宿敵だらけの健康診断②~採血~
子供の頃から“血管が出にくい”すなわち血管注射がし難いタチなもので、これにそもそも血管注射が苦手な婆さんが担当なものですから、毎年私の順番で後の人間が渋滞を起こしておりました。
婆さんは佇まいだけなら“この道八十年の達人”なのですが、いざ実際の腕前はというと「私、生まれて初めて他人(ひと)に注射するんですぅ~」な看護学生の方がまだマシ!なレベルでありましてね。
確か二年目の時だったと思いますが、前年にエラい苦労したのを覚えていたらしく、私の顔を見るなり露骨に不機嫌になりまして。
左腕、右腕を交互に、散々探ってみるも血管を探し当てられずにおりまして、どっからど~見ても「絶対にアタリはついてないよな!」なタイミングで注射器を手に取りますとブスリ!
「エ~ッ!?」
案の定血管にヒットせんかったらしく、しかしここで注射器を退くとそれは婆さんにとっての“負け”を意味するようで、一度刺した注射針は意地でも抜かんとばかりに、腕の中で針先を動かして何とか当てようとします。
しまいには針を入れたポイントから数センチ先の皮膚が針先の形に盛り上がる始末。
「人の腕でルアーフィッシングすな!!」
なおもグリグリ針先を捏ね回しまして、針だけに“まつり縫い”されとる気分です。
「おいッ!まさか人の腕で孫の小学校に提出する掃除用雑巾を縫い上げる練習しとるんと違うやろな?!」
結局、見るに見かねた他の方が助っ人に入って下さって、無事に採血は終わったんですが、その様子を横で見ていた婆さんの捨て台詞。
「まったく…出にくい血管だよ!!」
更にその翌年。
この年から注射器の形態が変わりまして、押したり引いたりする“ピストン”部分が採血用試験管になっていて複数本採らないといけないときには試験管を引き抜いて新しいのと入れ替える……簡単に言うと“カセット式”になったんであります。
でも注射器が代わろうと担当はあの婆さんですから、厭な予感しかしませんわな。
ところが!そんな私の不安をよそに、なんと奇跡の“一発ヒット”!!
しか~しッ!
そこは婆さんです。
試験管三本分採血せにゃならんのですが、最初の一本目は最初から装着されとるとして、二回、入れ替える必要があります。
そもそも雑でテキトーな性格の上に宿敵とも言える私相手ですから、二本目に入れ替える時も注射器を手で固定する事も無くぞんざいに一本目を引き抜いて二本目を差し込む、その時に注射器に余分な力が加わって針先がブレた。
ゆっくり静かにやれば良かったんですよ。
ま、当然の如く針先は血管を外れます。
「あ~、ズレちゃったよ」
……おいババア!その『お前のせいだ』的な目は何だ?それと舌打ちな!
まぁ、一度ヒットしたポイントから僅かにズレただけなので、何とか血管には戻せたんですが、この経験があるにもかかわらず!三本目の時も態度は改まらず……というより針先は更に大きくブレて復旧不能なほどに外れてしまいまして、ここで前年の“助っ人さん”が再登場。
婆さんには“反省”という機能を付けといて欲しかったですな。