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エッセイ【この地球上にたったひとりしかいないから!】
「もうちょっと僕を大切にしてください」
学校から帰ってくるなり長男が言った。次男である末っ子が生まれてすぐ、たしか小学1年生の時のこと。
「え?大切にしてるじゃない。何言ってるの?」
と聞く私に
「怒ったりしないで、もっと優しく大事にしてくれなきゃダメだよ。だって、僕は絶滅危惧種なんだから!」
と鼻の穴をふくらませた。
ぜ、絶滅危惧種!?
「学校で習ったんだ!数が減って絶滅しちゃうかもしれない生き物のことを絶滅危惧種っていうんだって。地球上からいなくならないように、大切に守らなきゃいけないんだよ。ママ、知ってた?」
「うん。知ってる。知ってるよ。でも、それで、なんでキミが絶滅危惧種なの?」
「僕は、この地球上にたったひとりしかいないじゃん!!いなくなったら絶滅しちゃうんだよ!」
長男が3歳の時に、妹である長女が生まれた。長男の赤ちゃん返りは、長女の妊娠判明とほぼ同時に起こってとにかく大変だった。ママ、ママ、ママ……常に追いかけすがりつき、泣く泣く、抱っこ抱っこ抱っこエンドレス。思うようにいかない子育てにイライラする自分。子どもはこんなに可愛く愛おしいのに。イライラして怒鳴ってしまう自分が情けなくて自己嫌悪。
次男を妊娠した時、長男がまたあの激しい赤ちゃん返りをしたらどうしようと心配になった。まわりのみんなに「もうさすがにお兄ちゃんだし、小学生なんだから大丈夫だよ」と言われた。たしかに、7歳離れた弟が生まれての赤ちゃん返りのようなものはなかった。
長女は、弟が生まれても変わらずマイペースで赤ちゃん返りもなかった。だから、私はほっとして、赤ちゃんのお世話に追われた。
でもやっぱり「お兄ちゃん」は寂しかったのかな。「僕はお兄ちゃんだから」って、もっともっと構って欲しいのを我慢しているのかな。
イライラしないで優しくわが子を大切に愛することができる母でありたい。「絶滅危惧種」という言葉に触れると、いつもあの日の感情を思い出す。
★エッセイの元になった課題本
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