28歳、私は初めて二股をした【始まり】
とある冬。
私は当時28歳で、2歳年下の看護師の男の子、コウスケと付き合っていた。
コウスケとはマッチングアプリで知り合って、交際期間は1年くらい。
彼女を世界の中心にするタイプで、とても私のことを好きでいてくれて、愛情をくれる人だった。
おかげで「私のこと好きなのかな?」と不安になったことはなく、浮気の心配は一切したことがない。
しかし、それに対して私がコウスケに抱いている愛情は、ほんの水滴くらいの小さなものだった。
それでも付き合っていた理由は「私のことを好きでいてくれて、結婚を前提に付き合ってくれているから」。我ながら、極めて不純な理由だと思う。
失礼を承知で正直なところを申し上げると、タイプではなかった。結婚に焦っていなければ、おそらく告白を受け入れていなかっただろう。
当然、デートの前日になっても自分の心がわくわくすることはなく、キスやそれ以上のスキンシップを苦痛にすら感じてしまっていた。
普通ならその時点で、彼とは別れるのだろう。
相手のためにも、そうあるべきだと思う。
しかし周りが次々と結婚をして、結婚という呪縛に囚われていたアラサー女には、「結婚をしてくれる相手」というのはとにかく魅力だった。
箸の使い方が直らなくても、爪がいつも長くても、彼とは様々な価値感が違うことはわかっていても。コウスケを逃したら結婚できないかもしれないという恐怖で、別れるという選択ができなかった。
「君のタイミングで結婚していいよ」と言ってくれるこの人を、手放せなかった。
でもそれならば何故、さっさと入籍しなかったのか。
コウスケの気が変わらないうちに、早く結婚してしまえばよかったのに。
きっと誰もがそう思うだろう。
相手から結婚の話を日頃からされていたにも関わらず、私はいつもその話を続かせなかった。
完全に言っていることとやっていることが矛盾している。
その理由はいたってシンプルで、「積極的に結婚したい相手ではなかった」から。
前述したように、異性としての好意はほぼなかったため、なんだかんだ結婚に踏み切れていなかった。
我ながらつくづく自分が嫌になるけれど、私は結婚できる人を逃したくなかっただけで、コウスケを逃したくないわけではなかった。心のどこかで、自分が本当に好きだと言える相手を求めていた。
そんな風に現実から目を逸らしつつ生きていた私は、ある日友人が飲み会に連れてきた年上の男性と出会った。
この男性が後に2人目の彼氏になる人で、名前はヒロヤとする。
香水のいい香りがして、色白で背が高く、俗にいうイケメンというやつだった。ハーフだった彼の端正な顔立ちは、華やかすぎて三度見した。
誰もが知る大手企業のエンジニアをしており、超優良物件という文字を擬人化したような人だ。
そしてコミュニケーション能力が極めて高い男で、私のようなちょろい女はあっという間にヒロヤという沼に招かれてしまった。
初めて出会った日の飲み会は盛り上がり、参加メンバー全員で始発までカラオケを楽しみ、かなり仲良くなってしまった私達は連絡先を交換した。
この時、彼氏がいることは伝えていた。
でも、結婚するほど好きになれていないという、余計なことまでも伝えてしまった。
私はもうこの時には、気づいていた。
まずい。ヒロヤに一目惚れしてしまったんだ、と。
後日ヒロヤからサシ飲みの誘いがあり、何回かそれが続いた。
そして3回目のデートで、今の彼氏と別れて自分と付き合って欲しいと言われた。
その時、もう私はヒロヤが好きだったが「わかった」と即答はできなかった。
なぜなら彼に結婚願望がないことが、会話をする中でわかったから。
結婚する気のない人と付き合ったところで、いつか来る悲しい別れに泣くだけだ。
でもこれを読んでいる方がご存知のように、私は二股をかけてしまった。
つまり、結果的には私は「別れた」と嘘をついてヒロヤと付き合い出したのだ。
好きなのはヒロヤだけど、将来を考えてコウスケは切れなかった。
独身だから厳密には犯罪ではない。この選択が正解なんだと、当時の私は必死に自分へ言い聞かせた。