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エッセイ【新しい世界―扉を開けてその先へ】
「手術、無事に終わりましたよ」声をかけられて目が覚めた。
手術室に流れている音楽を聴きながら「これなんて曲だっけ?」と思っているところに、「お薬入ります。ゆっくり深呼吸してくださいね」という声。あっという間に瞼が閉じそのまま記憶のない4時間。
そして、目覚めた瞬間から私の世界は一変した。
お腹が痛い。身体はとても疲れて眠いのに、急激にやってくる吐き気。自由に動かせず固まった腰が砕けそうに痛い。どこかが激しく痛い。ムカムカする。吐く。眠る。腰が痛すぎて頭おかしくなりそう。今度は急に熱い熱い熱い。吐き気が、お腹が、腰が……。
自分はまったく問題なく健康だと信じていたわずかひと月半ほど前の自分を思い出す。当たり前に続くと思っていた健康な日常生活。ふとした予感から気軽に受けた子宮癌検診の結果が、昨日までと今日そして明日の私を変えた。
病名は「子宮頚部高度異形成 上皮内癌」。癌になる一歩手前なんだそうで、「よかったね。まだ癌になっていなくて。子宮摘出したら完治だから」とドクターにサラッと言われ、頭がクラっとしたのが11月の始め、誕生日の2日後。今なんの症状もなく元気なのに、癌になる手前だったとは。
こんなに簡単に病気が自分の日常にやってくるなんて、まったく考えてもいなかった。
術後の痛い気持ち悪い吐くのループが過ぎた後は、声が出ない力が入らないできない動けない、もうこのままずーっとなにもしたくないという無気力状態。自分ってこんなにやる気のない人間だったっけ!?
地獄のような一日半が過ぎた頃から、少しづつ少しづつ「生きている自分」が今ここに戻ってきたのを感じられるようになった。
そう、生きている!
3人の子どもたちを育んだ子宮はなくなってしまったけれど、私は、今、ここにこうして、生きている。癌になる寸前で病気がわかり、これくらいの
つらさで済んでよかった。最悪のシナリオは、癌になって手遅れ、死を覚悟しなければ、だったのだから。
太陽の明るさが、月の光の美しさが、今まで以上に輝きを増し、小さな幸せが私の全身の細胞を喜ばせてくれていることを感じられる。
私の新しい世界の幕開け。
注釈*2021年12月1日に入院。翌2日に「腹腔鏡下子宮全摘術 両側卵管切除」手術を受け、術後の無気力状態脱出してすぐにこの作品を病室のベッドの上で書き上げたエッセイです。
★エッセイの元になった課題本
★文章執筆サロンで学んでます
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