオケに過ぎないのかもしれません。仮にも歌曲を商材としているにも関わらず、この現状は良くないですね。
であるならば、LIVEの価値を向上させるためには、なによりもまず乃木坂46の各メンバーの音楽理論的知識・技術を向上させるための教育が必要なのだと思います。
LIVEでお金を稼ぐのは音楽に従事する者の本分です。彼らは歌唱や演奏で聴衆に音楽を与えることが生業であり、そのための研鑽を継続するのは当然のことです。
堅実な教育によって乃木坂46の音楽理論的知識・技術が上がれば、たとえアドリブが無くともLIVEの価値が全体的に向上します。現状よりも高い品質の歌唱を聴けるようになり、LIVEを鑑賞するファンの満足度も自ずと上がるはずです。
その上でLIVEでしか聴けないアドリブがあれば、乃木坂46のLIVEの価値は実に独特で興味深い新鮮なものになると思います。独特であるが故に貴重です。現状のLIVEの価値とは別格ですね。
ちなみに、アドリブとは本来その場の瞬発的な発想で実現します。しかし、リハーサルの時点から演出家や音楽指導者と協議してアドリブのメロディを作り出し、予め計画的に練習していても何ら問題はないでしょう。
大切なのは瞬発的にメロディを作り出せるかどうかということではなく、そのLIVEでしか聴けない音楽を堅実な音楽理論的知識・技術に基づいて作り出して聴手に届けることです。
また、乃木坂46のLIVEは歌唱とダンスで構成されているのですから、ダンスの品質をより高めていくことも重要です。全メンバーで揃えるダンス然り、ソロのダンス然りです。
乃木坂46のメンバー達の話を聞く限り、ダンスレッスンは日常的に行われているようです。テレビ出演やLIVEが短い間隔で定期的に行われており、それらに伴うリハーサルなのでしょう。いずれにせよ、品質維持・向上のための研鑽が日々行われているのは良いことです。
さて、これまで述べてきた音楽理論的知識・技術やダンス品質の向上は、芸能人として能力が底上げされることに他なりません。それはたとえ乃木坂46を卒業しても活かすことが出来る能力です。
それが実現していけば、乃木坂46は芸能人育成の良質な組織として芸能界における存在感を増すことでしょう。そのような優秀な人材を舞台等の現場に送り出す組織にはきっと仕事が舞い込み続けるはずです。どんな企業においても、人材育成は成功のために欠かせない要素なんですね。
余談:楽曲購入の意義
この記事では主に乃木坂46に焦点を当ててきました。しかし、アーティストがYouTubeに公式チャンネルを設けてMVを掲載する動向は乃木坂46に限った話ではありません。
現代の音楽業界はそれが当たり前になってきているようです。著名なアーティストほどこの傾向が強いように思います。つまり、多くのアーティストにおいても楽曲の無料化が実現しているということです。
乃木坂46であれば、特典である握手券を求めて結果的に楽曲・CDを購入することは理解できます。他のアーティストにおいては、YouTubeに公式のMVが公開されていない場合が考えられ、それであれば同様に楽曲・CDを購入する意図は理解出来ます。
しかし、特典を設けていないアーティストやYouTubeに全尺のMVを公開しているアーティストのCDや楽曲を購入する人は未だに一定数存在しているようです。
YouTubeを開けば公式運営が公開しているその楽曲を無料で聴けるにも関わらず、なぜそれらを購入し続けるのでしょうか。
僕にとってCD・楽曲を購入する行為はもはや浪費に他ならない状態になってしまっています。しかも僕には、YouTubeに公式チャンネルを設けていないアーティストの楽曲は、無料化していないが故に聴かなくなる兆候すら生じつつあります。
若干の野蛮さがあることは自覚していますが、一度変わってしまったライフスタイルはなかなか以前の状態に戻れないのが現状です。
このような消費者としての性質を自覚した上で音楽業界を観察すると、CDや楽曲を販売してお金を稼ごうとする発想自体が古いものに思えてきます。そのような時代は限界を迎えつつあるように思えてならないのです。
このようなライフスタイルや思想をもつ僕は、楽曲を未だに購入し続ける人たちの意図や気持ちに経験的な同調は出来ませんが、この機会に推察してみようと思います。
前述した通り、僕にはYouTubeで公式のMVを再生して音楽を聴く習慣があり、主にiPhoneを用いています。
そのような動画をiPhoneのYouTubeアプリで再生すると、たいていインストリーム広告が最初に再生されます。それは円滑に楽曲を聴くことにおける障害です。楽曲自体は無料化していますが、楽曲を円滑に聴くことが若干の代償となっているようです。
