産後クライシス 3 衛生系短編集

(読了目安12分)

前回の最後は以下でしたね。


子どもの手洗いなど「衛生」に気を使う親に対して、「そんなに気にしなくても死なないわよ」「少しぐらい感染した方が子供が丈夫になるわよ」、こんなふうに言う人がいます。
みなさんはこんな人が自分の親だったらどう思いますか?



さて、みなさんは上記のようなことを言う人をどう思いますか?
以下、いろいろな方向から考えてみましょう。

何度も登場するキーワードは、

「そんなに気にしなくても死なないわよ」

「少しぐらい感染した方が子どもが丈夫になるわよ」

です。

このキーワードに沿って短編を7話、そして最後に「まとめ」です。

1:がんばってお掃除
2:江戸時代
3:ネパールで
4:A子とB子
5:自分の実力の範囲内で
6:本質は
7:愛なら胸を張ってください


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1:がんばってお掃除


前回投稿の「ミルクとオムツ」に関連した内容です。

ミルクは口に入るものですから、哺乳瓶が雑菌で汚れていると子どもが感染症に苦しむ確率が上がります。
また、オムツ交換にしても、排泄物を赤ちゃんが手で触ってしまうと、その指を舐めたり、そのまま家のあちこちを触って不衛生になったりします。


感染症によっては、ミルクを飲んでは吐き、下痢にもなります。
下痢や吐いたミルクの中には、感染症の原因菌が含まれます。
赤ちゃんは通常、洗面台まで行って吐いてはくれませんし、下痢はオムツから漏れ、布団や床に付着することもあります。
それらはふき取っても完全にはふき取れず、そのまま乾燥し、やがてホコリになり舞い上がることで、次の感染症の原因になります。


ですから、少しでも感染症を防ごうとして掃除をするお母さんに対して、「そんなに気にしなくても死なないわよ」「少しぐらい感染した方が子どもが丈夫になるわよ」なんてマスターは言えません。





2:江戸時代

江戸時代は、現在よりはるかに、「無添加・無農薬・自然食品」に近いものを食べていました。
現代人の中には「無添加・無農薬・自然食品」などが、病気の予防や自然治癒力にとって大切だと考えている人もいますが、そんな食品を食べていた江戸時代の人の平均寿命が40歳代なのは、「不衛生さによる感染症」が主な原因のひとつです。
当時は感染症に対する認識が今よりも甘く、頻繁に手を洗う習慣もありませんでした。
また、今のような水道設備や浄水設備がないため、洗浄に使う水そのものが不衛生でした。


平均寿命が短い主な原因は「子どもの死亡率が高い」ということです。
つまり、「無添加・無農薬・自然食品」などの健康食品と言われるものを食べていても、感染症を予防できず命を落としていく子どもが多いということです。
ですから、健康食品にこだわる以上に、感染症の予防にこだわることが大切です。
にもかかわらず、子どもが体調を崩すと「健康食品」に頼って感染症を防ごうとする、または治そうとするお母さんがいます。
さらには、子どもに対して頻繁に手を洗わせたり、エタノール消毒などの衛生に気を使う親を見て、「そんなに気にしなくても死なないわよ」「少しぐらい感染した方が子どもが丈夫になるわよ」なんて言うお母さんもいます。


でもどう思いますか?
死なないように育てるのが育児の目的ではありませんよね。
それに、「少しぐらい感染した方が丈夫になる」という言葉に一理あるにしても、結局感染症が多かった江戸時代の方が、子どもの死亡率がはるかに高いんです。
感染症になり、生き残った子どもは丈夫になるかもしれませんが、生き残って丈夫になった子どもたちの影で死んでいった子どもたちのことも忘れてはいけないはずです。


子どもを病気にさせたいと思う親はいません。
病気になるかならないか選べるなら、親は病気にならない道を選ぶはずです。
それに、もしあなたが赤ちゃん本人だったら、「そんなに気にしなくても死なないわよ」「少しぐらい感染した方が子どもが丈夫になるわよ」なんて言う親に育てられたいでしょうか。
マスターが赤ちゃんなら、母親にできる最大限の努力をしてもらえたら、安心していられます。




3:ネパールで

生後4か月の赤ちゃんの母「A子さん」は、「ゆるく生きる・細かいことにこだわらない・自然は優しい」というオーガニック的な考え方をベースに生きていて、普段から、子どもの衛生に気を使うママ友に対して「そんなに気にしなくても死なないわよ」「少しぐらい感染した方が子どもが丈夫になるわよ」と言い続けていました。
A子さんには、そこまで衛生面を気にして世話をする必要性は感じられず、違和感があったんです。


