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「樋口円香」を見る――人に添って

※半分真剣、半分ギャグの記事です。
トワコレ円香のネタバレもあるため、無駄に閲覧ハードルが高いです。
あと【Merry】と結華の【NOT≠EQUAL】の対比もあります。

◆ゲーム「アイドルマスター シャイニーカラーズ」の以下コミュについて、ネタバレだったり、軽く触れてたりしています。
・樋口円香 WING/GRAD/LP
・【ギンコ・ビローバ】樋口 円香
・【ピトス・エルピス】樋口 円香
・【オイサラバエル】樋口 円香
・【Merry】樋口 円香
・【NOT≠EQUAL】三峰 結華
・ノクチルコミュ『天塵』
・ノクチルコミュ『さざなみはいつも凡庸な音がする』
また「アイマスMOIW2023」の【ラ♥︎ブ♥︎リ♥︎】についても言及しています。

◆引用する画像はゲーム内画像になり、また©は以下になります。
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.


円香についての人物考察記事になります。円香の人物像の考察は、コミュ(文字や演出)に添って行われることが通例ですが、ここでは現実の人間に対しての見方を補助線にして円香を見ていきます。そのため、厳密には円香の考察というより、筆者の中にいる「ひとりひとり」の円香についての考察になります。その点ご了承ください。

また最後に「アイマスMOIW2023」の【ラ♥︎ブ♥︎リ♥︎】について思うところを述べます。ぶっちゃけこの記事を書く気になったのは円香の【ラ♥︎ブ♥︎リ♥︎】のせいです。

円香の<他者>

私たち人間は社会の中に生きる生き物になります。そして、社会の中に暮らして、ある程度の年齢になれば自然と、多くの人は心の中に自分のことを見る他人の目を飼うようになります。その目は実体として空に浮かんでいることはないですが、どこかから私を見ており――心の中にあるのですから――それはずっとつきまとってきます。その眼差しの持ち主は、社会や世間を代表するような存在であり、その眼差しのもとで「この場面でこれはやっちゃだめだよなー」などと私は判断し自制するようになります。この眼差しの持ち主を<他者>と呼びましょう。また私が他人を見るとき、この<他者>のフィルターを通して、他人を見るようになります。感覚的に言うと「世間」「社会」「大人」という言葉のもつ視線が<他者>に近いですね。

容姿が整っているなどによって「ちやほやされて育った子」と「そうでない子」では、世界は違って見えるのではないかと想像できるように、実際人それぞれに、心の中にある<他者>がどういう性格の持ち主で、また<他者>と自身がどのような関係を結んでいるのが異なります。この<他者>の像、および<他者>との関係を見るのが、人を見る際の一つのポイントになります。

円香をプロデュースしてみれば感じられると思いますが、まず円香はPも含む<他者>に対して、とても不信感が強く、また諦念に似た雰囲気を滲ませています。例えば、円香はテレビの視聴者応募企画に対して、開口一番まず「やらせ」を疑ったりしています(『さざなみはいつも凡庸な音がする』)。そして、特に円香の<他者>像が垣間見れるのは、彼女の『仕事』という言葉の特徴的な使い方で、「別にやりたくもないのにやるのが当たり前で、やらされること」という意味合いを強く感じさせます。

『天塵』
一人だけ歌っていた小糸に対して

このあたりの雰囲気から、円香の<他者>はポストモダンの寛容な父が近いなと当たりがつけれます。

小糸や雛菜も近い雰囲気がしますが、微妙に違いはあり、まず性格については円香の<他者>が一番醜悪そうです。上のシジェクの言葉通り、言葉の上では選択肢を与えているようで実質的に選択肢はない。しかも、自分の意志でやっているとみなされる。円香は――特に<他者>のフィルターがかけられたPへの態度から――自身の心の中の<他者>に対して相当な嫌悪感を抱いていることがよくわかります。

実際にこの<他者>像に近い出来事が起こったのが『天塵』で、番組ディレクターは当初の話とは違う内容で番組を進めていく(曲のフル起用がサビ前までの時間になり、またMCも透だけが重点的に扱われる)。結果、自分たちの事前準備や矜持は反故される羽目になります。

『天塵』
小糸の努力を嘲笑うかのような……。
後に、この出来事を振り返って円香は「やっぱり騙されてる」とこぼす

円香の有名な台詞「笑っておけばなんとかなる。アイドルって楽な商売」(WING)は<他者>のフィルターをかけられたうえで、表面的な建前は不要になったPに対しての台詞です。それは彼女の<他者>へのしっぺ返し、あるいは同化とも言えるように見えます。円香から見ると、醜悪な態度を取ってくる相手に対して、同じような醜悪な態度をとって何が悪いのか、というだけなんでしょうね。

