語源)背広の語源について:追記あり
X(Twitter)で、次のようなポストを見かけた。
背広の語源の話がえらい反響なので、かる〜く表面の部分だけ解説しようと思います
— 灰田かつれつ (@Haidacutlet) November 25, 2023
ちゃんとした論文形式の解説はこれからしっかり作るつもりですからご容赦ください
面白いと思ったので、いくつか調べてわかった情報を公開する。
まず、日本国語大辞典第二版の語源説を見る。
手元にないので、精選版(コトバンク)。
どうやら、背が広いという説の他に、外来語由来説がいくつかあるらしい。漢語との関係を指摘する説もあるようだ。
これらは、意味由来であるとする説と発音由来であるとする説に大別できる。
次に、国立国語研究所の論文データベースを見る。
https://bibdb.ninjal.ac.jp/bunken/ja/article/100000096428
https://bibdb.ninjal.ac.jp/bunken/ja/article/100000103279
https://bibdb.ninjal.ac.jp/bunken/ja/article/100000164199
①向井 敏(1989.04)「読書遊記(76) 「背広」外来語説存疑」『本』 14-04, 講談社
②柳 洋子(1987.02)「衣とことば(7) 背広」,『 月刊言語』 16-02, 大修館書店
③杉本つとむ(2008.10)「連載;近代訳語を検証する(62)——せびろ(Sack-coat)・ちょっき(Jak)・ずぼん(Jupon)」, 『国文学 解釈と鑑賞』 73-10, 至文堂
上記のような先行研究があるようだ。
さらに、次世代デジタルライブラリーで検索してみる。絵入智慧の環以降、1873年あたりから多く見られる。
(1873)文明千字文 : 校刻
広瀬白李 編(1873)ちゑのをだまき
浦野鋭翁 編(1874)旁訓単語篇 2
結論は出せない。そもそも、外来語由来説(発音由来説)は、当て字としての漢字が後発であることが根拠のように思われる。そのため、ルビとしての使用に限らず、初出を整理してみないといけない。辞書類に載るより前に使用されているはずである。
追記(2023/12/20 23:59)
河野 庸二(1996)「語源覚え書き 3」
英単語のいのち→なにか書いてあるかも?
追記(2023/12/22 0:02)
開知日用便覧 初編
■Jacketの訳語から攻めてもいいかも?
→この時期は、はんてん・はおり、が訳語にあがる
→ちゑのをだまきで、ジャケットをせびろと呼ぶのは異例
→Sack-coatの訳語を追うべきか?
■背心の例
袖のないチョッキのことか?脊裕・脊心の例は見当たらない。ハイシンと読むらしい。
背広との関係は不明。
■背が広いことに言及
垣内松三(1934)国文鑒 : 教授参考書 巻4 (四学年用)
追記(2023/12/31)
■明治期の語源説として「背が広い」があることは、語源が「背が広い」であることを保証しないと思う。古い文献の語源が確かであるとは言えないし、漢字が「背広」であるから、異分析はされやすいほうだと思われる。
■「脊広(セキクヮウ)」という漢語由来(脊広をせびろと訓読みした)であるとも考えられる。
背と脊の関係はどうなのか。→脊骨・背骨の例がある。
なお、この場合、「せびろ」は「背が広い」という意味だろう。
■語源説は次のようにまとめられる。
①「セビロ」という発音が先(外来語由来)で、「背が広い」という意味・「背広」という漢字が後
②「背が広い」という意味・「背広」という漢字が先(日本語由来・漢語由来)で、「せびろ」という発音(訓読み)が後
ルビでない表記が古い時代に多い・セビロに近い発音の外来語が多く入ってきていたことを示す証拠が多い、などの理由があれば、①が妥当か。
他方、背広という漢字に対するルビとして使われていることが多いなら、②が妥当か。