ペールブルー・ドットの住人
久しぶりに、地下鉄に乗ってセントラルパークに行った。今思えば、オミクロンの嵐の前の静けさで、街は平穏そうに見えた。 5番街の入口からゆっくり歩いていくと、ジョン・レノンの Imagine や ボブ・ディランの Make You Feel My Love が頭の中に自然と湧き上がってきた。ボクはメロディーを口ずさむ。もう秋の終わりで、紅葉が千秋楽を迎えているセントラルパークの、目指すは動物園。大都会の中の小さな小さな動物園だが、南国の鳥や、タヌキやペンギンもいるんだ。のんびり見ていると、コロナ疲れで凝り固まった心が癒されて行くのがわかった。
ちょうどお昼の1時ごろ、アシカのプールのそばに立った。冬の匂いがする頼りなげな陽光が水面を輝かせている。向こうに摩天楼も見えている。プールの周りに人が集まっていることに気づいて、アシカくんがあいさつにやってきた。
「こんにちは。動物園にようこそ! ここがボクの家だよ。」
アシカくん。キミの家は銀河系の、その片隅の太陽系の、地球の、北半球の、アメリカ大陸東部の、ニューヨーク州の、ニューヨーク市の、マンハッタン区の、セントラルパークの、セントラルパーク・動物園の中にある、プールだね。
ボクの家は地球の、北半球の、アメリカ大陸東部の、ニューヨーク州の、ニューヨーク市の、ブルックリン区の、サンセットパークという町の、どこにでもあるストリートの、古いビルの3階の部屋なんだ。
だから、キミもボクも 、そしてこの文章を読んでくれているあなたも、地球に乗って宇宙空間を旅している共同体。仲間なんだね。
宇宙の中の地球って・・・どんななんだろう。ぽつんと一軒家みたいなのかな・・・。
冬の夕暮れに、ふと想う。地下鉄を降りて駅の出口から空を見上げた時に写した月の写真を見て・・・ふと想う。
あの月の表面に立って・・・あそこから地球を見たらどんなだろう・・・。
地球の直径は、月の3.7個分ということだから、この写真の月より地球はもう少し大きく見えることだろう。
では・・・もっと・・・もっと・・・もっと多くから眺めたらどうだろう・・・。
「ペールブルー・ドット」という名前の写真を知っていますか。
写っているのは、その名の通り淡い青色のドットで、「写真中央の右下を見て」と言ってもらわないとその存在に簡単には気付かない。これは、1990年2月14日、地球からおよそ60億km離れた場所を飛行していたNASAの無人探査機「ボイジャー」1号によって撮影されたもので、2021年現在、地球から最も遠い場所で撮影された地球の写真だそうだ。
「おーい 地球よ ひとりぼっちで 寂しくないのかーい」。その写真を見て感じる寒々とした天涯の孤独感に揺さぶられ、そう語り掛けてみたくなる。
宇宙。
人間の科学がどれほど進歩しても、宇宙は依然として神秘のベールの中に悠然と横たわっている。3500年も前に記されたバイブルのヨブ記38章にあるシンプルな問いかけに、いまだに、だれも、満足な答えを提示できない。
あなたは*キマ星座を結び合わせておけるか。
*ケシル星座の綱をほどくことができるか。
あなたは季節に沿って星座を引き出せるか。
*アシ星座とその子たちを導くことができるか。
あなたは天体を統御する法則を知っているか。
(聖書/ヨブ記38章31-33節) (* 注記:キマ星座:おうし座のプレアデス星団のことかもしれない。ケシル星座:オリオン座のことかもしれない。アシ星座:おおぐま座のことかもしれない。)
この問いの趣旨はというと・・・、夜になると目にする見慣れた星座。それらが、来る年も来る年も、幾十年たっても同じように見えるのはなぜなんだろうってこと。ホントだね・・・なぜだろう・・・。
宇宙。
地球を取り巻く漆黒の空間は、危険な所でもあるらしい。極端な熱さと冷たさに誰が耐えられるというのだろう。-270℃から場所によっては1000℃を優に超えてしまう冷凍庫と炉の世界は、きっぱりと生命を拒絶している観がある。それだけではない。宇宙空間を突き進む放射線の猛烈なシャワーが、マシンガンの弾丸のようにボクの細胞を突き抜けて行くと、DNAは傷だらけになって異常をきたしてしまう。ペールブルー・ドットが旅しているのは、生存の可能性ゼロの、畏怖すべき "荒野" だなんて・・・。
だから・・・ホントウは、キミもボクも、命を守るために宇宙服を着なくてはいけないんじゃないか? なのに、その必要がないのはどうして・・・?
・・・なぜだった? えーと・・・あー・・・そういえば・・・。
本で読んだことを思い出したよ。地球を包み込む磁場と大気が、地上のボクらを守ってくれているんだね。
言うなれば・・・
地球自体が、透明で高性能の宇宙服を着せてもらっているってこと。
だから、
昼には空が青く見えて、夜が来て太陽が隠れても自然界は驚くほど寒くはならない。有害な放射線も "宇宙服" の防弾機能のおかげで、ボクらにはほとんど届かずじまい。
空気があって・水があって・雨が降って、陸の草木と海の藻類が、光合成でたくさんの酸素を創り出している。風が吹いて、鳥が鳴いて、花が咲く。
すごいな。
地上から見える流れ星の一瞬のささやきも、オーロラの舞踏会も、この宇宙服からのすてきな贈り物。
知性と芸術性のハーモニー。素晴らしいな。
こんなふうにして地球は、自分で呼吸しながら生きている。おかげでボクらは宇宙服無しで、喜びを感じながら生きていられる。
地球。
それは
断崖絶壁に咲く たった一輪のすみれ。
天涯のペールブルー・ドット。
それは
唯一無二の
かけがいのない 点。
ボクら。
それは
そのドットの上のドットの・そのまたドットのドットの・・・・・・ ちーーーっちゃい存在。
では・・・どうなんだろう?
ドットのくせして、どっちが強いとか・・どっちが勝ったとか・・どっちが偉いとか・・どっちが上だとか・・・・・。 そんなコトに縛られなくていいんだね。同じ人間なんだから。
大切なのは・・・ボクらがヒトとして、この美しいペールブルー色をした宝石にお似合いの存在になるには、どうすればよいかってコト。
実は・・・
この宇宙を存在たらしめ、地球に見事な ”宇宙服” を着せて、この惑星を唯一無二の住処(すみか)にしてくれた方が、その大切なコトをバイブルの中に収めてくれているんだ・・・。
愛は辛抱強く,親切です。愛は嫉妬しません。愛は自慢せず,思い上がらず, 下品な振る舞いをせず,自分のことばかり考えず,いら立ちません。愛は傷つけられても根に持ちません。 愛は不正を喜ばないで,真実を喜びます。 愛は全てのことに耐え,全てのことを信じ,全てのことを希望し,全てのことを忍耐します。愛は決して絶えません。
(聖書/コリント第一の手紙 13章4-8節)
・・・。
こんな愛を身にまとったヒトになれたら、その時、ペールブルー・ドットの永住権、もらえるんじゃないかな。
そうしたら・・・小さな声で言ってみようかな・・・。
「ここがボクの家だよ。」
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