「Fanfa-Letter」Vol.9より「書く人~第6回:ベルト・アッペルモント」

※「Fanfa-Letter」Vol.9(2023年6月1日号)に掲載した記事を期間限定で無料公開します。引用元(バンドパワー)のリンクが切れていますが、とりあえず「切れてるなあ…」と思いながら読んでください。どうしよう。

もっと早くこの人の紹介記事を書くべきだったのだが、手元にまとまった資料がなかったのもあって少々もったいぶってしまった。
ベルト・アッペルモントはベルギー・リンブルフ州の州都、ハッセルトの出身*1。ここは兵庫県伊丹市の国際姉妹都市でもある*2。父親は熱心なアマチュア音楽家で、地元の吹奏楽団の幹部を務めていた。毎週土曜日は家族全員でリハーサルに出かけていたという。ベルトはそこでクラリネットを吹いていたが、楽団のホルン奏者が足りなくなった時にピンチヒッターとしてホルンも習い始めた*3。
やがてベルトはレメンス音楽院で吹奏楽指揮と音楽教育を専門に学ぶ。このとき、彼は当時の学友フランク・ヴァンバーレンとともに、シンセサイザーを用いて実験的な作曲を始めた。この過程で「クエスト」The Quest「アリババの伝説」The Legend of Ali Babaといった吹奏楽作品が生み出されている*4。
その頃、ベルトの指揮の指導にはヤン・ヴァンデルローストがついていた。ベルトはヤンに作曲についてアドバイスを求めるようになる。最初期の作品の楽譜をヤンに見せた際、「サックスが入ってないじゃないか!」と突っ込まれたエピソードは今でもベルトの持ちネタになっている*3。代表作「ノアの方舟」Noah's Arkは指揮の最終試験のために書かれた曲で、この曲にもヤンからのアドバイスが与えられている*5。レメンス音楽院を卒業後は、イギリスのボーンマスメディアスクールにて映画とテレビのための音楽デザインの学位を取得した*1。
経歴に字数を割きすぎた。2023年の日本の吹奏楽シーンにおいて、アッペルモントは主に「ブリュッセル・レクイエム」A Brussels Requiem(2017)の作曲者として知られているだろう。元はブラスバンドのコンテストピースだが、吹奏楽版の他、ファンファーレ(FA)版の楽譜も出版・演奏されている。一昨年スイスの強豪ヴァレイシア・ブラスバンドが初演した「ガブリエリ幻想曲」A Gabrieli Fantasy(2021)は、ケンペンブルーイ・アヘルの委嘱でFA版が作成された。
今までもブラスバンド作品を重点的に書いていたのかと思いきや全然そんなことはなくて、全作品に占めるブラスバンド作品の数は相当に少ない。一番多いのは吹奏楽(Harmonie)作品だが、そのうちかなりの割合がファンファーレオルケストのためにも編曲されている*6。吹奏楽とファンファーレ、どちらの版が先に書かれたのかわからない作品も多い。
ファンファーレオルケストのために書き下ろされた曲には、長め・重めの曲、作曲者の代表的な吹奏楽作品として挙げられることも多い曲が少なからず含まれている。「アイヴァンホー」Ivanhoe(2001)や「エグモント」Egmont(2003)、「ルビコン」Rubicon(2006)はFA版がオリジナルだ。やや知名度で劣るが、コンサートマーチ「グラシアナ」Graciana(2005)、コラール「聖なる歌」Sacred Song(2010)もここに入る。直近10年以内の作品では「ウインズ・オン・ファイア」Winds on Fire(2016)、「造化の妙」Wonders of Nature(2017)。
「生と死の幻想曲」Fantasia per la Vita e la Morte(2006)と「ビッグバン」The Big Bang(2011)はFAオリジナル作品の中でも最高難度(グレード6)を誇る。現代曲の複雑さの中に、アッペルモントらしい映画的なサウンドがちりばめられている。両者とも吹奏楽譜もあるのだが、代表曲として語られることは少なく、知名度がいまいちパッとしない。どちらも大好きな曲だしなんなら傑作だと思っているので、あまりの知られてなさに筆者は常々首をかしげている。アッペルモントに限らないが、人を惹き付ける曲を書く人はその編成に対して全幅の信頼を寄せていると思う*7。
ベルトは今年(2023年)12月27日に50歳の誕生日を迎える。数年前にレメンス音楽院の音楽教育専攻の教授になり、近年ますます教育分野の活動に力を入れている。そういう、教育者!みたいな人がガブリエリ幻想曲とか書いてるの、いいよな。50年後もヤバい曲書き続けていてほしい。

1 https://www.bertappermont.be/about

 2 https://www.city.itami.lg.jp/SOSIKI/SOGOSEISAKU/HISYO/International_sister_city/HasseltCity_FoshanCity/index.html
3 Tine Maes, Tim Van Moorhem(2021). MUZIEK IS PURE MAGIE. Klankbord, #102, 18-23.
4 http://www.bandpower.net/soundpark/higuchi_sp/f04/f04_01/f04_01.html
5 http://www.bandpower.net/soundpark/higuchi_sp/f04/f04_05/f04_05.html
6 サガ・キャンディダ/マリーニャのFA譜がないの、何かのバグだと思う。
7 でもトランペットに対してこの人は一体何をそんなに期待しているのか全然わからない。トランペットは打楽器ちゃうんだぞ。


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花月
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