Psy-Borg2~飾り窓の出来事㉑
「店長の家、まるで反対側じゃないですか?なんでこんなところにいるんです」
訝しげな様子で見下ろすその顔に見覚えがある。
(レイジ…)
俺の中で不安と恐怖が膨らんでいく
「お前…」
「俺ん家はこの近くっすよ」
「何しに…」
聞きたいことが山ほどあるはずなのに、声が出てこない。
「何しにって、研究に行き詰まったから息抜きに散歩ですよ。いつものことです」
レイジはいつもの自分の聖域に、見知った他人が入り込んできていることに対して嫌悪感があるようだ
「お前、何をした」
「はあ?」
眉根を吊り上げ、苦々しい顔つきで俺を見下ろす。その表情を見て、奴が俺に隠れて何かをやっていると確信した。俺はうなだれて弱々しくレイジに聞いた
「レイジ。お前はあの娘達に何をした…」
「あの娘?誰のことです。俺、店長と女がバッティングしたことなんてありましたっけ?」
俺は目を見開いて顔を上げると、つい湧き上がってくる怒りのような感情を抑えきれず声を荒げた。
「誤魔化すな!店の人形達にだ!メンテとか言いながら、何か細工をしていただろう、俺は見たんだ!俺は…」
奴は深くため息をつき、呆れたような表情を見せた。
「何を見たっていうんです?まぁ、他のバイトと違って親父の会社の商品ですからね、念入りにメンテはしてますよ」
儀式…魂を呼び込む儀式。…よりませ よりませ…
「あ、あの娘に抱きついて、耳元で何かを…囁いて…」
「なんだ、見てたんすか?」
チッと舌を鳴らす。やはり…こいつが「ルナ」に魂を吹き込んだんだ。レイジは「仕方ない」と言った表情で話し出した
「まあ(愛撫に反応するラブドール )なんて話は親父とのやり取りで耳にしてるとは思いますがね。秘部に触れたら喘ぎ声を出すような、そんなおもちゃみたいなもんじゃなくて、もっとうちの商品らしい精緻で敏感な反応をするものを作りたいってのが、親父の望みなんですよ」
憂いのある瞳、求める唇。
あの時、ルナは確かに意志を持って俺を誘ってきた。
「ところで、店長どこまで見たんです?」
俺はあんぐりと口を開けたまま、何も答えることができなかった。
「これは口外しないって約束できますかね」
近づいてくるレイジの、その美しすぎるその顔に、何か黒く、邪な言いようのない不気味なものを感じた。俺はただ頷くしかなかった
「最近、個人情報保護だなんだとうるさいんでね、こんなことをしているって知られたら厄介なんでね」
レイジは呆れたように溜息をつくと、また話し始めた。
「昔は親父の会社は義手とか医療補助器具を作ってたんすよ。その時、共同経営者ってのがいてね、造形を親父が、機能なんかをその人が担っていたんですよ」
月島幸次のことだ。ジュンイチの話だとレイジは彼と副島氏の前妻との不義の子ということになる。そんな疑問が表情が表に出たのだろう。レイジはあからさまに嫌悪の表情を見せた。
「ジュンイチが触れ回ってんの知っていますよ、馬鹿げた話だ。俺もそれなりに悩んだしDNA検査もしたけどね、俺は間違いなく親父の息子だよ。それにお袋は奴のことを嫌っていたからね。そんなことありえねないっすよ。まあ気にもしてねぇけど。親父もああやって人当たり良くしているけど、結構な闇抱えているんすから」
そう言うとニヤリと笑った。
つづく
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