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君よ輝け!!
これは「フィクション」です
普段、プロトレーナーとして活動を続ける中で、いくつかの書籍を出版させて頂きました。そのような中で、ふとしたきっかけで母校へ訪れる機会を頂きました。今回は、その物語になります。
あれは2014年、同じグラウンドに立つものの、卒業して15年の時を経てから、また立場が変わって見える景色はまったくの別物でした。はじめは自分の勉強のためにとも考えたのですが、私に興味をもってくれる選手も出てきてくれました。
大学は学生さんの学び舎
ただ、大学という場所にいるということは、「学生さんの学び舎」であることを忘れてはいけません。プロトレーナーの自分が力を発揮するのではなく、「どうしたら学生さんたちの学びとして成長を促せるのか」と考えなければなりません。自分が教えることは簡単なのですが、ここがとても難しいところです。
そのような中で、4年生、スーパーエースの選手が大スランプに陥っていました。大学3年生にして10000mを27分台で走るような選手です。大学どころか、将来、日本を代表するような選手になってしまうのではないか、そのような選手がまったく走れないというようなことになっていました。
私の中には「こんな風にすると良いよ」と思うところはあります。そして、何度か話しかけるチャンスがあったものの、自分が出しゃばってもいけないという考えから、何もできずに時間が過ぎているところでした。
自分にできること
そのような中で、新たな「執筆」のチャンスが巡ってきました。「これだ」と思いました。学生さん自身が本を読み、自分で取り組んだのであれば、私が出しゃばったことにはならない、そのように考えました。
せめて一冊だけは選手のために書いてあげたい
それまで、マラソンブームというニーズの中、初心者からシリアスランナーレヴェルを対象とした内容に寄せていました。しかし、一冊だけ特にランニングフォームが他の本とは明らかに違うフォームで書かれています。それは、このような気持ちがあったからです。
そのような心持ちで、毎週水曜日、再び大学へ通うようになっていた私に、「合宿に来れるか?」と監督から声をかけて頂きました。まだまだ何もできずにいるそのような自分に声をかけて頂き、ご迷惑にならないのであればという気持ちで帯同させて頂くことにしました。
なるべくマンツーマンという形よりも、数名で「走るとは」「体型とフォーム」「坂と適正」というようなお話をしてみました。レクチャーは夜が多かったのですが「今、走りに行きたい」「これは自分が求めていた究極の感覚です」と、涙が出そうなくらい嬉しくも楽しいひと時でした。そして、さすがに選手たちはぐんぐんと吸収し、練習でも生き生きと、また前向きで精力的に練習に取り組んでいて、見ていて本当に微笑ましくも頼もしかったです。
内容に関しては、「本が出るまで内緒だよ」ということを守ってくれて、みんなありがとう。
一方で、大スランプの選手は、スランプすぎて合宿にも参加できない状態でした。ますます執筆に力が籠ります。日中は練習観察、夕方以降は選手のケア、夜のスタッフミーティングを終え、深夜に一人風呂に入った後、思うところを手直ししたり、メモとして残していました。そしてすぐに朝練。朝練は監督とジョグ。目を閉じても走れるほど覚えた野尻湖畔の道も、とても新鮮なかんじでした。
出版は卒業後
どうしても出版は間に合わず、次の年、つまりスーパーエースの選手の卒業後となってしまいました。しかしそれでも、実業団に進むことになっていたので、走り続けることは知っていました。その後、少しでも何かのプラスになれば、そのように考えていました。
そして出版からさらに一年後、ネットで彼のニュースを見る機会がありました。ハーフですごい記録が出たとのことです。走る姿を見てみると、どこをどう見ても書籍に表現したフォームで走っているようにしか見えません。ことの真相はわからないのですが、それまでの独特な走り方から、書籍に記してある独特なフォームで走っているのです(ビフォーアフターはネットで探してね)。
選手にとって、フォームを変えるということは、それほど簡単なものではありません。それまでの自分の必勝パターンですから、簡単に捨てることはできません。捨てられずに(変えられずに)消えていった選手は星の数ほど知っています。
そのような中で、高校でもスーパーエース級、大学でもスーパーエース級だった彼が、実業団に入ってからフォームを変えることは、本当にどれほどの覚悟をもって臨んだことか。想像するにも大変だったことが伺えます。
とくに、大幅すぎるほどのフォーム改造です。今までの全てを捨てて、まったく新しいことのチャレンジを成し遂げました。
彼こそが本当の勝者だ
そして、その翌年はGMCというオリンピック代表選考会。激闘に次ぐ激闘で選手たちがぶつかり合いました。そして優勝。
失礼ながら、生まれ持っての資質で頑張るのは誰にでもできます。それはご両親やご先祖様に感謝です。しかし、それをどうやって自分で花を咲かせるか、ここは自分の課題です。そして彼は戦うことを決意し、変えることを決断し、やり遂げました。彼は本当の勝者だと思います。
2021年元日現在、東京オリンピックはどうなるのか見えないところではありますが、ニューイヤーも快走しています。直接お話したことはないのですが、「ペンの力」を少しでも生かせたのであればと妄想している今日この頃です。
それではみなさん、2021年も良い年になりますように。
最後までお読み頂きありがとうございました。