むしろ「少しぐらい不潔な環境の方がオーガニック感があっていいわよ」「オーガニックな私ってイケてる母親ね」という自負さえありました。


そんなA子さんはあるとき、1歳になる自分の子どもを連れ、ネパールの山奥に行くことになりました。
オーガニックライフの実践をしている現場を見学しようと思ったんです。


しかし誤算がありました・・・


ネパールの山奥の子たちは、オムツなしで歩き回っていて、土間に座り、自分の排泄物をベタベタとこね回している子もいます。
そんな中、気がつくとA子さんの子どもも一緒になって排泄物を触っていたんです。


A子さんは「汚いからやめなさい」と自分の子どもを叱り、近くにいたネパール人のお母さんに尋ねました。


A子さん 「すみません、手を洗わせたいんですけど、水あります?」


ネパール人 「手を洗うの? そんなに気にしなくても死なないわよ」


A子さん 「でもさすがにウンチは汚いですよ。病気になったら怖いし、洗ってやりたいんです」


ネパール人 「だいじょうぶよ、少しぐらい病気になった方が丈夫になるわよ」


A子さん 「心配なんです。お願いです、水くれません?」


ネパール人 「しょうがないわねえ、いいわよ、そこの水で洗いなさい」
と家畜の飲み水を指差すネパール人


A子 「え?これ家畜用でしょ?なんだかヘンなものが浮いてて汚いですけど・・・」


ネパール人 「飲むわけじゃないでしょ?そんなに気にしなくても死なないわよ」


A子 「でもこれは絶対に汚いですよ・・・きっとお腹をこわします」


ネパール人 「あんた気にしすぎよ、少しぐらい病気になった方が丈夫になるわよ」

・・・

A子 ・・・いやあ、まいったわ、これが続いたんじゃ子どもが死んじゃうかも・・・(ネパールでは感染症で命を落とす子は日本よりたくさんいます)


参考:ネパールでの子育て風景

子育て風景




日本にいるときに自分が使っていた言葉をそのまま返されたA子さんは、人にはそれぞれに価値観の違いがあることを学び、日本に帰国してから、「そんなに気にしなくても死なないわよ」「少しぐらい感染した方が子どもが丈夫になるわよ」と言わなくなったそうです。





4:A子とB子

あなたのママ友のA子さんとB子さん。
A子さんは、子どもの衛生に気を使うあなたに対して「そんなに気にしなくても死なないわよ」「少しぐらい感染した方が子どもが丈夫になるわよ」というタイプの人、B子さんは「病気は避けられないけど、子どもにはできる限り気を使ってあげたいわよね」というタイプの人でした。


さて、どっちの家庭が愛のある家庭だと思いますか?





5:自分の実力の範囲内で

親は「子どもを守りたい」と思っていますから、子どもの感染症を予防しようとする努力は、間違いなく「愛」です。

「そんなに気にしなくても死なないわよ」
「少しぐらい感染した方が子どもが丈夫になるわよ」

これらはもちろん愛ではありませんが、だからと言って、「予防予防!」とムキになりすぎるとストレスになりますからがんばりすぎは危険です。
「愛する努力」の範囲でできる予防にしておかないと、実力以上のことをしようとする負担から、結局は産後クライシスになってしまいます。


「衛生」を考えるあまり、自分で自分を追い詰めないでください。
ストレスをかかえると、大切な部分に目が向かなくなります。




6:本質は

「そんなに気にしなくても死なないわよ」
「少しぐらい感染した方が子どもが丈夫になるわよ」
と言う人って、本気で言ってるんでしょうか。


たとえば、あくまでも仮にですが、病原菌のサンプルを使って、「子どもがかかりやすい感染症ベスト10」の病原菌を、意図的に感染させることができる場合、自分の子どもを積極的に感染させると思いますか?


「少しぐらい感染させた方が丈夫になる」と本気で思っている親なら、計画的に感染させるはずです。
計画的に病原菌に感染させることができれば、日程を組めますし、ほぼ確実に適切な治療もできますし、日常生活の中で意図せず感染症にかかってしまうより、親の負担は明らかに減ります。


でも、きっとやりませんよね。


ですから実際は、「少しぐらい感染した方が丈夫になるわよ」と本気で思ってはいないんです。
ではなぜ上記のようなことを言うかというと、ひとつには、「衛生に対して厳密で大変そうに見える相手のことを心配して」という理由もあるかもしれません。
しかしその場合、愛をこめて伝えますから、言い方はもっと穏やかになります。
つまり、上記のようなことを言う人は、愛ではなく、自分の価値観に固執し、自分の価値観を押し付けているわけです。
たとえば以下のような心境です。