PCにおいては「Adblock」等の広告を排除するソフトウェアを利用することで、この障害を完全に取り除くことが出来ます。しかし、スマートフォンにおいて同様の方法は実現しにくいようです。
楽曲やCDの購入は、この障害を取り除く意図があるのではないでしょうか。スマートフォン等の端末に楽曲をインポートしてしまえば、煩わしい広告から解放されます。
しかし、僕はスマートフォンにおいてもインストリーム広告を除外する手段をもっています。
「Brave」という無料のブラウザがあります。これは広告を排除する機能に特化しています。動画再生においてはバックグラウンド再生も可能です。
「Brave」と音楽業界の変遷を利用することにより、僕は乃木坂46に関わらずたいていの楽曲を聴くことにおいては完全に無料で不自由なく、YouTubeの不要な広告から解放された環境を作り出せています。
このような環境は僕だけが実現できるものではなく、多くの人も同様の環境を実現出来ます。スマートフォンに「Brave」をインストールすれば良いだけですからね。他にも広告を除外する方法は模索すればいくらでも考案できるでしょう。
もし広告を除外する方法を知りながらも楽曲やCDを購入しているのであれば、その意図は物理的にCDを身の回りに置いておきたいとか、いつYouTubeのMVが非公開になっても引き続き視聴できる状況を作り出したいとかいうものでしょうか。
前者は要するにCDのコレクションです。個人の価値観が色濃く反映されているものであり、特に疑問はありません。
しかし後者は杞憂だと思います。上述した楽曲無料化のメリットをすでに享受しているアーティストがMVを突然非公開にすることは考えにくいでしょう。
いずれにせよ、何を購入するかということは個人の自由なので咎めるつもりはありませんが、残念ながら理解に苦しむ点は多いです。とはいえ、やはり僕の見解に若干の野蛮さがあることは否定できませんね。
まとめ
乃木坂46を含め、様々なアーティストがYouTubeに全尺のMVを公開するのは、もともとは広告収入の保全が目的だったと思います。
YouTubeに第三者がMVを公開して広告収入を横取りされるくらいならば、もはや自らMVを公開して広告収入を獲得する方が良いという前向きな諦めだったのでしょう。
しかしいざ実践してみると、LIVEへの集客という予想外の効果が見出されたと思います。これにLIVEの価値を高める取り組みが加わり続ければ、ファンのLTを持続させることや新たなファンを獲得し続けていくことが出来るでしょう。
乃木坂46はたとえ国民的アイドルグループと称されようとも、胡坐をかいているわけにはいきません。新しいことに挑戦して成長し続けていく必要があるのです。
LIVEでお金を稼ぐ。
これは音楽家達が古来からやってきた売上獲得の手段です。楽曲の無料化によって、この事実がより強調されるようになったと思います。これがさらに進んでいけば、LIVEはそのアーティストの音楽的能力が最大限発揮されることが今よりも求められるようになっていくでしょう。
これはアーティストが真価を発揮すべき時代が到来しつつあることを意味しているのではないでしょうか。オリジナル音源を人々に馴致させ、LIVEで如何にその差異をより良く表現出来るのかということが問われるようになると思います。
LIVEとは、オリジナル音源を如何に正確に再現できるのかということを見せる場ではないはずです。この事実は、これから時代が進むにつれて多くの人がより明確に認識するようになると思います。
となると、LIVEでオリジナル音源の再現に奮闘するアーティストは自然と淘汰されていくかもしれません。
アイドルとはその代表格だと思います。乃木坂46も例外ではないでしょう。であれば、危機感を抱いて今から対策を実行すべきです。僕は音楽理論的知識・技術を高めるための教育がそれに当たると考えています。
僕は乃木坂46が大好きであり、彼女達には幸せでいてほしいのです。そのためにも、時代に取り残されないように成長していってほしい。
そして、アーティスト側も観客側もLIVEの価値がどういうものなのかを認識し、お互いにLIVEをより良くできるよう協力し合っていきたいですね。
以上、「価値の再考 ~楽曲無料化時代の到来に楽曲とLIVEの価値を問う~」でした!!
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