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オールイングリッシュの終焉、トランスランゲージングの時代到来

まずはこちらの衝撃的な映像をご覧ください。

これは娘(Ewan)が発言するタイミングで他の園児がうるさくしたのでExcuse me.と娘に伝えるように言った後に中国語で「插嘴 不礼貌(話に割り込むのは失礼でしょ)」と言語切り替えをして指導している様子です。以前も紹介しましたが、こちらの映像が10万回再生以上していて、じわじわとトランスランゲージングの効果が感じられています。

今日も娘が通う幼稚園の授業参観に行ってきました。朝8時から11時までの3時間コースで、明日は弟の授業参観なので、計6時間幼稚園で過ごすことになります。「上海バイリンガル幼稚園の保護者会が大学の授業レベルだった話」のnote記事でも紹介しましたが、幼稚園の先生のレベルが超高く、教授法資格保持、教育大学院卒は珍しくありません。娘のクラスはBritanica International School, Shanghai出身の中国人の先生と教育歴20年以上&中国語ペラペラのアメリカ人ティームティーチングで行われています。

クラスルーム内は英語と中国語が飛び交います。80%が英語、20%が中国語の環境で、このような形態を正式にはバイリンガル幼稚園と呼びます。一方、中国語の使用を禁止するオールイングリッシュの環境を提供しているのがインターナショナルスクール、日本人学校(小学校の場合)は日本語以外の言語の使用を禁止していることもあります。子どもにとってどのような環境が最適なのか、これからの時代にはどのような言語学習が望ましいのかなど、不確定要素が多く不安が募りますが、これを解決するのがTranslangiaging(トランスランゲージング)という考え方だと思っています。

オールイングリッシュとの出会い

ことの始まりは2006年まで遡ります。僕が入学した山梨学院高校が文部科学省の研究指定校である「スーパーイングリッシュハイスクール(SELHi)」に選ばれ、3年間恵まれた環境で過ごすことになったのです。ちなみに上智大学の吉田研作先生に出会ったのもSELHiのお陰です。中学1年から英語を始め、当たり前のように文法訳読式を浴びてきた僕にとっては衝撃の連続です。公開授業が頻繁にあり、担任の堀内先生は英語と日本語を切り替えながら授業を進行していきます。ここで僕は英語にハマっていくことになったのです。

ここまでは順調で良かったのですが、長期休みに外部から外国人講師が招かれオールイングリッシュでの授業が始まった時の居心地の悪さは今でも忘れません。突然全ての授業が英語になり、授業の内容はもちろん英語の指示さえも聞き取れない…教科書も洋書を使ったオールイングリッシュに切り替わり、英語を浴びるだけ浴びたという感覚で何かを学んだという感覚は生まれませんでした。ちなみに公開授業のメディアの表紙を飾ったのは僕です笑

英語教育に対する問題意識

高校2年で英語塾を創業してからマーケティング用に文法訳読式からコミュニカティブアプローチなどを謳っていましたが、自分の中の最大のモヤモヤは「オールイングリッシュの効果」でした。ちょうど大学に進学するタイミングの高等学校新学習指導要領(2008)で「英語の授業は英語で行うことを基本とする」ということが示され、大学在学中に参加したいくつもの学校公開授業では英語で授業をする(パフォーマンスをする)授業が褒め称えられていて、そこからモヤモヤが爆発し、怒りに変わりました。

金髪だったけど母校で中学生英語教室の講師を担当させてもらった

EMIとの出会い

そこで大学院ではEnglish Only PolicyやL1 useなどで研究計画書を書き始めた時にEnglish Medium Instruction (EMI)という言葉に出逢います。EMIとはアカデミックな教科を英語で教えることを意味し、特に英語圏ではない国や地域などで使われる教授法を指します。この定義やメリット・デメリットについては勉強しまくりましたが、なぜかしっくりきませんでした。そこで出逢ったのがUniversity of OxfordのErnesto Macaro教授です。彼の研究論文を読み漁り、ようやくEMIの定義や意義を理解し、これを極めるしかないと決意し、(講演等では世界大学ラインキング1位だったからと説明していますが、)オックスフォード進学を決意しました。志願理由書ではErnesto Macaroの元でEMI研究をしたいと書いていたので、インタビューも彼にしてもらうんだろうと期待していましたが、当日の面接官はVictoria Murphyでした…(今は彼女の研究の方が興味ある)

