蘇るシンディ 第0.1話 灰詰め
髭の英語教師シンディにも、
子ども時代がある。
彼女は裕福な商人の娘だった。
しかし、実母が早くに他界した。
父親は悲しみに暮れて、
何年か過ごすうちに、
狂ってしまった。
現実世界から蒸発してしまった父親。
間もなく、
そんな彼を手懐けるように、
悪い女が継母となった。
継母には連れ子がおり、
少女シンディは、
欲しくもない姉を二人も得た。
***
父親の財産を食いつぶして、
贅沢三昧の継母と姉たちは、
暇な毎日の時間つぶしのために、
少女シンディを執拗にいじめ抜いた。
無理な命令や悪態によるいじめは序の口であった。
感情がエスカレートした継母は、
ロープで逆さに吊るした少女シンディに、
灰をぶっかけた。
そして、
口の中に、
灰のかたまりを詰めこんだ。
息ができなくなって、
少女シンディは意識を失った。
継母の異常な凶暴さを見て、
普段はいじめに賛同している姉たちも、
怖気付いた。
片方の姉は吐き、
片方はカラカラ笑いながら、
失禁した。
***
灰を詰められた状態で、
地下室に放置された少女シンディは、
朦朧としながら、
象徴的な夢を見た。
***
大昔。
男性として生きることを強要された、
身分の高い女性がいた。
彼女は、
無表情に椅子に座って、
無感情に判断を下し、
血の通わない事務的なやり取りに終止する毎日だった。
そんな彼女の内面で、女の本能は、
強く、しぶとく、生き延びていた。
彼女が毎日の退屈な業務を終えて部屋に戻ると、
ベッドの脇に暗号で書かれた手紙が置いてあるのだった。
彼女はそれを読むことだけを楽しみにして、
生きていた。
それは、唯一、彼女を女として愛している、
幼馴染みの下男からの手紙だった。
彼女は複雑な暗号を読み解きながら、
夜な夜な、自身の身体をやさしく愛撫するのだった。
ある日、暗号の手紙といっしょに、
ハーブオイルの瓶が置いてあった。
その日から、彼女はオイルでマッサージをするようになった。
するとどうだろう。
彼女はベッドから、
朝、
部屋の外に出るだけで、
立派な髭を生やした紳士に変身することができるようになった。
そして、
日暮れ後、
ベッドルームに帰り、
オイルで軽くマッサージするだけで、
美しい女性の姿に戻ることができるようになったのだ。
彼女は、
昼の、強要された男性としての責務を遂行しつつ、
夜の、女性としての人生も並行して楽しむことができるようになった。
しばらくして、
幼馴染みと通じるようになった彼女は、
ほどなく子をもうけ、
シンディそっくりの赤子を産み落とした。
***
少女シンディは、はっとして目を覚ました。
彼女は、灰だらけの地下室の中で、
なんとなく、
二枚のタロットカードを見たような気がした。
一枚は、XII吊るされた男。
それはまるで、地下室でいじめにあっている自分のようだった。
もう一枚は、II女教皇。
それはまるで、夢で見た母のようだった。
(続く)
イラスト提供:中村カナコ
https://www.instagram.com/nkanaco
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