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#11 みんなすごい
同級生がどんどん社会人になっていく。
私はというと、1人で地元を離れて芸歴0年目の芸人(?)をしている。
先ほど、小学校からの同級生と久しぶりに連絡を取っていた。
話の流れで知ったのだが、彼女は小学生の時からの夢を叶え、2年目のパティシエとしてホテルのレストランで働いているそうだ。
就職どころかもう2年目。
20歳を超え、こういうことが途端に増えてきた。
現在私は21歳。
高校卒業後専門学校に進んだ同級生は去年軒並み就職し、大学に進んだ同級生は就活や卒論に頭を悩ませている。
地元の同級生との話題と言えば、最近はもっぱら卒論、就活、仕事。
大学を1年で休学し突然東京に出てきた私は、同級生に「東京で何してるの?」と聞かれては「バイトとかいろいろ。」でやり過ごす日々を過ごしている。
私がお笑いをやっていることについては、家族と同期と東京の飲み屋で出会った友達以外誰も知らない。別にやましいことはないのだが。
地元の友だちの良いところは、(私の周りが特にいい子たちばかりだということもあるが)どんなに久しぶりでも話せば一瞬で当時の関係に戻れるところだ。私はみんなが大好きだ。
しかし、それぞれの近況に話が及ぶと毎回少しびっくりしてしまう。
みんな私の漠然とした近況を聞くと、口を揃えて「すごい!」とか「かっこいい!」とか言ってくれる。
私からすれば、みんなの方がずっとすごい。ずっとえらい。
私はなんだか変な笑いが止まらない。マジウケる。
自分で言うのもなんだが、「私ってどちらかと言えば優等生タイプじゃなかったか?」と思う。高校までは成績も悪くなく、校則も守り、先生とも友達とも仲良くやる品行方正なタイプだった。
「しっかりしていて落ち着きがあるから」という理由で保育園でも児童館でも、私だけ先生から「さん」付けで呼ばれていた過去の面影はもうない。落ち着きのかけらもない。
「年の割に落ち着いてるよね」とは小さい頃から今まで一貫して言われるが、人生に関してはここ数年で突然落ち着きを失った。
一体いつどのタイミングからこんなことになったのか。
保育園卒園時の将来の夢はピアニスト。小学校卒業時は警察官。中2の時はビッグバンドのトロンボーン奏者。中3の時は国語辞典の編集者。高校時代はエッセイストになりたかった。
そして今は何を思ったのか東京でお笑い芸人を目指している。
私はつい最近までお笑いをやってみようだなんて露ほども思わなかった。
その時々の憧れは色々とあれど、小さい頃から音楽が好きで、工作が好きで、言葉が好きだった。漠然と「なにかをつくる人」になりたかった。それは今も変わっていない。
ただし、なんだこれは。
なぜだ。
いつからこうなった。
一応言っておくと、私はお笑い芸人を目指している今の自分を、別に嫌いなわけではない。
もちろんしんどい時もあるが、とても楽しい。すごく楽しい。
ただ時々、ふと地元の同級生とのライフステージの違いに驚愕するのだ。
自分のこれまでの人生を考えると、意味が分からないのだ。
私の人生が王道の安心ルートから逸れたのは、多分暗黒の高校時代(それについてはいつかどこかで書くかもしれない)が起点かもしれないと何となく思う。あるいは、好奇心旺盛ながらも「いい子」で過ごしてきた反動かもしれない。
私だって、少し前までは順調に大学を卒業し、どこかしらに就職をして安定の人生を送るつもりだった。そんな私は気が付いたらある種虚構の世界に身を置いている。
それに対し、小学校の時20分しかない休み時間でわざわざ校庭に出て一緒にドッヂボールをした友達は、放課後に公園のベンチで一緒に妖怪ウォッチをやった友達は、休み時間に図工室の机の上を飛び移りながら走りまわって怒られていた友達は、続々と社会人になっていく。
あぁ怖い怖い。
時の流れも、友達も、みんなすごい。
将来が怖い怖いと思いながら、一方でこの世の誰よりも自分の将来を知らんこっちゃないと思っている自分が怖い。
同級生たちには、ぜひともそれぞれ楽しく幸せに生きて欲しい。そしていつまでも私と仲良くして欲しい。
私がライフステージを進めるにはまだもう少し時間がかかりそうなので、とりあえず今はどんどん進んでいくみんなの、時々ちょっと振り返る場所でいられればいいなと思う。