コロナ禍のなか “ホッ”とする器と出会う君の物語
日本が消えてなくなってしまうのでは…。と世界中を震撼させたあの震災と原発事故から、間もなく10年が経つ。
そして10年が経過しても、今もなお帰還困難区域として立ち入れない地域のひとつに、福島県浪江町の大堀がある。
その大堀に約350年継承される歴史を持つ国指定の伝統的工芸品・大堀相馬焼。
震災前には25軒あった窯元も、現在県内で作陶再開しているのは11の窯元だけである。
毎年、春に福島空港で開催していた新作展も、昨年はコロナ禍の影響により2020年中の開催は叶わなかった。
10年前は震災が、現在はコロナという災禍が、私たちの心に暗い影を落とす。
そのような状況にあって11の窯元は、再開し、窯業を続けることを選んだ。大堀ではない不慣れな場所で土や釉薬を調達し、窯をつくるところからの始まりだった。
会場にある器たちは各窯元が震災以降にそうした試行錯誤を繰り返し、生み出した器たちだ。この大堀相馬焼群とでもいうべき1000点以上にものぼる多様で豊かな作品の内には大堀相馬焼・陶人たちに350年継承されてきた技芸の知恵と魂が宿っている。
大堀の陶人たちが350年継承してきて、震災から10年、続けていく/続いていく、人々が織りなす「持続」の営みを象徴する音や音楽で会場を包み込んでいたい。というささやかな願いがあった。そんな折「関ジャム」という音楽番組で関ジャニ∞のメンバーも思わず黙り込んで聞き入った「2020年の命の応援歌」と紹介された「極彩|IGL(S)」という曲があった。2020年プロが選んだ年間マイベスト10曲の1位としてYUKI、Superfly、ゆず、Official髭男dism、米津玄師など、数多くのアーティストへ楽曲提供やプロデュース、アレンジなどを行っている音楽プロデューサー蔦谷好位置が1位に選んだROTH BART BARON(ロット バルト バロン)というインディフォークバンドの曲だ。このバンドの事は震災を機に東京から福島へ帰ってきた今は亡き友人の愛弟子が関わっていたバンドとして知っていた。だからこのバンドの曲が2020の年間1位に選ばれた事を素直に驚き、喜んだ。
この曲で淡々と刻まれるタムのビート。心臓の鼓動のようでもあると蔦谷好位置は言っていたが、本展にあっては粘土を整える菊練りのリズム。中心取りで土を叩くリズムのようにも聞こえる。
インディフォークのフォークとは本来民俗的な音楽を意味するから大堀というローカルで生まれた陶器の展示にもふさわしい。
そしてたびたび繰り返される歌詞のフレーズ「君の物語を 絶やすな」。
絶やさず歩んできた大堀相馬焼の350年の物語でもあり、コロナ禍の今を生きる私たちの物語でもある。
ひとりにひとつの物語があり、ひとりにひとつの器との出会いがある。
その器に、いのちをつなげる食を盛り近しい人たちとの会話や笑顔とともに食事をする。器を手にした時の温もりだとか、手に取った時の触感や、その日の味といった全てが食を共にする喜びと一緒に混然と記憶される。
私達は普段、器をそうそう意識して眺めたり、触れたりすることはあまりない。
主役ではなく脇役だから。
ある日、職場の昼時にお茶を飲むためだけの百均でいいや、と買った無地で無表情の白いマグカップで飲むコーヒーはあまりにも味気なくて、職場での孤独感を際立たせた。
味気なくてフィンランド生まれのあるキャラクターがあしらわれたマグカップに買い替えて飲んだコーヒーは妙にとても美味しく「ホッ」とした。その時、器ってちゃんと選ぶべきなんだな、とその大切さを思い知ったことがある。
本展はそんな、それぞれの器と出会う物語の場となることを願っている。
食を親しき仲間と共にする機会がコロナ禍によって喪われて久しい。
豊かな食が器という名脇役に支えられて楽しい時間であるようにと願う。
大堀相馬焼の窯元たちは、そう願ってひとつひとつの器をつくり、焼く。
そうした営みから生まれる器と人との、点と点のささやかな出会い、喜びが大堀相馬焼の350年の歴史を紡ぎ、震災10年の今までの歩みを支えてきた。
そうして私たちは、また一日を生き、一歩、前に進むことを喜び、感謝しあえる。
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