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#7 LAST CHRISTMAS
2023年12月25日。私は1人、渋谷のヨシモト∞ホールにいた。
世間はクリスマスで沸き立っているというのに、上京1年目で東京に友達のいなかった私には予定が1つもなかったのだ。
クリスマスを1人で過ごさなければならないという現実は、普段単独行動を好む私にも少なからずダメージを与えた。前年までは実家に住んでいて家族がいたこともあり、そのギャップも手伝ってこのままでは惨めな気持ちで終わってしまうという危機感があった。
私はホフディランの「スマイル」よろしくこれ見よがしに惨めな顔をしている人間が嫌いなので、どうにかしてこの危機を脱さなければならなかった。
いろいろと考えた結果、私はこう思った。「どうせ1人なら、大勢いるところで笑って過ごしてやる!」と。
こうして私は12月25日、公衆の面前でいちゃつくカップルなどものともせず、1人で渋谷はヨシモト∞ホールへと突き進んだ。
結果から言えば、昼過ぎから夜遅くにかけて1日で3公演を鑑賞し、終始笑い転げるというとても充実した1日を過ごすことができた。
そして突然話が大きくなるようだが、今思えばこの1日が現在の私を作ったと言っても過言ではないと思う。それくらい充実した1日になった。
1公演目は∞ホール特別公演「ワラムゲ!SP」。この日は偶然にもM-1グランプリ2023決勝翌日で、M-1終わりたてホヤホヤの猛者たちを大勢生で見ることができた。
人気と実力を兼ね備えた芸人さんが次々にネタを披露していく中で、特にゆにばーすさんから受けた衝撃は凄まじかった。あまりのかっこよさに、笑いながら泣きそうになった(帰り道で思い返してちょっと泣いた)。
今思えば、私が芸人さんに憧れを持ったのはあの時が初めてだったように思う。
また、コーナーも凄かった。
客席のお客さんから直接私物を借りてモノボケをするという企画が行われたのだが、そこで見たレインボーのジャンボさんの立ち居振る舞いがとても印象に残った。
私の右隣のお客さんからマフラーを借りたジャンボさんはしっかりとモノボケでウケたあと、マフラーを返しに来て「おかげでめっちゃウケたわー」とお客さんが1番喜ぶ一言を発したのだ。
成功する芸人さんというのはお笑いのセンスだけでなくこういった部分も優れているのだと痛感した。
2公演目はクリスマスらしく「プレゼント交換会」と銘打ったコーナーライブだった。
芸人さんたちがそれぞれプレゼントを持ち寄り、他の人のプレゼントの中身を予想しながらプレゼント交換をするという和気あいあいとした企画だった。寂しかった私の心が温まった。
2公演目を見終わったあと、そろそろ帰ろうかと思っていた時だった。
帰るついでにと思って寄った劇場近くの飲食店でふとインスタを開くと、私の推しである紅しょうが稲田さんがその日開催される同期ライブのチケットを手売りするとの告知を発見した。稲田さんを敬愛してやまない私にとって、これ以上ない朗報だった。
私はあっさりと予定を変更することにし、せっせと財布の紐を緩めた。
告知の時間を目掛けて劇場のロビーに入ると、既に何人か稲田さんのファンと思しき同志が集まり始めていた。私にとって始めて間近で稲田さんにお会いできる機会とあり、徐々に増えてくる同志を横目にそわそわしながら待っていると、ブルーのニットに安定のショートパンツを履いた稲田さんがいらっしゃった。
結果的に言えば、稲田さんと1分近く1体1でお話出来た上、チケットにサインをもらい、写真まで一緒に撮っていただいた。チケットの手売りというのがここまで距離の近いものだということをこの時初めて知った。
手売りから約1時間後、買ったチケットのライブが始まると、先ほど緊張していた私にもフランクに接して下さっていた稲田さんが凛とした姿でステージに立っていた。あまりのかっこよさに、私はまた笑いながら泣きそうになった。
ライブが終わると、興奮でほくほくしていたので少し外を歩いてから電車に乗った。
しかし興奮冷めやらぬまま、電車のなかで先ほど撮っていただいた稲田さんとの2ショットを印刷すべく、写真屋さんにネット注文した。
その2ショットは私にとって家宝に他ならないので、データと紙の2パターン残しておけば仮にスマホのデータが全て飛んでも、家が家事になっても私が生きている限りどちらかは残ると考えたからだ。
その日はもう夜遅くで写真屋さんが閉店してたので翌日朝一番で印刷された写真を取りに行き、家に戻って綺麗にファイリングした。
こんなことを稲田さんご本人がもし知ったらドン引きものだと思うが、これがオタクの性だ。仕方がない。
以上が、2023年12月25日クリスマス当日の華麗なる私の過ごし方だ。最高に充実した1日だった。異論は認めない。
どれくらい最高だったかというと、1年後に思い出してみんなにひけらかしたくなるくらい最高だった。
私もいつか、誰かにとって最高の1日を作ることが出来ればと思う。
(このnoteは本来2024年12月25日頃に投稿予定でしたが、諸事情により投稿が遅れ、なんだかんだで年を越してしまいました。それにより事前に決めていたタイトルがとてもややこしくなってしまいましたが、せっかく書いたのだからという卑しい心でそのまま投稿します。)