毒と免疫

 実は医学的な話ではありませんで、お子さんを大人として育成して行くに於いて、今ってかなり危険な事になってませんか?という話なんですよ。

 例えば今のテレビ番組がつまらない、と。
 何故ならちょっと暴力的な描写や大人数で一人をイジる的なシチュエーションがあると「イジメにつながる(だから子供の教育に宜しくない!)」というのでクレームにつながり、それがテレビ局を飛び越えてその番組をスポンサードしている企業に商品製品の不買運動をチラつかせながら苦情を言う、とか。
 セクシーな描写には「(子供達の)性犯罪を助長させるつもりか!」というお叱りが行く。

 スポンサー企業とて消費者に悪いイメージを持たれたくはありませんし、テレビ局としてもスポンサー企業を手放すのは死活問題ですから、苦情に対して必要以上に敏感となり、更に先回りして苦情のタネにならないようなクリーンで安全で無難な番組しか作らないようになる訳でね。

 でも考えてみて下さいな!
 まぁ、イジメは表面化するしないの問題があるので統計的な話は出来ませんが、それでも無くなった訳ではありませんし発覚したものの中身はむしろ残虐で目を背けてしまうものがございましょ?
 ついでに言えば二十代の、所謂Z世代の未熟な親達による幼児虐待……しかも本人達はそれを“躾”だと思っている……は増えているし中身はより陰惨になってますわね。
 圧倒的な経験不足により『怒る』と『叱る』の区別がつけられず、どこまでが“躾”でどこからが“暴力”もしくは“虐待”になるかの分岐点が分からない。そんな状態でただ「気持ちいいから」だけで避妊もせずにコトに及んで“軽はずみ”に親になってしまう訳です。

 ま、虐待に及ばずとも我が子をペット(愛玩動物)的に扱ったり、或いは自分の精神的拠り所として全体重をかけて我が子に依存する所謂『毒親』なんていうのも事前に「親になるという事」「子を持つという事」への自覚や覚悟を持たずに子を為して親となってしまうからこそでありましょう。

 性犯罪とて同じ事で、昨今の若い男性の草食化が叫ばれる御時世もあって、数はともかく発覚したものの中身は陰惨で、被害者を女性はおろか人としてすら扱っていないものが多いじゃありませんか?

 思えば私らが子供の時分…今から50年ほど前から世の親達の考えは間違っていたんですわね。
 即ち暴力的な描写の漫画やテレビ番組を我が子から遠ざけ……深夜帯のバラエティ番組ではグラビアアイドルやAV女優さんが意味も無く胸を露出していたり、ドラマでは“ブツ”こそ隠しているもののピンク映画以上の行為描写が当時の一流俳優さんで演じられていたものです。
 それを当時の親達は教育委員会や自治体、果ては地元選出の国会議員までを動かして規制させるように仕向けていったのです。

 暴力的なもの、性的なもの。これらを子供達に『見せなければ』、そうした情報を『知らせなければ』子供達は健全に育つのだ!という【誤った幻想】に囚われていたんですわね。
 こんなものは単なる【純粋培養】であって、子供を【健全に育成する】のとはむしろ真逆な事なんですよ。

 例えば子供に限りませんが特に若年層に多いアレルギー。
 花粉症なんかが最もポピュラーですけれど、あれ、一説には余りに生活環境が清潔になりすぎ、除菌剤の精度や除菌滅菌への意識が高まりすぎたので、体内にある免疫細胞が活躍の場を失い、本来必要のないものにまで反応するようになった『誤作動』に起因している、とされています。
 また、生まれてからそうしたバイ菌や害虫、毒素と無縁な暮らしをしていると一度そうしたものに触れてしまった時に順応する事が出来ず、また免疫細胞も上手く本来の機能を発揮出来ずに重症化するという説もあります。

 無制限に触れさせる事は勿論駄目ですが、そうした『毒』と適度に触れさせて免疫をつける事も必要な気がします。
 その“適度”を調節してやったり教えてやる事こそ『親の役目』であって、我が子の命尽きるまで責任をもって面倒をみてやれる筈も無いのに無菌状態の、生物として心身脆弱な人間に仕立て上げる事が『親の仕事』などでは決して無い筈です。

 ま、少なく見積もっても50年間という長きにわたり、それでもこの当たり前に気づけない事が、この国の根本的な病巣なのかもしれませんけれど……


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