【架空の世界のモノガタリ①】
【架空のお話#1】
#オリンピック反対
これはどこかの世界の架空の物語。
とある小国に一人のアスリートがいた。彼の才能は世界で通用できるほどに長けていた。
しかし彼の国は貧しく、満足な練習もできなかったが、様々な人に支えられ、彼は力をつけていった。
国民の後押しもあって彼は唯一のオリンピック選手になった。
彼は国の英雄だった。
国民は彼に自分を投影し、政府は全面的に彼を支援し応援した。
彼の国にとって「参加することに意義がある」という言葉は、そのままの意味で実感されるものだった。
パンデミックが起こった。 どんな病気かわからない。
人類が経験したことない混乱が起こった。
オリンピックを開催するかしないか、世界の意見が割れた。
世界的な感染を抑えるには、止めるという選択肢もあった。
これを逃せば、彼は肉体的にも年齢的にも次のオリンピックには出れないだろう。
しかし彼は、ただ自分ができる事を黙々と続けていた。
「充分な対策をして開催する」 開催国が声明を出した。
「これで我が国の英雄が活躍する場所ができた。我々の国とは違って開催国は先進国だ、きっと安心で安全なのだろう」
各国が参加を検討する中、彼の国の政府は参加を決めた。
国民は歓喜した。
不安が払拭されたわけではない。
リスクはまだまだ大きかった。
しかし彼は、ただ自分ができる事を黙々と続けていた。
出発当日、多くの人が彼を見送った。
マスクで表情はうかがえないが、皆期待と羨望の目で彼を送り出した。
彼は何人かのクルーと共に彼の地へ立った。
ここで世界中のアスリートが平和のためにスポーツで対話するのだ。
彼は少し興奮した。
到着すると、ある部屋に案内された。ここで2週間様子を見るという。
練習も制限されるどころか、小国故に特別枠も取ってもらえずただ待機するしかなかった。
しかし彼は、ただ自分ができる事を黙々とやり続けた。
数日後、彼は戦っていた。
充分な対策と医療態勢の中、彼はアスリートではなく人間として戦っていた。
未知のなにかと戦っていた。
そして彼は勝った。
しかしオリンピックの出場は叶わなかった。
そして重い後遺症をおってしまった。
彼は帰途に着いた。
出発時あんなにいた群衆は誰一人として出迎えてくれなかった。
程なくして彼に向かって誹謗中傷が始まった。
出場できなかったのは彼のせいではない。
それでも矛先は彼に向かった。
ちゃんと自己管理できなかったのは彼自身のせいだったと責め立てた。
彼の国は就学率が低かった。
ニュースだって見る余裕のない日々を送っていた。
だから開催国が、実は自国民を助けるのに精一杯で、彼にまで充分な医療が届かなかった事を知らない。
政府はアスリートとしての価値を失った彼に関わる余裕もなく、補償を与えることもなく、彼は平民へと戻された。
彼は悲しみ、憤り、打ちひしがれた。
何に向かって怒れば良い?
開催を強行したIOC?
なし崩しに開催した開催国?
自分を国益としか考えてなかった政府?
無知で無能なのに罵倒してくる国民?
答えは出るはずもなかった。
考えれば考えるほど出口はなかった。
怒りの応酬は彼を酷く疲弊させた。
一番楽な方法は、矛先を自分に向ける事だった。
そして彼は、彼に負けた。
ある共同墓地の一角。ひっそりと彼の墓標が建っている。そこに一輪の花が供えてあった。
これはどこかの時間軸の、ある小さな国の架空の物語。