悪漢⑧
引っ越しましたのが生活保護を受けている役所の区域外でしたので住まいの引っ越しプラス生活保護も引っ越さなくてはなりませんでね。
まず住民票を移動した後に別部署の窓口へ行きまして、前の役所から持たされた「この人はウチで生活保護を受けてましたけどそちらへ引っ越しましたんで、今度はそちらでお願いします」という一種の紹介状を提出する訳ですが、そうなると即座に面接だというんで別室へ連れて行かれる。
で、アチラで受給されてたか知りませんけどウチはウチなので新たに審査させて頂いて……手続きがね、一からといいますか紹介状の効力も若干はありましたんで、前の時は丸々一ヶ月を要した審査期間が20日ぐらいにはなりましたけれど。
無事生活保護受給が決まりますと、今度は就職活動だ。
役所によって違いがあるのかも知れませんが、そこにはハローワークの支社みたいな所がありましてね。半月に1回就職セミナーみたいな事が行われておりまして、Aさん、例によって毎回欠かさずに参加を致します。
でまぁ、そんな様子を見てまして係の人が「この人は熱心だ。見所がある!」と言うんで、とりわけ力を入れて色々就職先候補を見繕ってくれたりしまして。
……フリでも良いですから“熱意”ってのは見せとくモンですな。
それで係の人が、
「ここ、受けてみませんか?今まで話をしてきてね、ここのこの職種が一番合ってると思うんだ」
随分と熱心に推して来る。
「いや、でもここに『エクセルの出来る方』って書いてますよ?私ァワードをちょっと遊び半分にやってるだけでエクセルは門外漢なんですから」
「いやいや、とにかく入社しちまえばこっちのモン!どうとでもなりますって!!」
……随分いい加減なハローワークもあったもんで。
面接を受けましたのが零細の、アクリル板の製作加工工場でありまして、そこの製造管理などを行う内勤(一般職)。
作業着姿の工場長さんが面接官で色々と説明をして下さった訳ですが、Aさん、そこで思い切って打ち明けた、といいます。
「あの、私、実はエクセル、やった事がありません。入れて頂いてから御迷惑かける訳にもいきませんので正直にお話しますけど」
それを聞いた工場長さん、しばらく考え込んだ後に自分の右手で右のモモをパンと叩きますと、
「よし気に入った!その正直さを買おうじゃないの!!月曜日から来れる?」
何たる奇跡か、面接一社目で就職が決まっちまった。
それで面接を受けましたのが金曜日。土、日と二日空けまして週明けの月曜日から晴れて出勤となります。
ここからがAさんの【悪漢】ぶりがいよいよ開花していく事になるんでありますよ。