「齢73」制作エピソード・田勢康弘
歌唱・作詞:田勢康弘
小田純平は53歳になるとき、「53」というタイトルのアルバムを出した。なかなかいいタイトルだなと思っていた。あるときなんとなく自分の年齢を考えてみた。あれっ?いくつになるのかな?そうか73歳になるんだ。そこで「73」というタイトルの歌を書くことにした。
初めに書いた詞は気に入らない。「母親が死んだ歳をとうに超えたのにあの歌が歌えない、おふくろさん。涙で声が濁るんだ」。そんな情けない詞だった。石原裕次郎は晩年「我が人生に悔いなし」と歌った。ああいう歌は大スターだから許される。ちっぽけなわれわれの人生は悔いばっかりだ。子供のころ卒業先で歌った「仰げば尊し」。あの中に「身を立て名を上げやよはげめよ」というくだりがある。振り返ってみればさして自慢するほど出世もしなかった。だけど、それほど汚れた人生というわけでもない。「身を立てず名も上げずそれほど汚れずここまで生きた」。冒頭部分ができたらあとはすらすら言葉が続いた。
人生まだまだ夢の途中。自分を励ますつもりで書いたら、たくさんの同世代の人たちから「地味な人生を送ってきたサラリーマンへの素晴らしい応援歌」という声をいただいた。
「73」だけでは意味がわからないという指摘もあり齢を頭につけた。
弱いと勘違いされそうだが、ま、強いわけではないから、いいかな。