誤謬まみれの美術業界の海の中で兼業画家のぼくは企業野球部員の幼馴染の夢を見る ~ディレクターズカット版~
ぼくです。
最近美術界ではとあるアカウントによる「作品の売り上げからギャラリーが手数料を50%も取るのは高すぎる」という批判ツイートを皮きりにギャラリー批判側とギャラリー擁護側が論戦を繰り広げるという出来事があって(ちなみにぼくはもちろん批判側ね)、
ギャラリーやギャラリーと仲良しこよしの作家たちがお涙頂戴ストーリーだったりあの手この手を使ってギャラリー擁護のためのとんでも話法を繰り出していてさすが論点逸らしの総合商社かよと感心していたんだけど、
こういう論争になった時必ず出てくるのが「専業のアーティストになることだけが成功じゃない」みたいな自己啓発崩れのアレ。
「マージンが高くて作品が売れても作家の手元にお金が残らないから専業作家になれない→専業になるだけが人生じゃない、兼業だったいいじゃないか(ガンギマリ)」っていう理屈らしい。
ホント何この理屈?どういう論理?だからマージン50%のどこに整合性があんの?って話なんだけど、
今日はこの「専業のアーティストになることだけが成功じゃない」理論について少し話していきたい。マージンのことはこれ以上は触れない。それより重要な生き方の選択肢についての話をしていく。
ぼくの幼馴染にずっと野球をやっていた奴がいて、それこそもう物心ついた時からずっとバットを握ってるような奴だった。
もちろん小中高の部活動は言うまでもなく野球部。高校は県内でもそれなりの強豪校に推薦で行って高校生活最後の夏の県予選では3回戦で負けちゃったんだけど個人成績は2HRと複数安打を打ってて2回戦終了時点では打率が9割を超えてて地元ではちょっと話題になってたんだよね。そんな幼馴染は高校卒業後は地元の都市対抗野球の強豪企業に就職したらしくほぼ毎年全国大会に出場していると風の噂で聞いたことがある。
どうやら結婚もして子供もいるらしい、どこでぼくたちは人生の道を違えてしまったのだろうねフシギダネ。
もともとはプロ野球選手を目指していたのかそれとも最初から実業団などを目指していたのかはそれはぼくも知らないんだけど重要なのは「野球に関わりながら生きる人生」ということを考えた時それなりの数の具体的な選択肢が用意されているってことだと思う。
プロ野球選手をめざすにしても一般的な社会人としての幸福を追求しながら実業団の選手を目指すにしてもその他トレーナーや指導者いろいろな野球と関わりながら生きる人生があると思うけど、その幼馴染が自分でそういう職業を一から生み出したわけではない。既存の生き方の中から選んだんだ。
0からレールを自分で作る努力をした訳じゃない、どのレールを選んでどのようにそのレールを走るのか、そこを努力したんだ。そこが重要、肝心要、急所中の急所だ。
美術系の人たちはそこをすぐに混同する。
「自分の人生は自分で切り開く」みたいな安っぽい凡庸のインフルエンサーになりたいなら美術系の人間相手に自己啓発商材を売ればいいと思うよ。池の鯉より簡単に食いつくから。
ぼくら美術作家は何も好き好んで兼業で生きているわけではない。
ほかに選択肢が無いからだ。
不自由な選択肢しか用意されていない状態が野放しのままでギャラリストをはじめとした美術業界内部の人間が「兼業で働きながら作家をやる生き方もある」と発言してしまうこと自体が欺瞞でしかない。そういう生き方「も」ある、のではない。そういう生き方「しか」ないから仕方なくやってんだ。
「プロ野球選手になるだけが幸せな人生ではない」
それはその通りだ。全力で目指した結果夢破れて別の人生を歩むのもまた正解の人生だ。
しかし美術の世界は少し事情が違う。夢破れた結果兼業作家になったり別の道に進んでいるわけではない。どこを目指して走ればプロになれるのかよくわからないまま兼業作家になったり望まぬ他の職業に就くのだ。
「仮に作家として専業で生きていける状態になっても会社勤めを続けるという作家もいるんですよね~」という仲良しこよし作家の発言の引用という形で今の美術業界の有様を肯定してしまうギャラリストすらいて眩暈がするんだけど、「~な人もいる」というロジックは「その人は~な生き方を選択したorする」こと以外何も意味しない。勝手にそう生きてくれ。ぼくは知ったこっちゃない。おしつけるな。
プロ野球機構が存在する世界で選手を目指す少年がするべき努力、プロ野球機構が存在しない世界で選手を目指す少年がするべき努力、大人たちが選手を目指す少年のために機構を作る努力、機構の内部で運営側がするべき努力、これらを混同して発言してしまう人たちが美術業界の内部、つまりギャラリストでありキュレーターであり批評家そして仲良しアーティストの中に数多く存在している災害級の不幸を乗り越えていかなくてはならない。嘆息である。
生きることで精いっぱいです。