ポーちゃんの事
私ね、基本、モテないんですよ。
ただし、乳幼児の女の子とお婆ちゃまにはガン見されますし異様に懐かれましてね。打率はゼロなのに異常にフォアボールだけ多い野球選手みたいな。
それで犬派か猫派かと言われれば圧倒的に猫派なんですけど道端であろうがペットショップであろうが肝心の猫ちゃんには、ま~見向きもされませんのですが、犬の、特にゴールデンレッドリバー(ラブラドールも可)とタックスフントには向こうからダッシュで、こっちが「食い殺されるんと違うか」と身構えてしまう勢いで寄って来られるという。
………世の中ままなりませんな。
20年前になりますが、当時小さな会社に勤めておりまして、社員数が20人前後で社屋が一般の3階建て住宅2棟分くらいの規模だったですが。
1階が事務所と社員食堂にトイレ、洗面台、ちょっとしたシャワー室。2階が社員寮で3階が社長宅。
ね、社長と言いましても愛車に堂々と紅葉マークをバチコーン!と貼ってるような、「どうだ洪ちゃん、最新型のカーナビやで~」と自慢しときながら高速道路をナビゲーションされるや「ワシは騙されンど~ッ!」言うて下道(一般道)を行こうとする、ナビもナビで意固地になって「左折です、左折です、左折です」と高速の入り口の案内しかせんで大喧嘩。揚げ句に「機械なんぞに頼らんでも行けるわいッ!!(大激怒)」
……じゃあなんで出しなにナビ起動したんや?という話で。
そんな頑固爺……もとい!社長、犬を二匹飼っておりまして、まぁ娘さんが結婚して海外に移住するので独身時代に飼ってたのを親父さんに押し付けた、というのが真相で。
でも、そんな愛犬に対する薄情さが相手にバレましたのか、海外どころかいつの間にか社長宅で居候を決め込んでましたがね。
二匹とも2歳で、一方がオスのイタリアングレーバウンドの“ピー”、もう一方がチョコレートヘアーのミニチュアダックスの“ポー”女の子ですわ。
どっちも小型犬ですんで散歩も一緒。帰宅後は1階の洗面台……言っても小学校にあるような、四人一度に使えるようなタイプですけど……で社長がピー、ポーの順で脚とお尻を洗うんですがね。
ピーが社長に拷問のような洗われ方をされとる間、ポーちゃんは玄関口で所在なげに寝転んでいるんですが、子犬はやっぱり可愛い。
ついついかまってしまうんですわな。
それで懐かれてしまったんですが、コイツが隙あらばと私の唇を奪いにかかる。ワシャワシャとムツゴロウさんばりに撫でてやってるムクッと起き上がりまして、
「隙あり!」
とばかりに私の唇めがけてジャンプして来よるんです。ベロ出しながら。
「生娘がファーストキスから舌使うって、ど~ゆ~事や!?」
そら、大説教ですよ。
かなり幼いときに手術受けて“男性経験”の無い娘ですからね!
しかも“悪い方の”お嬢様なもんでブクブクに肥えて腹が「お前は“何処でもクイックルワイパー”か!」ってぐらいに地面にベッタ~ッ付いておりまして。
でもそのくせ、やっぱり女の子らしい繊細な面もありましてね。
ある夜、11時過ぎでしたか、銭湯へ行こうと玄関開けましたら社長の奥様が立ち尽くしておりまして、そのちょっと先、ペットシートが何枚も敷き詰められた所にポーちゃんが悄然としとるんです。
「どうしたんですか?」
「もう三日もオシッコが出てないの」
社長宅とてそんなに広いおうちじゃありませんからペット用トイレ、どうしても人目につく所にしか設置出来ない、と。
ま~、ワンコちゃん言うてもそこは女の子ですからね。気になって出なくなっちゃったんでしょうな。
私が近付きますと「ク~ン」哀しげに鳴きながら寄って来まして、私の脚の間に頭を突っ込みます。
私も、ドリトル先生じゃありませんから、「そうかそうか」言いながら背中や横腹を撫でてやる事しか出来ません。
「焦らなくて良いからな。ゆっくりやればいいから」
とか、
「心配しなくていいから、楽にな」
そんな事を30分ほどやってましたかね。ポーちゃんが不意にぶるっとしますと、
ダジダジダジダジ~
ペットシートの吸収が間に合わん勢いでオシッコが流れ出しまして。
出し切った頃にポーちゃんがしがみついて来て、私も「良かったな~」とばかりに抱きとめてやったんですが、何せオシッコ塗れの両前足と腹ですからね。
それは正直、気になりましたけど…………相手は女の子です。
言えませんわね。