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NYU上海校TESOL学会2024に初参加!

上海に移住して初めての学会参加です。NYU Shanghai(ニューヨーク大学上海校)は米国で初めて中国教育省から独立した大学で、中国華東師範大学と米国ニューヨーク大学2012年と共同事業として設立されました。ここにある英語教授法の修士課程(MA TESOL)の教授からお誘い頂き、TESOL学会2024に初参加させて頂きました。

まず衝撃的だったのが、インターナショナルスクールの先生たちの参加率…上海はインターナショナルスクール激戦区とは知っていたものの実践例の多くがインターナショナルスクールセッティング、つまりEMI(English Medium Instruction)環境を前提に議論が進められていました。小学校の英語の先生の発表もありましたが、語彙習得でL1を使用せずビジュアルとジェスチャーのみで小学校1年から英語は英語を徹底しているとのこと。そしてもう一つの衝撃が中国人の英語力の高さ(目を瞑ったらアメリカ人に聞こえるレベル)です。

今回の学会テーマはWhole Teacher, Whole LearnerということでEmbracing Wholenessの重要性が何度も取り上げられていました。Teacher wellbeingについて触れながらもPD(Professional Development)の議論が1番盛り上がっていました。先生が学び続けること、先生がマルチリンガルであることのメリットが言及され、各学校やインターナショナルスクールの取り組みや課題を共有するような流れでした。

NYU Shangahi Reception

中でも最も衝撃的だったのが上海の私立小学校で実践されているCLIL授業の実践例...4技能統合とかのレベルではなくCLIL×STEAM×EMI×アントレみたいな授業をしています。そしてこれらはIELTS受験を見据えたもので高考のためではないと明言していました笑

またインターナショナルスクールの取り組みで興味深かったのがこちらのParent Career Sharingです。確かに先生と保護者の関係が一変するはずだし、有料化して大学の公開講座の真似をすれば公立小中高の金ない問題は多少解決するかも...

そして学会に参加する3日前には恩師でもあるロンドン大学教育研究所のバイリンガリズムの権威であるLi Wei教授のウェビナー「Translanguaging as a Pragmatics Theory of Inferencing」を視聴しました。7年前はTranslanguagingの定義で議論が白熱していましたが、今でもやはり定義の問題が残っていてGarcía (2009, p. 140)が定義するthe act performed by bilinguals of accessing different linguistic features or various modes of what are described as autonomous languages, in order to maximize communicative potential.がまだ主流みたいです。修士論文ではcodeswitchingの研究をしたのでこの用語を使いたいと指導教官に伝えると「ダメ、絶対!」と言われたのを思い出します。つまり当時はまだ取扱注意の概念でした。

今回改めてLi Wei教授から概念的な話を聞き、腑に落ちた解説がいくつかあります。それはTranslanguagingは複雑な認知プロセスであり、自分が持ってるレパートリーをフル活用してコミュニケーションをとっていること、新しい言葉に出会った時の反応の仕方がtransmodalであるということ、そして人間の脳内には英語脳、日本語脳のような複数の言語毎に分かれていると思われがちですが、人間が名付けた言語(named language)に境界線はないというのが科学的な考え方であるということ。ちょっと最近の論文を漁ってみましたが、言葉のThird Spaceのような意味が合いがあるとのも新しい概念…そして何よりもTranslanguagingはGoing beyond Language- transcendingという言葉がしっくりきます。

上海に来てから衝撃の連発ですが、特に印象に残っている我が娘(Ewan)の幼稚園での例を紹介します。Ewanが通うインターナショナルスクール系の幼稚園では毎日先生と園児のやりとりの様子が送られてきます。そこにまさにPedagogical Translanguagingの例にぴったりの動画が送られてきたので紹介します。娘(Ewan)が発言するタイミングで他の園児がうるさくしたのでExcuse me.と娘に伝えるように言った後に中国語で「插嘴 不礼貌(話に割り込むのは失礼でしょ)」と言語切り替えをして指導しています。つまりクラスルーム内のdisciplineのために戦略的に英語ではなく中国語で指導しています。もし「失礼である」ということを英語で伝えた場合、生徒の受け取り方が変わるかもしれません。中国の文化的、社会的、倫理的背景を理解した英中バイリンガルの先生だからできるテクニックです。どのタイミングでどのように言語を切り替えた方が良いのか、どのようなジェスチャーやビジュアルを使った方が良いのか、どのような声のトーン、声の大きさで指導した方が良いかなどの指標が確立されていませんが、もし生徒の学びを最大化させるために適材適所で言語を切り替えることが有効であるとするならば、ここには研究の余地があるのではないか?と博士課程の研究計画を書きながら悩んでいます…

日本では「全部英語で教えた方が良い!」とか「オールイングリッシュ最高!」という信仰が根強く、今でも英語の先生がオールイングリッシュでパフォーマンスするような研究授業もあります。まだまだTranslanguagingという用語自体が知られていないので、オールイングリッシュの海で溺れる子どもたちを救えるように普及活動頑張ります。そして上海移住前に武田塾イングリッシュで想いを伝えましたが、ここの領域を追求したいと思います。

と思ってYoutubeで「トランスランゲージング」を検索してみたらLi Wei先生の「トランスポジショニング: トランスランゲージングとアイデンティティへの新たなアプローチ」という動画を発見しました!日本語同時通訳付きの動画なので是非ご覧ください。



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