テレフォン・ノイローゼ
え~、過去記事をあたかもNEWトピックスであるかのようにリニューアルしてみよう、という企画の第2弾でありまして、テーマはズバリ『変態』で御座います。
その病院では午後11時に院内の巡回をする事になっておりまして、その時間になりますと外来の当直看護師さんが事務所に来て下さって私の代わりに電話番をするって事になっておりましてね。
その夜も「お願いします」ってんで看護師さんに頭を下げ、手早く1階の施錠確認をしますというと階段で一気に3階へ上がり病棟を順番に見回って2階へ。そこでも病棟を順番に見回りますというと事務所へ戻るという手筈。
「ありがとうございました」
と事務所へ戻りますとね。電話が鳴ってる。これ、実は事務所へ戻る廊下の道中から呼び出し音がずーっと聞こえてたんです。
看護師さん、鳴り続ける電話機を睨みつけたまんま石のように固まってる。
「どうしました?」
声をかけますと看護師さん、ナンバーディスプレイを指差しまして、
「奴なの」
実はここ数日、看護師さんが事務所に詰めているこの時間を狙ってイタズラ電話が連日かかって来ておりまして、これが『変態』。
どう変態かと言いますと、とにかく女性に、
ウ○コ
と言わせたい。その女性(=看護師さん)が独身だろうと既婚者だろうと、二十歳そこそこの新人さんだろうと定年間際の大ベテランだろうと、そこに一切こだわらない。
その“無差別級チャンピオン”ッぷりが『変態』具合を際立たせておりましてね。
「出ないんですか?」
ちょいと意地悪心で尋ねますと看護師さん、
「イヤよ~」
と言って顔をしかめます。
その瞬間に目の下辺りから頬骨辺りのファンデーションがピピピッ!ひび割れましてね。
『どんだけ塗っとんねん。新築戸建て住宅の外壁か!?』
その看護師さん、どうやらご本人的には三十五歳前後に見られたいらしく、ヘアスタイルからプロポーションにも気を配っておるようですが、言うて来春に大学受験を控えた息子さんがおりますんで実年齢は“推して知るべし”であります。
となりますって~と必然的に“強引なメイク”にならざるを得ん訳ですな。
『今更恥じらうトシでもないやろ』
とはいえ、イタズラ電話には腹立ちますし、まぁ興味半分で出てみる事にした。
裏声…所謂ファルセットを使って女性になりすまします。
皆さんね、「そんなの一発でバレるだろ!」と思うかもしれませんけど、スマホ同士は別にして特に固定電話の音質って思ってる以上に悪いんですよ。
だから勿論ファルセットの“腕次第”ではありますが頭に変態ウィルスが増殖しとる奴ぐらい、騙すのは簡単なんです。
「ん~、もしもし?🖤」
ええ、滑り出しは順調。奴の手口は診療依頼を装って会話の流れから何とか「ウ○コ」に引き摺り込もうというもの。
例えば、
「お腹が痛くて」
「便秘だったり下痢だったりはしてますか?」
「便秘…」
「出てないの?」
「何が?」
↓
みたいな。
とはいえ、さすがに道中、
「お姉さん、お姉さんは本当にお姉さんなんですか!?」
なんつって怪しまれたりはしましたが、そこはアータ、高校から専門学校まで演技指導で鍛えた業物がありますんで、怪しまれるたんびに、
「ん~🖤……どうしてそ~ゆ~事言うのォ?🖤🖤」
ッつって、“看護学校出たての新人ナース”ッぷりを遺憾なく発揮して煙に巻いてやります。
そんな猿芝居なんてすぐバレると思うでしょ?でもね、そうちょっと悲しげにスネた感じで返してやりますと、
「あ、ご、ごめんなさい。そ、それでねお姉さん……」
『アホや、すっかり信じ込んどる(苦笑)』
しかしかれこれ1時間。奴にしてみれば散々にはぐらかされ、翻弄され続けてまだ一度も目的の「ウ○コ」が聴けてない。
「あ~お姉さん(汗)、お願いだから言って!ウ○コって言って!!(脇汗)」
もう策略どころか恥も外聞もなく絶叫に近い。
こっちもいい加減飽きてきてましたし、喉の疲労もピークだ。ここは一気にカタをつけよう!…となると、こういう輩は富士山のテッペンからブラジルに届かんばかりの地の底へ一気に突き落としてやるしかありません。
まずは今日一番の甘えた声で、
「え~?どうしても言わなきゃ、ダメ?🖤」
「あ~、もう、お願いだから!(眼鏡じゃない“あいがん”)」
「もう、しょうがないな~🖤一回だけだよ」
「うん、うん、お願い!」
「じゃあ、言うね🖤ウ…」
「ウ?」
「ウ…🖤」
「あ~、もう、焦らさないで!(滝のような汗)」
「ウン…」
「あ~、もう我慢できない!!(サウナでととのうよりも大量の、汗)」
「ウ、ウ~…」
ここで女声を捨て、ハバロッティばりの“奇跡のテノール”で、
「ウ○コオ~ッ!!」
と、高らかに歌い上げて受話器をガチャーン!
………私は夜中の病院で、いったい何をしてるんでしょうか?