円香にとって、自身に甘く語りかけてくるような「言葉」や「笑顔」は「表面的なもの」であるため、口だけ、表面だけを嫌っている節が見られます。後でも触れますが、LPでPが言葉をかけるだけでなく、円香の身体を物理的に持ち上げたことはとても重要なことだったと言えるでしょう。

WING『心臓を握る』
言葉は信頼できない

円香はPだけでなく、ノクチル外の他の人、一般的な意味での他人に対しても<他者>のフィルターをかけている(投影)ことは伺えます。例えば、電車で、円香の昔の知り合いだったという子たちが円香についての噂話している場面に出くわした際に、円香は何も反応しないという態度でやり過ごします。

【ギンコ・ビローバ】信

自分が傷ついていることを晒せば、あなた(<他者>)を悦ばせるだけ。要求には従うが、あなたを愉しませることは絶対にしてやらないという反抗、あるいは自分の心は自分のもので、それは絶対に渡してやらないという声が聞こえてくるようです。

ただPだけは一緒に過ごしていく中で、<他者>の投影がずれたり重なったりを繰り返す様が示されます。

【ギンコ・ビローバ】

【ギンコ・ビローバ】のTrueEndは『銀』という題名なのですが、他の方の考察にある通り、同カードの他コミュも加味して「沈黙は金、雄弁は銀」も掛かっていると見えます。言うまでもなく雄弁はこの醜悪な<他者>のことでしょう。そして、円香から見て好青年にしか見えないPからは醜悪さが垣間見えない=ずっと隠しているように見えている。このコミュでは「(Pが)ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいいのに」(そしてその中から何かがでてくれば)と願わずにはいられない言葉で終わります。

【ギンコ・ビローバ】銀
※LP前のシナリオです。

このTrueEndでは、Pに対する円香の言葉は相当に攻撃的で、おそらくPの内側から――銀杏の強烈な悪臭のような――醜悪な<他者>が現れてくることを円香は願わずにいられなかったのだろうなと思えます。なぜならPが醜悪な<他者>ではなければ、円香が困るからです。嫌いな奴は嫌うに値する行動をとってくれないと困るのです。俗に「箱に入っている」と呼ばれる状態です。

一見すると、Pが醜悪な<他者>である方が円香が困るのではと思えますが、実際は逆です。Pが醜悪な方が円香にとっては対応は楽です。なぜなら、醜悪な他者とそれにヒニカルに対応する私という構図(ファンタスム)は彼女の中ですでに出来上がっていて、それに沿って行動すればいいからです。逆にPが醜悪な<他者>ではないと確定してしまえば、円香はどう対応すればいいかがわからなくなってしまいますし、また過去の自分との一貫性が崩れてしまう点からも簡単に容認できないのです。この壁を乗り越える話がLP、そして【Merry】に続いて行きます。

GRAD

ここまで円香の<他者>の性格について話をしてきましたが、次は彼らの関係性について。円香と<他者>の関係性はかなりアンビバレントです。まず小糸ちゃんとの比較がわかりやすいですが、<他者>からの要求に対して、小糸ちゃんは要求を満たすことができないと感じているのに対して、円香はやすやすと要求は満たすことはできると感じています。円香は自身でそれを運が良いと言っています。ですが、この要求を満たせることが良くない効果を生んでいるように見えます。円香に起こっていることは恒常的に「ダブルバインド」をかけられた子と似たようなことになっているように見えます。

※典型的なダブルバインドによる操作例

「ダブルバインド」は相手を支配する際に使われることもある手法で、恒常的にかけられた子は「どっちにしても拒絶されるのだから、自分の意志を持つ意味がない」となっていき、徐々に自分の意志を剥奪されていきます。円香は機構は違うものの、結果は似ています。「<他者>が自分の意志でやるかのように行動を促してくる。→それに従う→上手くいく」のループです。ここには自分の意志を挟む余地は一切ないのです。円香の自由はあるようで一切ない。このループの中にいた子は二重の意味で透明、なのでしょうね。

またそのうえで<他者>の要求に答えるということは、報酬が約束されます。逆に言えば、答えないという意志を見せてしまった場合は報酬はなしです。そのため、円香は<他者>へ強烈な嫌悪感を持ちつつも、見放され報酬をもらえなくなる事態を恐れ、<他者>から離れられないという事態になっています。