新しい考え方や方法は受け入れたくないというこだわり

一昔前の安心感のある衛生維持方法に落ち着きたい


自分に知恵がなく、高度なことを理解できないことによる嫉妬


自分に余裕がなく、高度なことを実践できないことによる嫉妬


自分の価値観と違うことに対する恐れや否定


人間の歴史を知らないことによる自分の価値観への執着



自分の価値観が中心になってしまう人は、自分より衛生に気を使う親に対して「気にしすぎ」と違和感を覚え、また逆に、自分より気を使わない親に対しては、「もっと考えなさいよ」と違和感を覚えます。
手洗いやうがいの概念が出てきた当初、一般人は「気にしすぎよ・なにかの儀式?」と思ったようですが、今は当たり前になり、それを「気にしすぎ・神経質」と言う人はほとんどいません。
同じように、現在みなさんにとって気にしすぎだと思われることも、将来は当たり前になるものがあると思います。
その行動が人類の進化の方向、つまり「病気を遠ざける方向・清潔化の方向」なら、それを否定するのは愛ではありません。


「子育て」というものに正解はありませんから、せめてできることは、他人の価値観を否定しないことです。
他人の価値観を否定しない人は、自分の価値観も認めてもらい、お互いが争わず共存できるわけです。




7:愛なら胸を張ってください

マスターの家庭では、「健康食品」と呼ばれる食品を与えるよりも、「感染症の予防」を重視して子育てをしていますが、もちろん病気はあります。
しかし「結局病気になるんだから気にしなくていい」と言っていたら、極論すれば、子どもがバタバタと命を落とす時代に戻ってしまうわけです。
また、感染症になるということは、病人が病原菌を撒き散らすことでもありますから、周囲に対して負担になっているわけです。
子どもの感染症が親に感染することもあり、親子で心身共にストレスをかかえれば、周囲の負担は増えてしまいます。

そんな意味からも、自分の子どもが病原菌の発信源にならないように予防することは大切です。
子どもが病気にならないほど、産後クライシスもなくなっていくと思います。


人類の歴史は病気から逃れるために努力を続けた歴史、言ってみれば「清潔化の歴史」でもあります。
病気の予防を高い次元で実行できる人が愛に近いんですから、胸を張って感染症の予防をしていいんです。

繰り返しますが、「そんなに気にしなくても死なないわよ」「少しぐらい感染した方が子どもが丈夫になるわよ」、このセリフは、衛生面に気を使う親に対して常に投げかけられる言葉かもしれません。


しかしあなたが愛をそそいでいるなら、たとえそう言われてもきっとストレスはないはずです。
むしろあなたが周囲の無理解を理解してあげてください。
そして愛をそそいでいる自分に誇りを持ち、胸を張り続けてください。
マスターは応援します。




◎最後に

結婚すると、いろいろな「クライシス」があります。
というか、結婚前からすでにいろいろありますよね。
お互い出会って間もないころは、「イチャイチャ・ラブラブ」でいいんですが、結婚して10年20年愛をそそぐとなると、それが難しくなります。
1、2年しか恋愛が続かない人も多いですから、恋愛より大変な結婚生活を子どもを交えながら安定して続ける難しさは想像できますよね。
しかし、やればできないことではありません。
必要なのは、いつも愛する努力を続けることです。


みなさんは、試験を受けるときは試験勉強、資格を取るときは専門的な勉強、就職するときは就職活動と、目的に応じた努力をしてきたと思います。
運動だって、テニスやスキーの上達を望むなら、相応の努力をしたはずです。


ですから、「平和に生きたい・愛されたい」と願うなら、相応の努力が必要だということはわかっていると思います。


空を見上げ、
「ありのままの私を好きになってくれる男性はいる」
「いつかきっと誰かと出会う」
なんて言っても望みは叶いません。


だってそうですよね、試験や資格、就職、運動・・・どれをとっても、「ありのままの私で合格・就職・優勝したい」「いつか合格する」なんて言っていたら、相手にされませんから。
相応の努力をすることが大切なんです。


マスターは料理をしますから料理の話になりますが、たとえばトマトをキレイに切るなら、相応の方法があり、その方法を実践すればキレイに切れます。
また、昔は写真をやっていたことがあるので、キレイな写真を撮るなら、相応の方法を実践すればできるわけです。
なにごとにも具体的な実践方法があるように、愛と平和の実現にも、具体的な実践方法があります。
それがいつも書いている「愛する努力をし続けること」なんです。


男性に対して不満ばかりで、「男はバカばっかり・イイ男がいない」と愚痴を言いながら40歳を向かえ、気付けば独りになっている女性がいます。
また、夫に対して不満ばかりで、自分だけが苦労していると思いこむ妻がいます。
彼女たちは、「愛する努力ではないこと」を「愛する努力」だと誤解したまま生きてしまった女性です。
本当の「愛する努力」を続けている人は独りにはなりませんし、「産後クライシス」もありません。



以上、3話続いた「産後クライシス」でした。
みなさんの子育ての参考になれば嬉しいです。

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