飾り窓

Psy-Borg2~飾り窓の出来事⑪

店に向かう前にいつも立ち寄る古本チェーンでいつもとは違う棚を眺めていた。「起業人…起業人と」ブツブツ呟きながら雑誌を探す。先日リョウスケに教えてもらった副島社長のインタビュー記事が載っているバックナンバーを探していた。

「面白いからさ、読んでみろよ」

あの時コースターの裏に書いたメモを頼りに雑誌を探した。雑誌そのものはすぐに見つかったもののバックナンバーを探すのにひどく手間取ってしまった。

特集は「華麗なる転身」まるで畑違いの分野から別の分野で成功した人が特集されており、その中の一人として副島社長も名を連ねていた。

ページをめくるといつも見慣れたえびす顔の副島氏の写真が載っている。俺は他に何冊か目的の本を手にとってレジへと向かう。とりあえず知りたいのは技術者であった月島氏との関係性と、なぜ袂を分かったか?である。

多分にジュンイチとリョウスケから聞いた話の補完をしたいだけだった。

開店準備までのまだ時間がある。俺は早めに出社すると、コーヒーを入れ、待合室のソファで買ってきた本を広げた。一緒に購入した「表示価格以外は全てゴシップ」と言う週刊誌のバックナンバーやまるで関係のない本もあったが、まずは副島社長自身の話に興味があったため、リョウスケが好みそうな真面目な本を手にして、副島氏のインタビューを読み出した。

ー元は義肢製造の会社だったとかー

「義肢といっても色々ありますからね。その人の仕事、やりたいこと、したいことに対してそれを達成するための機能を重視し、最適なものを提供したりしていました」

ーその人の仕事に応じた機能や形状ですかー

「例えば、パラアスリートがタイムを出すためにはそれに最適な形状と機能が元々の手や足の形よりも優先されるわけです」

ー極端な話、絵描きなら指が全て筆だったりとか…ー

(苦笑)まあ、極端に言えばそう言うこととも言えますけどね」

ーその人にとっては邪魔なところもあるとー

「わたしも初めは私もそう思っていました。しかし解剖学など、色々と学んでいくうちにわかったんですね。この(と言って手を開いてこちらに向ける)人にそもそも備わっているこの形そのものが、足すことも引くこともできないほどに、機能的で完璧なものなんだってことをね」

いつも愛想良く、如才ない副島氏とは違って、やけにシリアスな感じを受ける。文字だけなので余計にそう思うのかもしれない。何故マリアブレーダー社をいわゆる社会貢献事業からいわゆる玩具製造会社へとチェンジしたのか、これからの需要のターゲットやマーケット動向など、頭の悪い俺にはチンプンカンプンだ。俺は斜め読みをしながら読み進めた。

「究極ね、わたしは人を作りたいんですよ」

そんな言葉が俺の目に入る。

「人が、人であるために会えて抱えているであろうコンプレックスを残した形。完璧ほど不完全なものはないんです。人はなにかを克服するために生きているからこそ、人足り得るんじゃないんでしょうか?」

ーたしかに「なんで胸やお尻を強調しないんだろう?」ってのもありますねー

「そういうのは市場にいくらでもあります。でも、人って完全なものに対しては愛情を感じない…というよりか畏怖ですね。もしくはフェティシズムの充足。でも本当に満足したいのはそこじゃない。愛情の充足なんですよ。それを造形で表したくなったんでしょうね」

俺には彼がなにを言っているのか皆目見当がつかない。しかし、それだけのこだわりを持っているのなら、自社のラブドールたちを「商品」呼ばわりされれば気に触るだろうな、と言うことだけはわかった。

ー最近は人工知能を使った人型ロボットの開発も行われてますがー

「わたしにはそれついては良くわかってないんですよ。むしろ息子の方が良く知っている」

名前は出てこないが、それがレイジのことだというのはすぐ判る。

「需要の拡大が見込めれば開発を進めるでしょう。息子の代ではそういうのが主流になるかもしれない。でも今はその「不完全であることで完璧な。人の外郭」を作り上げたいんですよ」

ー言葉を喋ればもっと近づくと思いますがー

「言葉って理論なんです。論理的思考を作り上げるブロックのようなね。わたしは時々ニュースに取り上げられるAIロボットを見ると、進化より退化を感じるんですよ。魂をね無理やりAIに代行させてるようで…本来人形そのものに魂が入っていなかったら、そこに人型があっても単なる計算機と同じように感じてしまってね」

わからないながらもとても興味深い話が続く。改めて彼の頭の良さを感じられた。ただ、俺が知りたかった月島氏との確執の話には言及されていなかった。俺はその雑誌を置いて、次の本へと移ろうとした時、そこへ連続して二通のメールが届いた。

つづく

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