この実利的な観点で離れたくても離れられないという感覚は、他者から見放されることへの円香の強い怖れの現れ(WING)や、電車でなんとか確保した座席に固執する円香(LP)、クライアントへ手堅い対応をするP(その対応をしなければ、他事務所に淘汰されるから:GRAD)などでメタファー的に仄めかされます。また離れられないことに対する諦念は、強い意志を持ってオーディションに臨んでいるように見える他アイドルに対して、特にそのような意志を持たない自分が合格してしまう様子でも示されます。

WING『二酸化炭素濃度の話』
必死だった人たちは落ち、円香は合格した

GRADは円香と無名アイドルとの関係の話になります。無名アイドルの彼女は(<他者>から見て要求を満たさないため)無能で、かつ自分の意志で活動する子として現れます。シナリオの中で円香は番組(<他者>)の要望通りに、無名アイドルを笑い飛ばすことができず、彼女を肯定するというアクティング・アウト(行動化)を起こしてしまいます。

GRAD『無機質な廊下』
本来の台本とは違う対応をしてしまう円香

円香にとって、おそらく無名アイドルがループの中で消えていった透明な子に重なって、彼女を否定することはとても看過できないことだったのではないかと思われます。また円香は<他者>の意志に添って行動する自分を「軽い」と言い、自分の意志で行動する彼女を「重い」と表現する一方で、また無名アイドルから円香へも、好きだけど嫌いという趣旨の言葉をかけ、どっちの方が良いとはっきり言えない後味が残ります。

GRAD『願いは叶う』

LP

次にLPではこの「<他者>の要求に従って上手くいく」という円香のループの突破が図られます。Pが(【ピトス・エルピス】を経て)、円香が<他者>の欲望よりも円香の内的な衝動を優先することを推し進めていきます。Pは、円香が「<他者>にとって価値あることに沿って行動すること」ではなく、「円香自身にとって価値あることに沿って行動すること」へと回転させる言葉を投げかけます。

LP『yoru ni』

<他者>は実在しません。<他者>は頭の中にありますが、それは各自の頭の中で捏造されたものに過ぎません。「円香を縛っているのは円香自身」とはそういうことです。

Pは逃げる円香を追いかけて、物理的に掴み救い上げます。円香にとっては<他者>は口先だけの存在です。救い上げるPはもはや<他者>像と一致することはできません。円香にとってPはもはや思い描いていた<他者>ではないと認めなければなりません。

また円香を救い上げるとき、円香は「嫌い……」と言い放ちます。その理由は円香にとって<他者>の価値観の中で嫌々ながらも生きるという自分の立ち位置を――少なくてもPの前では――捨てなければいけないからです。ある圧政を行う王政とレジスタンスがあったとしましょう。もしその王政の存在が夢幻だったとしたら? レジスタンスは必然的に解散しなければなりません。存在する理由がなくなるからです。同じようにもはや円香が思い描いていた<他者>はいません。この<他者>像の変動は一対一関係の変動というより、世界観が変わるようなものです。少し大げさに言えば、円香は今までの生き方を失うのです。

ここでPを掴むという行為は対象喪失を意味する
【ギンコ・ビローバ】偽
世渡り=考え方=生き方

この出来事を経て、円香から見て、はっきりとPは<他者>らしくない他者という立ち位置になります。下記の台詞が端的に表しています。

LP『ライブ1曲目前コミュ《個人》』

【オイサラバエル】では円香が透明な存在――美しいもの――へ惹かれる磁場についての話を経たあと、【Merry】では、再度円香から見て、<他者>らしくないPは一体何者なのかという問いに戻ってきます。

【Merry】≠【NOT≠EQUAL】

【Merry】では、円香とPの関係性に特に焦点を当てられていきます。円香とPの関係性は一言で言うとアイドルとプロデューサという関係です。そこに「もし円香が「アイドル」でなくなったら?」「円香の「プロデューサ」とはどうあるべきなのか?」等々の疑問が投げかけられ、二人の関係に対して様々な方向から光を当て、輪郭を描き出そうとする仕草が見受けられます。また挙句の果てには、円香は夢の中でPを見、またその夢の中で、Pから見た円香は何者なのかという点が主題に挙げられます。

この状態はシャニマスで言うと『【NOT≠EQUAL】三峰結華』の結華とPの関係とほぼ相同です。Pが何者か=何を望んでいるかわからず、結果Pから自分がどのように見えるかも分からないという状態です。