Ernesto Macaroが所属するWorcester College

そこから話を進めていくとどうやら僕の興味範囲はEMIではなく、L1 Use(第一言語使用)ではないかという助言を受けることになったのです。当時は明確に語彙指導における第一言語使用の効果に興味があったため、もう一度研究計画書を書き直すことになったのです。

トランスランゲージングとの出会い

次に出逢ったのがTranslanguagingという言葉です。UCL Institute of EducationのLi Wei教授です。ちょうど2013年から彼はTranslanguagingという言葉を用いて論文を書き始めていました。そして2014年にはこちらの本をTranslanguagingの生みの親とも言われるOfelia Garcíaと共著で出版し、時代の最先端を走っていました。

2015年、修論を書き始めるタイミングでTranslanguagingの要素を取り入れたいとLi Weiに相談に行くと、Translanguagingの定義は非常に難しく取り入れるのは危険!取扱注意!という助言を頂きました。アカデミックの世界では1つの定義を曖昧にして議論を進めることは御法度です。ましてやまだ世にで始めたばかり用語を院生レベルが扱うのは確かに危険です。でもこの用語を用いてマーケティングが始まってしまえば誤解に誤解が生まれ、世の認知が歪んでしまいます。という危機感を持ちつつ、修論でTranslanguagingという用語を用いることは諦め、L1 Use(第一言語使用)という言葉に代替して修論を書き上げました。Li Wei教授は現在もTranslanguagingの権威として大活躍です。「NYU上海校TESOL学会2024に初参加!」でも詳しく述べています。

トランスランゲージング日本上陸

2018年には和書でもトランスランゲージング(translanguaging)が登場するようになり、コロナ後の学会発表では何度かTranslanguagingの発表を見るチャンスがありました。

トランスランゲージングは取扱注意なので簡単には発信できない…

そして2024年、Ofelia Garcíaの翻訳本「トランスランゲージング・クラスルーム――子どもたちの複数言語を活用した学校教師の実践」まで登場しました。

御法度であると承知の上で、YouTubeで「トランスランゲージング」について語ってしまいました…(アカデミアの皆様、申し訳ございません)

そして昨年コラボしたトド英語のnote記事でもこんなに素晴らしい発言に出会いました。

 そうですね。ひと昔前は「Total Immersion(完全没入法)」と言って、すべてをオールイングリッシュで学習する方法が良いとされていましたが、最近では、私が研究している理論である「translanguaging(トランスランゲージング)」という理論が注目されています。簡単に説明すると、複数の言語を使いこなす能力こそが最も重要な言語能力だという考え方です。自分の母国語を使いながら英語を学ぶことで、学習者の気持ちが楽になり、ストレスも減るんです。
 
 以前は、オールイングリッシュ学習法によって脳が言語間でスイッチングされると考えられていましたが、実際には私たちの脳がそのように「スイッチ」されることはありません。たとえば、私は今、韓国語でインタビューを受けていますが、急に英語を話す必要が生じたとしても、脳のどこかがスイッチされるわけではないんですね。
 実際に私や私の子どものようにバイリンガルの場合、韓国語と英語を並行して使うことによって、より豊かな語彙(enriched vocabulary)が育まれ、結果としてより豊かな思考力(brain power)が生まれます。ですから、1つの言語を学ぶ過程で他の言語が介入しても、決してマイナスにはならないのです。むしろ、2つの言語を並行して学ぶことによって、先ほどお話ししたようなFLA(外国語恐怖症)の減少にもつながり、学習効率が向上することが分かります。

【対談】オックスフォード大学の言語学者「チョ・ジウン」さんー#2. おうち英語はなぜ良い?

とりあえず今、日中英トリリンガル子育てをしている専業主夫の僕にできることは子どもの言語習得過程を記録すること。最初の動画もそうですが、どのようなトランスランゲージングが存在し、親や教師はどのように理解し、活用していくことが子どもにとって有効なのかについて勉強していきます。3年前のこちらの言語を戦略的に切り替える子どもの様子をご覧ください。

今は英語教育&IELTS先進国である上海で生活しているので、ここの環境を最大限に生かし、受信と発信を続けていきます。まずは2025年1月15日(水)に日中英トリリンガル教育を実践する上海のインターナショナルスクールHQISでこれまでの経験と今持っている知識を全て曝け出します!上海在住の方は是非ご参加ください!


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