![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/38214393/rectangle_large_type_2_b8b584fb75aa623aeb93d31f371e18db.jpg?width=1200)
「・・・お父さん・・・」
「これは、映画のワンシーンだよ」ってボクが言ったら、きっと信じてくれるんじゃないかな。でもすみません、これは本当の結婚式で、ボクはたまたま通りかかった見物人。
旧式のイエローキャブが停まって、花嫁さんが現れた。傍らの母親が気を遣う。「いいの、あなた、この娘、もう行っちゃうのよ。父親として何か言ってあげるなら、今しかないのよ」。連れ添って何年になるのだろう。年季のこもった阿吽のやりとりが交わされている。
父親の、なんて豊かな表情だろう。少しうつむいて、その笑顔は、娘への信頼をにじませ、やり遂げたという気風の混ざった穏やかさそのものだ。
でもやはり、この写真の中で、心がくぎ付けになるのは、花嫁さんのまなざしだろう。目は心の窓と言うけれど、本当だ。今日までの、そう今日までの感謝をたたえて、言葉では表現しきれない思いがあふれている。
今、娘の気持ちが父親に伝わる、
その一瞬の、
言葉が発せられる前の、
「・・・お父さん・・・」の 、ひとみ。