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#6 時の流れに身をまかせ

この時期になると、毎年毎年「もう年末か。早いなぁ。」と思う。
これまでの経験から、年明けの段階で既に予測出来ていたにも関わらず、懲りずにまた同じことを思っている。

年越しの瞬間は今でもテンションが上がる。どれだけ誘っても普段通り22時過ぎには寝てしまう母に、「おやすみ」と言いながら内心で口を尖らす。
考えてみれば、確かに大晦日も元日も人間が勝手に決めた区切りなので、いつも通り日が落ちて日が昇るだけにすぎない。そう自分を納得させてはみるものの、大晦日の特別感に踊らされない母はやはり強い。最強だ。
私がそれほどまでにどしっと構えて生きられるのは一体いつになるだろうか。今はまだ想像もつかない。

過去を振り返って、以前の自分からは想像もつかなかったことと言えば、それこそ年越しを迎えるときの過ごし方についてだ。
私が初めて起きた状態で年越しを迎えたのは、確か小学5年生の頃だったように思う。毎年家族全員起きた状態で年越しを迎えるという友達の話に憧れたことがきっかけだった。
しかし、毎日きっちり22時には布団に入って必ず5分以内に寝付く超健康的かつ模範的児童だった私にとって、日付が変わる0時まで寝ずにいることは過酷を極めた。

結局私は、放っておくと自動的に降りてくる瞼と格闘しながら宿題の算数ドリルを無我夢中で解き、なんとか年越しを迎えたと記憶している。今思えば、大晦日の風情などあったものではなかった。

そんな私も、中学生になると簡単に日付が変わるまで起きていられるようになった。中学に進学し、週7の部活に加え、宿題の量が倍増したことで22時就寝が叶わなくなったからだ。

こうして私にとっての年越しは、「0時まで耐える」から「え、あと10分で今年終わり?」へと変化した。
小学校時代、年越しの瞬間まで普段は寝ているはずの2時間を永遠のように感じていたのに、中学生になった途端拍子抜けなくらいあっさりと年越しを迎えた。この変化は、私にとって大きな衝撃だった。

さて、時は流れて7年後。私は21歳になり、まもなく2024年から2025年への年越しを迎えようとしている。
そんな私から、生まれて初めて起きた状態で年越しを迎えようと血眼で算数ドリルを解いている小学5年生の私へ伝えたいことがある。もしそんなことが現実にできるなら、こんな手紙を渡したいと思う。


まもなく年越しを迎えようとしている小5の私へ

21歳になった私です。
今のあなたには想像できないでしょうけど、あなたは20歳になってすぐ上京し、その1年後、お笑い芸人を志して吉本の養成所に入ります。嘘のような本当の話です。
お笑い芸人なんて、この世で一番自分から遠い職業だと思っていました。まったく不思議なものです。

もうひとつ、昔の自分からは想像できていなかったことがあります。
2024年夏、あなたは一種の睡眠障害に陥ります。生活リズムが狂いに狂い、午前4時半を過ぎなければ眠れなくなるのです。
反対に、朝は全く起きられず、放っておくと昼過ぎまで寝てしまう体になります。また、大事な用事がある日には21にもなって実家の母にモーニングコールをしてもらうことになります。スマホのアラームでは起きることができず、モーニングコールを頼んだという申し訳なさや責任感で無理やり体を起こすことになります。
これは流石にヤバいと思い効果的な生活リズムの直し方をネットで検索したところ、自分の状態にぴったりと当てはまる睡眠障害の存在を知ることになります。病院に行けと書いてあります。

小5の私は、血眼になって算数ドリルを解くことで年越しまでの時間を耐えていると思いますが、21歳の私にとって日付の変わる0時とは、「いつの間にか過ぎ去っているもの」です。なんならその日の予定によっては0時なんて余裕で外出中です。

私に限ってそんなことが起こるはずないと思うでしょう?現実に起こるのです。
私が一番びっくりしています。時の流れって面白い。

ちなみに、夜中の時間は思っていたよりも楽しいものです。生活に支障をきたす睡眠障害は流石に困りますが、ほどほどであれば昔は知らなかった方法で心を豊かにする時間です。
時間を忘れるほど一つのことに集中して、それ以外を空っぽにすることもできます。飲みに出かけた先で、年の離れた友達ができることもあります。
とても面白いです。

つまり何が言いたいかというと、生きていれば少し前には全く想像もしていなかったことが簡単に起こりうるということです。
健康を害するようなことは流石に困りますが、「知らないものをどんどん見たい、知りたい、体験したい」という欲求にまみれた私にとって、それは嬉しくもあります。
とりあえず今のところは、面白い方に突き進みながら、いつも鼻歌を歌えるくらいの余裕と何が起きても楽しむ気概をもって生きていたいです。


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