【Merry】REM
野暮ですが、読者にはその逡巡の合間に一般的な文脈から恋愛関係を想起させます。
禁断の愛は甘い

ただしPの対応は若干異なり、【NOT≠EQUAL】より【Merry】の方が対応がマイルドになっています。結華の時はPは「アイドル」と「プロデューサー」という非意味な言葉(具体的にどのような関係かがわからない言葉)を貫き通して、結華側から無理矢理本人に答えを出させました。Pの目的は円香LPと一緒です。結華が<他者>から求められる自分の姿の中に、自分のあるべき姿としての答えを求めようとしてしまっているので、Pはその像を与えることを拒絶したんですね。

【NOT≠EQUAL】雨の中(二度目の)正解をくれた
Pは終始背筋を張っているかのようか回答をしていて、一切欲望を漏らさないようにしている。
相当に成熟した男性でないと、この技法は失敗しやすい。

ただ、当時の感想を調べてもらうとわかるのですが、この技法は結華と担当Pの傷心(対象喪失)を引き起こす方法で、結華からすると崖から突き落とされたような感覚でしょうね(TrueEndは抑圧されただけでちゃんとあります/したよというのが示される)。結華の初限定で【NOT≠EQUAL】を持ってきたのはシャニマスの理念を感じます。とはいえ、流石にトワコレで同じことをやれば一部暴動が起こりそうな空気はしますね……。

一方で、円香に対するPは立ち位置がかなりあやふやです。自分でどう対応すべきかが分からず、相手(円香)に求めてしまっています。

【Merry】WEEKDAY
上の結華の画像の台詞と比べると、Pが自分で立ち位置を決めきれてないのが分かると思います。
【NOT≠EQUAL】のアンティーカPが成熟すぎるのはあるが。

円香はPから見て私を探している一方で、Pも円香から見てのPを探そうとしています。それはちょうど合わせ鏡の中で答えを探し出そうとしている状態で、決して互いに答えに辿り着かない詮索です。お互いに受け身な夫婦などで陥りがちな構図です。

ただシャニマスの理念は共通しているため、【Merry】でも円香に対するPからの答えは、【NOT≠EQUAL】と同じところが示されたように見えます。【ピトス・エルピス】で示された円香自身を表すメタファーである「宝石箱」をPは贈ります。それは誰からも像でもない、円香自身のことです。

【Merry】GIFT
「俺に教えてくれなんて言わない」という台詞は
Pから見られる像には求めないでくれという意図もどこか感じますね。

一方で、円香からPへのプレゼントは「忘れ物」が贈られます。これは解釈に開かれていて、色々な捉え方ができると思います。個人的にメタに担当Pが円香の中に見出している何か――忘れ物ではないかと。担当はもはや「仕事として」ではないですから。

ここで一点心残りなのが【Merry】はPとの関係性への疑問がはっきりすることなく終わったように見えるということです。【NOT≠EQUAL】がはっきりと関係性を整理して、結華が「アイドル三峰結華」という言葉の位置に自身を置いた話だったのに対して、【Merry】は一応「宝石箱」という答えは示したものの、円香にとってどれくらいの強度をもった答えとなったのか不明なまま終わりました。個人的に【Merry】は「円香から見てPは何者なのか」という問いがまだ宙ぶらりんで放置されているまま終わったなという感覚が強いのです。円香がPになびいてるのはめっちゃわかりますが。

【ラ♥︎ブ♥︎リ♥︎】

ここまで前座、あとはおまけみたいな感じなのですが、【Merry】が最新のコミュ状態で、2023/2/11の「アイマスMOIW2023」で円香の【ラ♥︎ブ♥︎リ♥︎】が披露されました。あくまで円香らしく無表情で演技するという形式でした。終了後の生放送で、円香がこの楽曲に配置された理由は「円香が一番歌いたくなさそうな曲」だから(!?)とのこと。

【Merry】はちょっとしたことで、Pから見て私はこう見えているのね、と答えを出してしまいかねない、とても敏感な時期の話で、しかも決着がつかないままにしているコミュです。

ライブとシナリオが連動しているわけでもなく、本当にタイミングが悪かっただけですが、【Merry】の直後に【ラ♥︎ブ♥︎リ♥︎】を歌わせたとすれば、Pの裏側には――【ギンコ・ビローバ】で見たがった――醜悪なる<他者>しか円香には見えなくないでしょうか……。

「アイマスMOIW2023」自体は最高でしたが、【Merry】直後の【ラ♥︎ブ♥︎リ♥︎】はBadEndルートでは……。これが言いたかっただけです。そんな笑い話です。


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