『ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語』読みました

 品田遊さんのただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語読みました。
 ほぼあらすじみたいな読書感想文は書かないですが、未読の人へ…っていうより、コレ読みました? いいよね~っていう記事なので、ふつう程度には内容に触れます。


 「魔王の出生」からはじまる不条理なフィクションの形をとり、ほどほどにデフォルメされた十名の登場人物による、学習まんが的な明解で易しい応酬で丁寧に進行する。
 ”反出生主義”なるパワーワードに惹かれて読みはじめた門外漢にも、検討する学問に参加できたような気分を味わわせるための工夫が盛り込まれており、見事だな~と感じました。

 登場人物はそれぞれ色の名前をあてがわれ、そこから連想できるようなできないような主義主張をもっていて、彼らは多かれ少なかれ、物語の中核となる”反出生主義”と、それを唱えるブラックの見解を引き出すための役割を負っています。
 こういうとき、メインの語り手に反論させるための質問をするキャラクターはことさら愚かになりがちだと思うんですけど、ブラックの主張がはじめて聞くラディカルなものであるのに対して、ほかの登場人物たちは普遍といわれるところを大きく逸脱しない程度の多様さのうちで思想を展開し、当然の疑問にも僕の代わりに言及してくれて、僕の代弁者だ とは思わないまでも、的を外れた愚かな発言はしません。
 そして、「それぞれの理がある」と、主張の往復の中で丁寧すぎるくらい強調されるその理も、僕にとって想像の及ばないものでは決してないため、この理を踏まえ、反論する形で展開されるブラックの”反出生主義”の大要をも理解できて、面白いのです。
 わかりにくい文章だな。「わかりやすい文章でした」って言っています。

 ちっとも分からなかった”反出生主義”も、ブラックがその思想の基礎としている「道徳」の定義を教えてもらい、「道徳は無時間的な概念」なんていう主張を聞いて、(ハナから過激な着地(滅亡)を見込みすぎだとは思うけど)個人の内省のうえになってることが理解れた! どころか、部分的には同調してもいいかもと思う瞬間もあった。……けど、これは最終的には違っていて、だけど終始"まるめ込まれるまいぞ"と構えて読んでいても、そう思っちゃう瞬間があったという体験がそれだけで愉快だったです。
 このあたりが、賢そうな命題の検討にまるで自分も参加してるみたいと思わせてくれるゆえんで、本書のやり口の鮮やかなところでしょう。


 登場キャラクターは人物紹介で(一部作中の発言でも)「〇〇主義者」と紹介される。つまり有名どころの主義・理念を擬人化した存在です。
 彼らの思考や発言の傾向は、哲学の歴史の中であるていど体系づけられているはずだから、擬人化したり架空の議論に参加させるのも可能なことではあると思います。
 だけどこれほどまで、十人分のキャラクターの思考傾向と各々にとって”ただしい” 覆しがたい”理”の応酬を書ききるのは、なかなか困難なはず。

 僕自身がわかったフリで読まないよう わざとつまずきながら疑問や違和感をメモりつつ読み進めていると、キャラ同士が検討を重ねる中で必ずその疑問に触れてくれます。
 先にも似たようなことをいったけど、僕のような門外漢が思いつくツッコミに先回りで回答を与えるくらいのことは可能なんだ。どこまで哲学って学問のすごさで、どこまで品田遊がすごいのかは分かりませんが。

 しかじかで、最大の違和感についてもついに触れられて(完全に回収されたかは別として)、プロローグで示されていた通りに物語は決着しました。

 ラスト、すごく良いと思った。
 実存を生み出す例外的な行為を悪として扱う”反出生主義”に、すべてを理の外で終わらせることができる規格外の存在”魔王”の組み合わせは、これ以上なくぴったりだし、そうして最後に導き出された結末も、この特殊設定小説のオチとして最適だと思いました。さもありなん。



 パープルが無理に比喩で表現しようとするくだり、「バカな賭け」って言葉が出てくるあたりとか、単純に面白かったんでそっくりメモしてある。

 僕は本は好きだけど頭が弱いからノートをとりながら読む派です。
 今回に関しては付箋を使えばよかったかな。使いこなせそうにないのと、なんでか僕は付箋だらけの本を不格好だと思っていて使ったことないですけど。糊が嫌いなのかも。油断すると自分のこと喋っちゃう。

 あとさ、芥川龍之介の『河童』の出産って、そういう寓意だったのかとようやく理解できました。いや、なんの比喩でもない、そのままなんですが、明確なモチーフの存在する風刺・表現だったとは知らなかった。

 最近『河童』の舞台(少年忍者(ジャニーズJr.)の織山くんのやつ)観て、それで原作も読んでいたんで思い出しました。小道具のデザインで少しお手伝いしていたんです。よっぽどいいオペラグラスで見ないと分からないところですが……。織山くん好きになりました。


 2000字も書かないうちに、途中から読書感想文に飽きちゃってるのモロバレで恥ずいですが、投稿しちゃお。

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