宇宙からの手紙〜プロローグ〜
~プロローグ~
いつものように、身体が重力からふっと解き放たれた。
ふわーっと上昇していく。
ここは・・・・・・?
真っ青な空? それとも海?
視界いっぱいに広がるのは、濃いブルーから白へのグラデーション。遠くへ行けば行くほど、どんどん色が薄くなっていく。
ハートの奥からじわりじわりと滲み出るようにわきあがる高揚感と一緒に、私の意識も外へ外へとじわりじわりと広がっていく。まるで、この青い空間に粒子になって溶けていくような、波となって広がっていくようなそんな感覚。
そうだ。
私は今、この空をさあっと走り抜けていく風で、ぽかりと浮かび漂う雲で、そこらじゅうにあふれる太陽の光で、その光を浴びて力強く腕をのばす喜びに満ちた木々で、その枝と葉を揺らして飛び立ち空を横切っていく鳥で、さらにはこの空を見下ろす遠くの宇宙の静かにきらめく星々で・・・
ああ、きりがない。
つまり、この世界の全てだ。
この世界のさらに外の外も含む全てだ。
意識の枝をのばすだけで、【ここ】で起きているあらゆることを知覚できる。
ああ、快感!
もっともっとたくさんのことを感じたい。
私は力の限り意識を広げた。愛しい人を抱きしめるために、大きく腕を広げるようなそんな気持ちになった。
あっ!
ふいにガクリと高度が下がった。
何と言うこと!
重力が私の身体をつかまえた!
とたんに空全体が感じる。
重い。なんて重いんだろう。
その時、私はふと気がついた。
ここには光があったけれど、音がなかったことに。匂いがなかったことに。その他にも、多くの感覚が消えていたことに。
なるほど。この感覚の薄さや少なさや欠落した世界には、よ~く覚えがある。
そう。これは夢だったんだ。
私は【すべて】じゃなかった。16歳のただの女の子。特別美人でも頭がいいわけでもない。ごく普通のどこにでもいるただの女の子。
堕ちる―
堕ちる―
堕ちるー
現実と呼ばれるあの空間が、腕を広げて私を下で待っているのがわかる。
ああ、可能性が制限されていくのがわかる。【わたし】から色々な情報が削除され、限られたものになっていくのがわかる。
このまま可能性を捨てていくことで、私は【すべて】という素晴らしい存在から一人の人間「水上羽苗(みなかみ はなえ)」になる。
「羽苗」は【すべて】に対して、なんて小さく制限だらけなことか!
でも、嫌じゃない。むしろうれしい。これから与えられる、私の具体的な世界。
ワンダーランドへ、レッツゴォ!
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