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エッセイ【耳にこびりついているあの鳴き声】
小学生の時、飼っていた金魚やウサギと一緒に新しい家に引っ越した。小さな庭と池がある家。池で金魚を、ケージに入れたウサギは庭の隅っこで飼うことになった。
引っ越してすぐに気づいた。庭が猫たちの通り道になっていることに。毎日我が物顔でやってくる猫に、池の金魚はみんな殺された。
ある朝、ウサギのケージがひっくり返って開いていた。まっ白いウサギの毛の塊が落ちている。その毛を拾い上げ視線を移した先に、お腹を切り裂かれ倒れて死んでいるウサギの姿が……犯人は、猫だ。
その時から私は、猫が憎くて憎くて大嫌いになった。
2階の奥が子供部屋だった。その部屋の北側の雨戸を開けるのがめんどうで、正面と横の雨戸は開けても、裏にある北の雨戸は閉めっぱなしにしていることが多かった。ある日、閉め切っている雨戸の向こうから、小さな鳴き声が聞こえてきた。ミーミーとひっきりなしに鳴くその声を、私は聞こえなかったことにした。だけど、いつまでもいつまでも必死で鳴く声が聞こえていた。それからどれくらいで鳴き声がしなくなったのかは、まったく覚えていない。何時間?いや、何日?
鳴き声がなくなったことに気づいて、しばらく時間をおいてから恐る恐る雨戸を開けた。
……小さな子猫が、屋根の上にあった何かに引っかかって死んでいた。そのお腹にウジ虫が湧いてうごめいていた。悲鳴を上げ、窓を閉め、母を呼んだ。いや、悲鳴は上げなかったかもしれない。屋根に上り淡々と処理する母の背中を見つめながら、ミーミー鳴いていたあの子猫は、必死に助けを求めていたあの子猫は……私のせいで死んだのだろうか?そんなことを思った。私が、猫が憎いと聞こえないふりをしていたから?……だって、金魚もウサギも猫に殺されたんだよ!でも……。
私はあの日から憎んだり大嫌いになったりするのを辞めた。
今でもあのミーミー鳴く子猫の鳴き声が、私の耳にこびりついている。
★エッセイの元になった課題本
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