笑ってはいけない大宴会⑥~つるべ打ち~
ようやく……ってのも会長さんに対して随分失礼ですが……新会長さんの挨拶が終わりまして、でもまだ乾杯にはなりませんで、お酒にもお料理にも“お預け”がかかっております。
ステージ左脇(参加者から見ると右脇)の壁に掲げられましたる式次第によりますと、これから来賓の大物総長さん4名様の祝辞を賜り、その後“御歓談”の時間となります。
本当は来賓の大物総長さんは五名いらっしゃるんですが、そのうちのお一人は例の“広島のオジキ”ですんで、そら~あの行進に加えてスピーチもでは本格的な虐待になりますからね。
とは言え、残る四人のうち三名様はスピーチをシードされた“オジキ”に負けず劣らずの御高齢。
新会長さんの気迫と決意漲る挨拶に感化されましたか、どの方の祝辞も熱が籠もり力強さに溢れておりまして。
まず、皆さん大声を張り上げておられますが、不思議と大声を出そうとすればするほどマイクに近寄って行ってしまう。
当然の如くマイクが悲鳴をビーン!と上げまして、中には近寄りすぎて大きく開けたお口にマイクが吸い込まれてしまう方まで出る始末。
モガッ!!
加えて、いかに大物総長さんと言えど、マイクの前で700人を超える聴衆に向けてスピーチするなんて機会はそうそうあるもんじゃありませんから、そりゃあ緊張もしますしそれでいてテンションは爆上がりで頂点を極めておりますから身体の制御が利きません。
口の端から大きなヨダレ玉がダラ~ン。
名誉の為にどなた、とは申せませんが鼻提灯が顔を出した途端にマイクに鼻がぶつかりまして『水っ鼻の架け橋や~!』
「アカン!アカンでO久保ちゃん」
「そういうアンタも笑ってるじゃん!」
「言うな!前列の皆さんにバレてまうやろ」
「だって、ヤバいよ、これ」
「……地獄や」
で、最後に登場なさいましたのは中部地区一帯を治めてらっしゃる総長さんなのですが、この方、見た目ですと新会長さんと同年輩と思われますお若い方で。
でも新会長さんさんの気迫と諸先輩方のテンション爆上がりに感化されましたようで、顔を真っ赤に紅潮させながら身振り手振りも激しく力説なさっておられます。
そんな矢先に口先から一筋ツーッ!
「アッ!」と思ったんでしょうな、アゴをひいた弾みでおでこが直撃。
ボグッ!!
……一瞬、時が止まりましたわね。