警察庁副長官⑥
岡安はハッとして、教師に見咎められた居眠り学生よろしく、起き上がるとキョロキョロと辺りを見回し、正面の神主の目に射竦められたように首をすくめた。
「誰に頼んだ?」
「皆川一家の若頭に」
「外国人を使うのはお前が指定したのか?」
「いえ、若頭が『それなら外国人の方が後腐れが無くていい』と言いまして」
「なるほど。……で、最初から殺す事まで頼んだのだな?」
「はい」
「盗みや放火もか?」
「いえ、私は殺してくれさえすりゃあ充分でしたんで」
「分かった」
神主は怨霊退散の祝詞を唱え、薄紫の雲が霧消するのを確認すると席を立った。
神主が取調室を出ると戸口で待ち構えていた南條に、
「監理官に引き渡してやってくれ」
とだけ告げて立ち去った。
その脚で、神主は田沼を訪ねている。
「マトは皆川一家だそうだ」
「皆川?あの外道共が」
極道と言うよりビジネスマンチックな田沼が柄にも無く色めき立つ。
「ぶっ殺してやる!」
「まぁ、どう始末をつけても構わんが実行犯の外国人だけは全員確保で頼むわ」
「任せて下さい。その点は抜かりなく」
田沼の事務所を出ると、神主は素早く警視庁4課の課長・島沖等孫に電話をかけた。
「近々に皆川一家廻りで抗争事件が起きる。一般人に被害が出ない限りはカタがつくまで黙認して貰いたい。その後何人引っ張ろうが、それはそちらにお任せするんでな」
そこまで手筈を整えると、黒装束の神主は夜の闇に溶けて消えた。