【鉄腕アダム】超高品質なオマージュにあふれたSFマンガ
アトムとエヴァンゲリオンと攻殻機動隊
身も蓋もないことを言ってしまえば、本作『鉄腕アダム』は
鉄腕アトムみたいな心あるロボットが攻殻機動隊みたいなサイバーパンクの世界でエヴァンゲリオンの使徒みたいなやつと戦うマンガ
だ。
あ、いや待って、まだ閉じないで!
「アッハイ、キミそういう人ね」って言わないで。わかりやすく伝えるにはこれが一番だと思うから!!
その「みたいな」の元ネタを、現代に合わせてちょっとずつ、いいとこ取りで組み合わせて独自の世界を作り上げているのが、本作のすごいところ。
その独自の世界の完成度が高いから、たとえ元ネタを知らなくてもめちゃくちゃ面白いし、元ネタを知っていると、たまらなくオタク心を刺激される。
地球を守るSF…今のところはnotセカイ系
本作の魅力をひとことで表すと現実の科学の、とくにファンタジックな部分を拡張してマンガに落とし込んだ、ストイックなSFであることになるだろう。
ストーリーそのものは「◯◯みたいな」で説明できてしまえるのだが、面白さのキモは、あちこちに散りばめられた最新科学のうんちくだ。しかも、それがすこぶる分かりやすい。
・機械工学
・情報科学
・AI(シンギュラリティ)
・クオリア(哲学的ゾンビ)
など。作中の解説はほとんどないので読み始めは正直ちょっと戸惑ったのだが、「これはアレの事を描いてるんだな」と気付き始めたら、もう面白くて面白くて!
私がとくに気に入っているのは、「哲学的ゾンビ」の描写だ。「ハートを持たない人間」のジェシーと、「心を持つロボット」のアダムが無二の親友という設定なのが、非常に倒錯的でアツい。
あと、性的なサービスシーンが無いのも良い。女性も出てくるけど、みんな有能な職業人だ。添え物でもトロフィーでもない。(私はアダムがボロボロになっている姿にたいへん色気を感じるけど少数派の自覚はあります)
作者の方は性描写のコントロールが上手いのだと思う。ドアノブ写真集の人だし。
パクリ?オマージュ?
「みたいな」なんて言うからパクリっぽく聞こえてしまうよね、ごめんなさい。
ただ、創作物のアイディアに「真のオリジナル」なんてものはそうそう存在しないと思う。「ネタ被りを慎重に回避すること」を創作に課すのは筋違いだ。創造は、過去の模倣からアップデートを重ねて生まれるものなのだから。
じゃあ、丸パクリがどうして悪なのか?といえば、私は「決してオリジナルを超えられないから」と考えている。
劣化コピーは、発信者の技術を上げることもないし、受け手の感性を磨くこともない。そんなものは誰も幸せにしない。
そんなのが「オリジナルでござい」という顔で発信されているのなんかは最悪だ。
本作は、いっそすがすがしいほどにオマージュ元をまったく伏せず、古典の名作をブラッシュアップして完成度の高い世界を作り上げてきた。この作品を紹介するときの「○○みたいな」は賞賛を意味すると思う。
シン・ゴジラ好き、ガンダム好きなら絶対ハマれる
全然違うって思います?いやいや、そんなことないよ。
作品単体としての質の高さ、随所に散りばめられたオマージュ元への敬意。元ネタと、自分の表現したいものと、エンタメへの誠実な愛を感じる。
元ネタを知らなくても「これはオマージュなのだろうなあ」と思う場面がしっかりある。そして、「オリジナル作品は、こんなふうに面白かったのか」と感じられる。考えながら読むのが好きな人にオススメしたい。
それで、もし元ネタを知らなかったとして、
アダムとジェシーの関係を面白いと思ったら鉄腕アトムに。
世界観がクールだと思ったら攻殻機動隊に。
「蝶」との戦いがカッコいい!と思ったらエヴァンゲリオンに、興味を持ってほしいな、と思う。
きっと、オタク心を満足させる作品に出会えるはずだ。
投稿日 2017.10.07
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