小汚いおじさんの話
昨日、染め作業中にふと昔出会った小汚いおじさんとの会話を思い出したので書いていこうと思う
その日おれは四国のとある野外音楽イベントに行っていた
いわゆるフェスのようなものではなく、都会から身を引いた、日に焼け、自由で幸せな表情をした人ばかりが集まるような場だった
そんな中に一際目立つ小汚いおじさんがいた
なぜかおれはそのおじさんに気に入られたようでしばらく行動を共にしていた
飯を奢ってもらい、うろうろしているとTシャツやら小物やらを売っている店があった
そのおじさんはどうもそこのTシャツが気に入ったようで、胸の辺りに鳥の模様がプリントされた白いTシャツを購入した
シンプルなTシャツだが、生地がいい物らしく、デザインの割に7000円くらいだったような気がする
このおじさんはどうやら小汚いが、飯も奢ってくれるし、お金がないわけではないらしい
お金を支払い、Tシャツを手にしたおじさんだったが、全体的に小汚いので新品の白いTシャツがどうにも雰囲気が合わず、浮いていた
おじさんはしばらく歩くと、Tシャツを水で濡らし、おもむろに地面に擦り付けだした
おれは突然の出来事に動揺し、なにも言わずただその奇行を眺めるばかりだった
しばらく擦り付けたあと、おじさんはどうだ、と言わんばかりにおれにそのTシャツを見せつけてきた
先ほどまで綺麗な真っ白だったTシャツは見事なまでに小汚くなっていた
まるでそのおじさんが長らく着ていたような小汚さだ
まだ若かった当時のおれには理解できず、なぜそんなことをするのかと尋ねてみると、詳しくは覚えていないが、『これが自分の生き方や』的なことを言っていたと思う
当時のおれには理解できず、頭のおかしいおじさんがいるもんだ、と思っていた
それから数年後、おれはどこか小汚いような服を好むようになっていた
長年履いて色褪せた作務衣や、ヨレたTシャツなどが好みになっていたのだ
今ならあのおじさんの言っていたことがわかるような気がする、綺麗な場所や綺麗な服は落ち着かないのだ
草木がある場所には土があり、土があれば服は汚れる
生き方、ライフスタイルということだ
あのおじさんは新しく買った服を自分のライフスタイルに素早く落とし込むべくなんの躊躇もなく土をつけたのだ
見習っていきたいと思う。
自分は今ベンガラ染めという技法で服を染めているが、これがなんともいい色味で、新品の服でも長らく着たような良い風合いと味が出るのだ
ベンガラは土から取れる原料で、言うなれば泥染めというものだ
あのおじさんがしていたようなことを今、生業として自分がやっていると思うととてもおもしろい
人生わからんもんである
虚空坊主
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